キリンの「クラフトビール」が苦戦、10年目の大反省 大量の広告投資から転換、事業部立ち上げ再起
東洋経済オンライン / 2024年11月2日 7時40分
「クラフトビールの魅力は歴史・文化・創造性。(一番搾りのような)一般的なビールと同じ伝え方では無理。スピーディーに量を売るのではなく中期的に取り組む。事業部の設置はこうした意思の表れだ」(大谷氏)
「反・大量生産」のブランドだったが・・・
そもそも、スプリングバレーはビールの大量生産に対する疑問から生まれた商品だ。キリンがブランドの構想を開始したのは2011年。当時、世間では「ビールは味がどれも同じ」「ワインや日本酒に比べて安っぽく工業的」といった評価がなされていたという。
効率よく量産し、競争してビールの価格を下げてきた大手メーカーが、ビールを退屈にしたのではないか。そんな反省から、キリンビールの礎とも言えるスプリングバレーのブランドを用いて、クラフトビール醸造所を設立するプロジェクトが始まった。
当初は業務用で、料理の特徴に合ったクラフトビールを組み合わせる提案や、ほかのクラフトブルワリーとのコラボレーションなどを実施。一般的なビールでは珍しい取り組みを進め、クラフトビールを飲食店へ草の根的に普及させていく活動に力を注いでいた。
ところが、2021年に家庭用の缶商品「スプリングバレー 豊潤<496>」を全国発売し、方針は大幅に変化していく。
テレビCMを大量投入し、多額の広告宣伝費を使用してきた。全国の小売店へむらなく展開するための大量生産、大がかりな広告投資は当初の理念と相反する行動だった。
国内のクラフトビールに明確な定義はないが、ヤッホーブルーイングによれば「小さな醸造所が造った、造り手たちの革新性から生まれた多様な味わいのビール」のこと。スプリングバレーを製造するのは「小さな醸造所」ではない。
原点回帰で盛り返せるか
業界関係者からは「このままではスプリングバレーは消えていくだろう。小さなブルワリーの運営にとどめておけばよかった」との厳しい声も聞こえてくる。
スプリングバレーの元々の理念に立ち返り、再出発を決めたキリン。一番搾りや「晴れ風」など、標準的な価格帯のスタンダードビールを大量生産と大規模な広告投資でヒットさせた同社にとって、クラフトビールはまだ経験値の浅い商品群といえる。
「大手メーカーが大量生産するクラフトビール」という矛盾点を抱えつつ、どうブランドの再成長につなげていくのか。キリンにとって、スプリングバレーの拡販は長い道のりになりそうだ。
田口 遥:東洋経済 記者
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