マクドナルド「SNSでまた物議」失敗と言えぬ理由 「いまだけダブチ」キャラが"性的な2次創作"の餌食に…
東洋経済オンライン / 2024年11月8日 9時0分
10月23日からマクドナルドで販売されている期間限定商品「いまだけダブチ」のアニメキャラクター「いまだけダブチ食べ美」が大きな話題となっている。
【写真】露出が高い?「性的な2次創作」が多発したマクドナルドのキャラクター
キャラクター自体が話題になっていることもあるのだが、多くの2次創作がなされ、かつその中に性的なイラストも多数含まれていることで、批判の声も上がってしまった。
なぜ、このような問題が起きてしまったのだろう? このたびのマクドナルドのキャンペーンのやり方には問題があったのだろうか。
過去の炎上事例も交えながら、詳しく検証してみたいと思う。
【写真を見る】露出が高い?「性的な2次創作」が多発したマクドナルドのキャラクターと「過去炎上した女性キャラクター」たち(6枚)
「いまだけダブチ食べ美」自体は不適切ではないが…
ネット上で拡散している「いまだけダブチ食べ美」の2次創作イラストは、公序良俗に反するレベルのものが多数見られる。しかし、元のキャラクターを見ると、性的なところはないし、展開されているコンテンツを見ても同様である。
粗探しをすれば、足の露出が高いとも言えるが、ミニスカートではなく、ショートパンツを履いていて、露出を過度に意図しているようにも見えない。
SNSでは、「いまだけダブチ食べ美」というダイレクトな名前に対するツッコミは多数出ている。タレントの「でか美ちゃん」(旧芸名:ぱいぱいでか美)を連想した人もいるのかもしれないが、それが性的な2次創作を誘発した――とするのはこじつけだろう。
最近、ジェンダー表現は非常にセンシティブな問題になっており、炎上しやすい。しかし筆者が見る限り、今回のマクドナルドのケースではリスクマネジメントは十分にできていたように思う。
2010年代には、広告やPRにおけるジェンダー表現で多くの炎上が起こったが、その中には、大手企業、自治体や官公庁の事例も多数含まれている。
アニメキャラクターに関するもので言えば、三重県志摩市の海女をモチーフにする「碧志摩(あおしま)メグ」が挙げられる。このキャラクターは2014年に公開されたが、翌2015年には「性的」「女性蔑視」との批判を受け、署名活動まで起き、志摩市は本キャラクターの公認を撤回するに至っている。
なお、碧志摩メグのキャラクターは非公認となったものの、現在も存続しており、伊勢志摩のPR活動を行っている。
2010年代後半あたりから、女性のキャラクターを活用したプロモーションは飽和し、消費者も食傷気味になり、ジェンダー表現も厳しくなっていったため、下火になっていった。「萌え」という言葉も、すでに死語に近い状態になっている。
ダジャレではないが、下手に「萌え」でバズらせようとすると、「燃え」てしまう(炎上してしまう)ようになったのだ。
ジェンダー表現の問題以外に、SNSの情報発信の裾野が広がり、企業はオタクの情報拡散力に頼る必要がなくなったという時代の変化もある。
「萌え」という言葉が廃れる一方で「エモい」「尊い」「推し」といった言葉が使われるようになったのは、こうした環境変化が背景にある。
そうした流れから位置付けると、マクドナルドの「いまだけダブチ食べ美」の施策は、一見すると時代錯誤にも見える。
すぐ炎上してしまうアニメキャラ
2020年以降にも、アニメキャラクターの「性的表現」での炎上はいくつか見られる。
2021年には、千葉県警が松戸市のご当地女性バーチャルユーチューバー(VTuber)・戸定梨香(とじょうりんか)とコラボした交通安全啓発動画が、露出度の高さを問題視した「全国フェミニスト議員連盟」から「女児を性的な対象として描いている」と抗議を受け、削除されるに至っている。
2022年には、日経新聞朝刊に掲載された漫画『月曜日のたわわ』の全面広告に描かれた女子高生のイラストが性的だと物議を醸し、国連女性機関から抗議を受けている。
また同年、新宿駅に掲出されたアニメ『鬼滅の刃』の広告で、女性キャラクターの露出が多すぎると物議を醸した。
他にも、JR大阪駅に掲示された、対戦型麻雀ゲーム『雀魂(じゃんたま)』とテレビアニメ『咲-Saki-全国編』とのコラボ・ポスターが、バニーガールや水着姿の女性キャラクターが描かれていることで、議論となった。
これらはすべて、既存のキャラクターを活用したものであり、2010年代に起きた炎上とは少し事情が異なっている。
今年1月には、三重交通が男女の運転士のキャラクターを発表したが、女性のキャラクターが「腰をクネクネさせている」「腰がくびれすぎている」と批判を浴びた。もっとも、これは少数意見に過ぎず、実際は炎上しているというほどのことでもない。
9月には、京都市地下鉄に掲出された角川スニーカー文庫のライトノベル『時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん』のラッピング広告が批判された。ミニスカートの制服をまとった女子学生のイラストが「性的である」とされたのだが、数年前であれば問題にならなかったと思われるレベルのもので、賛否両論を呼んでいる。
「萌え」が「燃え」で終わってしまう時代
2020年代の状況を見ると、女性のアニメキャラクターは細心の注意を払って表現しないと、容易に批判を浴びてしまうことがよくわかる。
しかしながら、今回のマクドナルドのケースは、行った施策自体は炎上していないどころか、Xへの投稿は多数の表示があり、多くのリポストや「いいね」を集めている。
さらに、多くの2次創作を生み、話題化にも成功している。これだけで見ると、十分に成功していると言えるだろう。
一見すると時代錯誤に思えるやり方でそれを成し遂げていることを考えると、綿密に計算されたキャンペーンだったと言えるのではないだろうか。
逆に言えば、それでも不適切な2次創作が起きてしまうという現状は、現代のネット社会の病理を示していると言えるだろう。
企業側としては、「SNSユーザーが勝手にやったことだから、自分たちに非はない」と言いたいところだと思うが、性的な表現が企業のキャラクターやロゴをまとって拡散されてしまうと、ブランドを毀損してしまう恐れがある。
マクドナルドは、本件を取材したJ-CASTの質問に対して、下記のような回答をしている。
「当社のキャンペーンコンテンツなどに関しましては、権利者の許可のない複製・転載等はお控えいただき、当社のウェブサイトにある利用規約をよくお読みいただいた上で、SNSではマナーを守りながら、楽しくご利用いただければと存じます」(「JCASTニュース」2024年11月6日配信)
企業側としては2次創作のコンテンツにまでは責任を負う必要はないが、消費者を啓発する責任はあると思う。状況次第では、マクドナルドは自社のSNSアカウントでも同様の声明を発するべきかもしれない。
SNSの世界では細かい予測は不可能
今回の件で思い出したのは、アメリカのマイクロソフトが2016年に公開したAIチャットボット「Tay」の顛末である。Tayは19歳のアメリカ人女性という設定で、Twitter上でのユーザーとのやり取りから発言が生成される仕組みになっていた。
ところが、フェミニスト嫌悪や人種差別的な発言を繰り返したことにより、公開から16時間後に停止されてしまった。このような事態を招いたのは、一部のTwitterユーザーにより、Tayが不適切発言を連発するように操作されてしまったことによる。
技術は中立的なものだったが、性善説に基づいて運用してきたことが仇になってしまい、悪用されてしまったのだ。
マクドナルドの件に話を戻すと、「こうなること(性的なイラストが多数拡散されること)が事前に予想できなかったのか?」という意見もあるだろう。
SNSの世界では、ある程度の予想はできても、細かいところまで予測することは不可能だ。このたびの状況も、結果的には起きてしまったのだが、起きなかった可能性もあるように思う。予測不能なのがSNSの世界だ。
一方で、すべてのリスクを排除しようと思うと、効果も見込みづらくなる。同社では今夏にもAIで生成した動画が炎上したが、全体として見れば批判や炎上を巧みに回避しながら、効果の高い情報発信ができているように思う。
今回の件も、マクドナルドに非があるとは思わないが、今後、こうしたトラブルを回避するためには、「萌え」から一切手を引くということ以外にはないだろう。
【写真を見る】露出が高い?「性的な2次創作」が多発したマクドナルドのキャラクターと「過去炎上した女性キャラクター」たち(6枚)
西山 守: マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授
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