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トヨタとNTT、5000億円規模「AI安全基盤」の中身 事故を未然に防ぐ業界共通のプラットフォーム

東洋経済オンライン / 2024年11月7日 10時0分

第2の基盤は、インテリジェントな通信基盤である。車からの位置や速度、周辺状況などのデータを絶え間なく収集し、人やインフラとの情報連携を実現する。これまでの通信は「つながる・つながらない」の二択という状況だった。これに対し、つながりにくくなる状況を察知して賢く通信相手を切り替えながら、途切れない通信環境の実現を目指す。

第3の基盤は、モビリティAI基盤だ。島田社長はこれを「ラージモビリティデータモデル(LMM)」と呼ぶ。市場から収集した実際の走行データをAIが継続的に学習し、さまざまな運転シーンを生成する。これまでのAIは大量のデータが必要だったが、より少ないデータでも効率的に学習できる仕組みを構築。シミュレーションの精度を高めることで、自動運転支援やAIエージェントサービスの迅速な改良を可能にする。

協調と競争の新たな形

この構想の特徴的な点は、基盤を「協調領域」として位置付けていることだ。トヨタの佐藤社長は、通信・データ処理基盤を他の自動車メーカーにも開放する考えを示した。従来、各社が個別に開発していた基盤システムが共通化され、車両単体での開発コストは削減される。一方で、基盤上でのサービス開発は各社の「競争領域」となる。

この発想は、現代のデジタルプラットフォーム戦略と軌を一にする。基盤は共有し、そのうえでのサービス競争を促すことで、業界全体の発展を目指す。データ活用力やサービス開発力が、新たな競争軸として浮上してくる。

すでに通信業界からの反応も出始めている。KDDIの高橋誠社長は11月1日の決算会見で、この構想への参画に意欲を示した。同社はトヨタ製の車両など1000万台以上にネットワークを提供している。5G網や通信衛星を組み合わせた「途切れないネットワーク」の構築で貢献できるとの考えを示している。

本構想の実現に向けては、いくつかの重要な課題が浮かび上がる。最も大きいのは技術面での処理需要の規模感だ。前述のとおり、トヨタの試算では、2030年には現在と比べて通信量は22倍、計算量は150倍に膨れ上がる。これまでにない規模のデータをリアルタイムで処理し、AIによる予測や判断に活用できる基盤を、いかに構築していくのか。

実用化に向けての道のりも険しい。当面は日本国内でのモデルケース作りに注力するものの、グローバル展開に際しては各国で異なる規制状況や交通環境、通信環境への対応という大きな壁が立ちはだかる。

経済面での懸念もある。5000億円という巨額投資の回収について、NTTの島田社長は「コストは薄く広くご負担いただく」という考えを示し、長期的な視点での段階的な回収を強調する。極端な値上げではなく、徐々に吸収していく形で、持続的な投資サイクルを作り出すことを目指す。

石井 徹:モバイル・ITライター

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