江戸時代の老親介護「担い手は男性メイン」の理由 核家族化が進んだ江戸時代「庶民の介護」事情
東洋経済オンライン / 2024年10月30日 18時30分
夏は暑さで体を壊さないよう、うちわであおぎ、気血のめぐりに良いだろうと湯浴みもさせ、冬には温かくなるよう母の寝床に藁(わら)を入れたそうです。農事が忙しいときでも、日に3~4度母のもとへ行き、寝床に敷く藁と薬の状況を確かめてから田畑に向かいました。
七郎右衛門は「郷横目」という役人としての顔も持っていましたが、そちらの仕事もおろそかにせず、母の世話と仕事とを両立。その孝行ぶりが領主に聞こえ、褒美として銭をもらいました。
百姓としての農事、郷横目としての職務と、中風になった母の介護の両方にそつなく取り組んだ事例です。現在でも介護と仕事の両立は大変で、高齢化が進む中で社会問題として認識されつつありますが、当時も同様の状況が生じていたといえます。仕事をしつつも、親孝行を決して疎かにしなかったことで表彰されたわけです。
認知症介護の実態
・備後国(現在の広島県東部)三上郡永末村に住んでいた「さこ」
「さこ」は三上郡永末村の百姓・孫七の妻で、14年前に結婚して夫・義父母と同居を始めました。結婚当初の義父母は元気だったものの、14年の間に老衰。義父は目が不自由となって耳も遠くなります。さらに先ごろ中風を患い、話す内容が分かりにくくなり、歩行も難しく、廁に通うことすらも困難になりました。「さこ」は時間を測って義父の用をさせて、どんなに急ぎの仕事があるときでも、義父の助けを最優先で行いました。
一方で義母は10年前から心と行動に異常がみられるようになり、「さこ」を怒り、ののしり、近くに来るなと追いやるようになりましたが、「さこ」は物やわらかにいいなだめて、篤く介抱し続けました。あまりに義母の状態がひどいので、親族が「夫婦でしばらく別の家に移り住んだらどうか」といったところ、「さこ」は「誰が二人の面倒をみるのか」と反対しましたが、話し合いにより結局は別居することに。
しかし別居後も「さこ」は朝夕の食べ物を届けます。義母は「夫婦で食べて余った物を持ってきているんだろう!」などといいましたが、「さこ」は介抱を続けました。
その後2年が経過し、義父が完全に盲目となったため、義母一人では心もとないとして、「さこ」と夫は元の家に戻ります。義母の物狂わしさはますますひどくなり、義父は自力で食事もとれなくなっていました。「さこ」は手ずから箸を取って義父に食事をとらせ、背負って寺社へのお参りなども行います。
その後、「さこ」の夫が先に亡くなり、夫の死から1カ月後に義父も74歳で亡くなります。その後、義母は不幸が続いたせいで悲しみ、自然と慈しみの心も生じて、「さこ」と仲睦まじく暮らしました。安永6年(1777年)、領主が「さこ」を孝行者として認め、褒美として米を与えました。
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