独身で養子迎えた韓国人の彼女が語る率直な理由 結婚は当たり前なのに養子縁組は特別視に疑問
東洋経済オンライン / 2024年11月4日 8時30分
「非婚(=結婚しない生き方)」を選んだ韓国の編集者ペク・ジソンさんは、2人の子どもと養子縁組をして家族になりました。独身のジソンさんがなぜ子どもを迎えようと思ったのでしょうか。ジソンさん著『結婚も出産もせず親になりました』より紹介します。
子どもを産むつもりはなかったけれど…
昔から、結婚をしてもしなくても養子を迎えたいと思っていた。未来を楽観できない世の中で子どもを産みたくはない。きちんと面倒をみてもらえていない子どもたちが大勢いるのに、わたしが新しく産まなくてもいいんじゃないかな? こんな考えも頭の中を占めていた。
そんなわけで子どもを産むつもりはなかったけれど、子育てはこの世で最も価値のあることだと思っていた。姉が土日出勤をするときに子どもたちを預かった経験も多かったから、子育てはわたしにとってまったく不慣れではない、自然なことだった。
ずっと別々の人生を歩んできた異性と結婚して同居するのはあたりまえだとみなされているのに、養子縁組は特別視されていることに納得がいかなかった。結婚を後悔している人は多くても、子どもを育てていることを後悔している人はあまり見たことがない。わたしは結婚の成功率より、養子縁組の成功率のほうがずっと高いと思う。
養子縁組について検索すると、養子を迎えたいという未婚女性や離婚女性の書き込みが簡単に見つかる。2008年、わたしは韓国において「独身者でも養子を迎えられる」という情報を発見した。制度が変わったのだという。
時が来た、と思った。ただ、その前に解決しておくべきことがあった。わたしの体の中では子宮筋腫が育っていた。かなりサイズが大きくて、病院で検査を受けるたびに手術を勧められた。
その翌年、わたしは手術を受けた。摘出した筋腫は直径10センチをはるかに超えていたらしい。どうりでおなかが出ていたわけだ。術後はウエストがすっきりして、体重も数キロ減った。
手術前の浣腸に戸惑ったり、術後にはじめて食事をしたときは激しい嘔吐に見舞われたりもしたけれど、病院のベッドでゴロゴロしながら久しぶりに数日間ゆっくり過ごした。のんびり小説を読んで、スマホでドラマを視聴し、病院の屋上でぼんやり夕日を眺めたり、軽い散歩を楽しんだりした。
体調が整うとすぐに養子縁組の準備にとりかかった。もっとも知名度の高い養子縁組機関を訪れて相談を申し込み、養子縁組と育児に関する本を十数冊買った。
2010年に長女を、2013年に次女を養子に迎えた。2人の子どもと養子縁組をしたことは、わたしの人生で最もすてきな選択だった。
週末に子どもたちとゲラゲラ笑いながらおしゃべりをして、やるべきことを一つも終えられなかった夕方、ふと今がわたしの人生でいちばん幸せな瞬間かもしれないと思ったりもする。
迎えたのは生後3カ月の赤ちゃん
生後3カ月だというその赤ちゃんは、わたしを見るやいなやにこにこ笑いながらよだれを垂らした。はじめて見た相手にどうしてこんなに心を許せるんだろう? 赤ちゃんは抱っこされてもまったく嫌がらず、わたしの顔をじっと見ながら笑った。人懐っこい子だなと思った。
まもなくしてこの子を正式に引き取ったわたしは、養子縁組機関を出るやいなや町内の住民センターに直行した。赤ちゃんを誰にも奪われないように、出生届を出すためだ。養子縁組機関で教えてもらった誕生日を記入して出生届を出し、提出遅延の罰金を支払った。
当時の韓国ではこんなふうに養親が養子に迎えた子どもの出生届を出すケースが一般的だった。この2年後の2012年に養子縁組特例法が改正施行され、現在は生みの親によって出生届が提出されていない子どもと養子縁組をすることはできない。(*1)
子どもを迎えると、わたしは家に宝箱を隠し持っているような気分になった。会社での仕事にもがぜんやる気が出た。
マットレスで四方を囲める折りたたみ式の添い寝ベッドを購入し、これを自分の枕元に置いて赤ちゃんと一緒に寝た。夜中に何度か起きて、すやすや眠る赤ちゃんをのぞき込んだり、ちゃんと息をしているかどうか鼻の下に指を当てて確かめたりした。
育児本で読んだ乳幼児突然死症候群が怖かったのだ。眠っている間に何の予兆もなく赤ちゃんが突然死することがあり、うつ伏せ寝のときに発生しやすいという。
添い寝ベッドを用意したのは、うつ伏せ寝を防ぐためだった。マットレスで囲まれた小さな空間の中で寝返りを打とうとするとベッドが傾いて、わたしが目を覚ますか赤ちゃんが自然とあお向けの姿勢に戻る。寝ている間に呼吸を確認する作業は、赤ちゃんがずりばいを始めるようになるまで続いた。
独身で養子を迎えるということ
会社勤めをしながら子育てをするために、わたしは当初、4〜5歳ぐらいの女の子を養子に迎えようと考えていた。それぐらいの年齢なら保育園に通わせることができるし、朝と夕方の数時間だけキッズシッターを依頼すればいいから、仕事にも大きな支障はなさそうだと思った。女の子を引き取ろうと思ったのは、自分が女だという単純な理由からだ。
でも、最初の養子縁組相談で社会福祉士の話を聞いて、考えが変わった。養子縁組機関に預けられた子どもは、満1歳を超えると「年長児」と呼ばれる。年長児は親密な親子関係を築くまでに長い時間と努力が必要となるだけでなく、そもそも4〜5歳の養子候補者は見つかりづらいという。養護施設に預けられている幼児や児童は多いけれど、生みの親が親権を放棄しているケースはまれだからだ。
社会福祉士のアドバイスに従って、わたしは乳児を養子に迎えることにした。年長児との養子縁組は、もっと子育てに専念できる家庭のほうがよさそうだった。まだ養子を迎えてもいないうちからキッズシッターの依頼を検討しているような会社員には難しい。
数年後に生後10カ月の次女を引き取ったとき、わたしは1歳近い子どもを養子に迎える難しさを少なからず味わった。長女は生後3カ月でわが家にやってきたので、自分が産んだのではないかと錯覚してしまうほど育児がスムーズに進んだけれど、次女は新しい環境に慣れて精神的に安定するまでにかなりの時間がかかった。
*1…子どもの「出自を知る権利」を重視した改正だが、新たな問題も発生している。未婚の母などがプライバシーの問題から出生届を出すことをためらって養子縁組を選ぶことができず、匿名で利用できるベビーボックスに預けられる赤ちゃんが増えている。
※
(後編:独身で養子を迎えた彼女「親には言わなかった」訳)
(翻訳:藤田麗子)
ペク・ジソン:編集者
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