次期トランプ政権下で米国株高は本当に続くのか FRBは再び「あからさまな圧力」にさらされる?
東洋経済オンライン / 2024年11月8日 20時0分
このため、次期トランプ政権の財政政策はやや拡張的ではあるが、経済成長をはっきり押し上げるには至らないだろう。一方で、関税引き上げによる輸入価格上昇がインフレを押し上げる影響が出てきそうだ。実際に、トランプ氏が言及するような形で輸入品に10%の関税を課すのは難しく、ディール(取引)の材料として関税引き上げが利用されると見込まれる。大幅な関税引き上げの対象となるのは中国からの輸入品、そしてメキシコなどからの一部の製品などに絞られると想定している。
それでも、2025~2026年にかけて輸入価格の上昇で、2%に向けて鎮静化する途上にあるインフレ沈静化の動きが鈍るだろう。その分、FRB(連邦準備制度理事会)による利下げ継続が2025年半ばには難しくなると見込まれる。筆者は2025年末まで緩やかな利下げが続き、政策金利(FF金利)が3.5%付近まで低下すると予想しているが、次期トランプ政権の政策が実現する中で、2025年に政策金利は4%前後でいったん高止まりする可能性が高まっている。
一方で、トランプ再選を好感した銀行株の上昇が示すように、ビジネスフレンドリーな規制緩和を次期トランプ政権が進めるとの期待もある。
現在のバイデン政権では、環境政策などを理由に、公的部門が肥大化、かつ政府によるビジネスへの積極的な介入がみられる。市場メカニズムを重視するトランプ氏は、法人減税を実現するなどアメリカ企業のダイナミズムを刺激するだろう。これまで慎重だった企業の設備投資意欲を刺激することが、アメリカ経済の底堅い経済成長を支えるとみられる。
もちろんリスクもある。減税政策が実現する前に、大統領権限を使った関税引き上げが、広範囲かつ短期間で実現すれば、サプライチェーンが混乱、そしてインフレが再加速しかねない。その際は株式市場にネガティブな影響が及ぶ。
ただ、覇権争いを演じている中国を封じ込めることが、関税引き上げの主たる目的とすれば、先述したとおり関税引き上げの対象が限られるとみられ、この引き上げ政策がアメリカ経済を失速させる可能性は低い。
FRBの体制そのものが揺らぐ可能性は低い
さらに、トランプ次期大統領は、前回の同政権時代と同様に、FRBの政策対応に対する自らの考えを述べて、あからさまな圧力をかけるだろう。ただ、インフレ安定と雇用拡大というデュアルマンデート(2つの使命)を課せられるFRBの体制そのものが揺らぐ可能性は低い。
2026年にジェローム・パウエル議長は任期を迎えるが、よりハト派志向を持つ人物が議長に選出される可能性が高く、この点もアメリカ経済の成長を支えるだろう。
以上を踏まえると、レッドスイープ期待で上振れした米国株市場については、短期的には材料出尽くしで下げる場面があってもおかしくない。ただ「2025年にかけて経済の安定成長が続く」という市場の期待は次期トランプ政権下で、より高まる中で、株高基調は簡単には崩れないだろう。
(本稿で示された内容や意見は筆者個人によるもので、所属する機関の見解を示すものではありません)
村上 尚己:エコノミスト
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