24歳「現役アイドル✕気象予報士」大胆挑戦の裏側 椿野ゆうこさん物語(前編)
東洋経済オンライン / 2024年10月31日 8時0分
5%。これは気象予報士試験の合格率を表す数字だ。
合格率が低い超難関試験として知られ、気象庁にはわずか1万2095名のみが気象予報士として登録されている(令和6年3月29日現在)。
そんな気象予報士試験に合格し、晴れてお天気キャスターとしてデビューしたアイドルがいる。椿野ゆうこ、24歳。
アイドルグループ「ひめもすオーケストラ」所属。
元気いっぱいにステージでパフォーマンスを繰り広げる彼女は、どうやって気象予報士となったのか。アイドルであり気象予報士でもある、椿野ゆうこに迫る。
*この記事の続き:「"自死遺族"の苦しみ」24歳アイドル、告白の真相
「お天気キャスターとしてもデビュー」したアイドル
「小さい頃、気温の変化にすごく惹かれたんです。同じ場所なのに気温が全然違うってことが面白いなと思ったんです」
【写真で見る】「"自死遺族"の苦しみ」を告白し、大きな反響を呼んだ、24歳「アイドル✕気象予報士」の椿野ゆうこさん、その素顔
こう天気に興味をもったきっかけを語ってくれたのはアイドルグループ「ひめもすオーケストラ」のリーダー、椿野ゆうこ(24)。
ステージでパフォーマンスを繰り広げるライブアイドルであり、最近では写真集なども出すグラビアアイドルとしても活躍している。
彼女のもうひとつの顔が、気象予報士である。
気象予報士といえば、合格率5%前後といわれる超難関試験。そんな気象予報士試験を突破し、今年9月からお天気キャスターとしてもデビューを果たした。
ライブアイドルである彼女が、いったいなぜ気象予報士となったのだろうか。
その原点は彼女の幼少期にあった。
「母が青少年科学センターの仕事をしていて、小学生の頃、よくそこに遊びに行ってたんです。そこで科学に興味を持ったのが最初ですね。気象コーナーとかで学んで。それで天気が好きになりました!」
生まれは京都府。京都市青少年科学センターに通ううちに科学を好きになり、なかでも、竜巻の発生メカニズムや気温や風速の測定など、気象コーナーの天候に興味を惹かれた。
何度も通っているうちに椿野はみるみる科学大好き少女、今でいう「リケジョ」(理系女子)となっていった。
夏休みの自由研究は、もちろん毎日の天候観測。毎日の観測で小学生ながら「あること」に気がついた。それは寒暖差が大きいということ。
「京都は盆地なので寒暖差がすごいんです。小学生の頃、毎日気温を測っているうちに『同じ場所でもどうしてこんなに1日の中で気温が違うんだろう? 面白いな』って思ったんです。その頃からですかね、漠然とですが『天気の研究をしていきたいな』と考えたのは」
高校生で「気象予報士になろう」と決意
そう。彼女が最初に考えていたのは研究することだった。
小中学校の頃は漠然とではあるが、天気の研究をしたり、理科の先生にもなりたいとも思った。そして高校1年生の頃、「気象予報士になりたい」と強く思うようになった。
「高校1年生の頃に文理選択があって、その頃には気象予報士になろうって決めました。テレビでお天気キャスターの方を見て、『私もなろう』って憧れましたね」
天気好きの少女は、高校を境に本格的に気象予報士になろうと決意した。
だが運命とは面白いもので、彼女は気象予報士となる前にアイドルになっていた。
「アイドルはずっと好きだったのですが、高校の頃に欅坂46さんの曲に本当に救われていたんです。特に長濱ねるさんが大好きで、憧れでしたね。もちろん、自分がアイドルになろうなんてこの頃は思ってもいなくて、ただただ曲を聞いたりライブに行ったりで救われていました」
欅坂46に救われた。
進学校で有名な高校に行った椿野は、教室内で自らの存在意義を見失っていた。
部活は家庭部で、どちらかといえば地味な存在。中学ではできた勉強も、高校に入ると成績は下から数えたほうが早いくらいに。
「自分はダメな存在なんだ」
そう思い、他の生徒に比べてあまりにもできない自分を責め続けた。
「自分のできなさをすごく感じて。要領も悪いし、一度聞いたこともすぐに覚えられないしで、自分のことをすごく嫌いになっちゃったんです。朝起きて学校行くのが嫌すぎて泣いてました……」
自己嫌悪。そんな椿野を支えたのが、乃木坂46や欅坂46などのアイドルの存在だった。彼女たちの曲を聴き、椿野は落ち込む自分自身を励まし続けた。
そして大学受験を控えた年、思いついたかのようにアイドルオーディションを受けることになる。
「アイドルオーディション」への挑戦した結果⋯⋯
「受験勉強中にオーディションがあることを知りました。アイドルにずっと支えられてきたので『自分もそんな元気づけられる存在になりたい』と思って、受験生ですがオーディションを受けに東京まで行きました」
それは椿野が憧れたアイドルの合同オーディションだった。
結果は3次選考まで進むも合格とはならず、悔しさが残った。
「受験生なのに夜行バスで東京に行って……両親には怒られましたね。アイドルになること反対していました。でもオーディションに落ちた悔しさはずっとあって、『大学に合格したらアイドルになろう』って決めていました」
このときのオーディションはダメだったが、日々の勉強が実り、茨城大学理学部に合格。専攻はもちろん気象学だ。
アイドルと同時に大好きな天気への探求心も大きな晴れ間を見せていた。
2020年、大学に入学してすぐに、現在所属する「ひめもすオーケストラ」のオーディションを受け合格。晴れてアイドルとなる。
だが、世は折しもコロナ禍真っただ中。
キラキラとして憧れていたステージとは程遠い無観客ライブでのアイドルデビューとなり、有観客でのデビューは少し先となる。
その分、ファンの前でのステージデビューの感激はひとしおだった。
「ステージに立ってみて『アイドルはこんなに楽しいんだ!』って思いました。ペンライトを振ってくれるファンの方もいて感激しました」
これまで「憧れ」として見ていたアイドルに自らがなり、ステージに立った。アイドルとしての活動が本格的にスタートを切る。
同時に大学生としての生活も慌ただしくなる。
「ライブやレッスンのために茨城と東京を往復していました。授業も課題などで忙しくて大変でしたね。1年生のころにはじめて気象予報士の試験を受けたのですが、本当に難しくてかないませんでした」
「エルニーニョ現象」「ラニーニャ現象」は本当に面白い
こと理系となれば、必修科目を終えれば専門的な研究が待っている。
「大学ではエルニーニョ現象、ラニーニャ現象を研究していました。やっぱり気温の差ってほんと面白いんですよね。みんなにも、もっとこの面白さわかってもらいたいな~(笑)」
ちなみに「エルニーニョ現象」とは気象庁による解説では、太平洋赤道域の日付変更線付近から南米沿岸にかけて海面水温が平年より高くなり、その状態が1年程度続く現象。逆に、同じ海域で海面水温が平年より低い状態が続く現象は「ラニーニャ現象」となっている。
椿野の卒業論文は、これが研究テーマだった。
そうして、アイドルをしながら学業との文武両道で、気象予報士試験の合格を目指すことになる。
これには、椿野の夢と同時にしたたかさも垣間見えた。
「アイドルとして個性を出して売れるために何が必要かと考えたときに、『今、現役(アイドル)で気象予報士になっている人はいない』と思ったんです。アイドルを卒業されてからなった人はいても、現役はいないなと思って。それで、なおさら合格しようって頑張りました」
群雄割拠を極めるアイドル界において「個性」「差別化」は必須要素だ。
しかし、その差別化で「気象予報士となる」というのは、ほとんどのアイドルには真似できないことだろう。なお、アイドルとしては当時、
有言実行。2024年、椿野は気象予報士試験に合格。見事、現役アイドルにして気象予報士となったわけである。
ただその根底にはずっと幼いころから抱いていた天気に関する興味があり、そして高校の頃に救われたアイドルへの憧れが重なった結果であろう。
気温差の面白さを語ってくれた椿野だが、我々はアイドルと気象予報士の緩急をこれから存分に楽しませてもらえることになる。
*この記事の続き:「"自死遺族"の苦しみ」24歳アイドル、告白の真相
松原 大輔:編集者・ライター
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