人類は宇宙をなぜ目指す?「お金以外」の本質理由 政治、科学、ロマン…実は深い「7つのワケ」は?
東洋経済オンライン / 2024年11月9日 11時30分
「小惑星探査」や「火星移住」などのニュースから、UFO、宇宙人の話題まで、私たちの好奇心を刺激する「宇宙」。だが、興味はあるものの「学ぶハードルが高い」と思う人も少なくない。
知らなくても困らない知識ではあるが、「ブラックホールの正体は何なのか」「宇宙人は存在するのか」など、現代科学でも未解決の「不思議」や「謎」は多く、知れば知るほど知的好奇心が膨らむ世界でもある。また、知見を得ることで視野が広がり、ものの見方が大きく変わることも大きな魅力だろう。
そんな宇宙の知識を誰でもわかるように「基本」を押さえながら、やさしく解説したのが、井筒智彦氏の著書『東大宇宙博士が教える やわらか宇宙講座』だ。「会話形式でわかりやすい」「親子で学べる」と読者から称賛の声が届いている。
その井筒氏が、人々が宇宙を目指す「7つの理由」について解説する。
そもそも、なぜ人類は宇宙を目指すのか?
地上から遠くの星を探索する天文学者、地球を飛び出す宇宙飛行士、宇宙飛行士や人工衛星を宇宙に送り込むロケットエンジニア……。
【イラストでわかる】人類は宇宙をなぜ目指す?「お金以外」の本質理由
いまこの瞬間にも、たくさんの人が宇宙に向けて動いています。
とくに最近は、ロケットの打ち上げが盛んになっています。先日(11月4日)、JAXAが新型ロケット「H3」4号機にて
そもそも、なぜ人は宇宙を目指すのでしょうか? そこにはどんな思惑が絡んでいるのでしょうか?
ここでは、大きく「7つの理由」を挙げて解説していきます。
人々が宇宙を目指す「7つの理由」を先に挙げると、以下のようになります。
なぜ人は宇宙を目指すのか?
1 ロマン
2 科学の進歩
3 技術の進歩
4 政治・軍事
5 ビジネス
6 人類のため
7 本能
1つずつ、みていきましょう。
「謎があったら解きたくなる」のが人間
1つ目は、なんといっても「ロマン」。理屈ではなく、「宇宙への憧れ」が原動力だという人は少なくありません。
太古の人々が星を眺めてきたように「満天の星」に魅了された人。ガガーリンの宇宙飛行、アポロ月面着陸、スペースシャトルなどの「有人宇宙探査」に胸を躍らせた人。
日本の宇宙関係者には、松本零士先生の『銀河鉄道999』や『宇宙戦艦ヤマト』を観て宇宙の虜になった人も数多くいます。
2つ目は、「真理を探究したい」という科学的な動機です。
以前、「『ブラックホール』で"時が止まる"は本当なのか?」や「【宇宙の95%を支配】計測不能『2つのダーク』とは」では、宇宙科学に残る大きな謎についてお話ししました。
宇宙は、知的好奇心をくすぐる謎に満ちています。
そして、謎があったら、解きたくなるのが人間です。
宇宙の謎を解くことを目指して、コンピューターで宇宙を再現したり、望遠鏡で遠くの星を観測したり、探査機を送り込んだりしているのです。
3つ目は、「新しいモノを生み出したい」という技術的・工学的な動機です。
宇宙に挑むには、ロケット、探査機、生命維持装置などの機器が欠かせません。
とくに、今後、月や火星での長期滞在を目指そうと思うと、革新的な技術開発が必要となります。多くの困難を乗り越えなければならないわけですが、そこに燃える人もいるのです。
1つ目がロマンチスト、2つ目がサイエンティストなら、3つ目はエンジニアですね。
宇宙開発は国力の誇示につながる
4つ目として、「国の力を誇示するため」という政治的・軍事的な理由もあります。
歴史的に宇宙開発は軍事開発と表裏一体でした。ロケットを計算通り宇宙に飛ばせるということは、敵国にミサイルを撃ち込む能力がある、ということになるからです。
実際、ロケットは、その先端に、人や物を乗せれば「宇宙ロケット」に、爆弾を積めば「弾道ミサイル」になります。飛んでいく仕組み自体は同じです。
現在でも、宇宙開発で存在感を示すことは自国の力を誇示することにつながるため、各国の政府が宇宙開発に投資しているという側面もあります。
今回、宇宙空間に投入された防衛省の通信衛星「きらめき3号」
国の力を強化・誇示することは大切なことではありますが、宇宙開発の発展の先に理不尽に人が傷つけられることがあってはなりません。
宇宙を目指す理由のなかで、政治的・軍事的な理由の比重が大きくなりすぎてバランスがおかしくなっていないか、世界の動向を見守る必要があるでしょう。
5つ目の理由は、「ビジネスのため」です。
近年、衛星を打ち上げてほしいという需要が高まっているため、安く、確実に宇宙に運んでくれるロケットを作れば、大きなビジネスになります。
JAXAの新型ロケット「H3」は、
ただ、「宇宙ビジネス=単なる金儲け」というわけではありません。
たとえば、日本では、さまざまな民間企業がJAXAと共同で、宇宙飛行士の生活向上のための製品を開発しています。水の使用が制限されている宇宙ステーション用に開発した製品は、災害によって断水が起きてしまった被災地でも役に立つことができます。
宇宙と地上、両方の暮らしの向上を目指してビジネスをしている企業もあるのです。
6つ目は、「人類のため」です。
「【衝撃事実】『巨大隕石の地球衝突』は必ず起こる」でお話ししましたが、致命的な巨大天体の衝突が避けられない場合、月や火星に逃げる必要があります。
現在進められている、月・火星探査は「地球のバックアップのため」という意味もあるのです。
また、いまこの瞬間にも宇宙にいる宇宙飛行士の主な仕事は、「人類が豊かに暮らしていくため」の科学実験です。重力に影響されない環境を利用して、難病の治療薬などの研究をしています。
「人類のため」という意識を持って宇宙開発に取り組んでいる人は、他にもいます。
たとえば、宇宙から地球を観測する人工衛星を利用して、雨の降り方を調べることで防災に役立てる研究をしたり、二酸化炭素の量を調べることで地球環境の未来のための研究をしたりしています。
人類は宇宙のどこまで旅できるか?
7つ目は、「本能が呼びかけているため」です。
私たち現生人類(ホモ・サピエンス)は、約30万年前にアフリカで誕生し、地球上に広がりました。
脳科学の一説によると、5人に1人が持つ遺伝子が、リスクを取って冒険したがる欲求と関係しているらしいです。
「危ないからやめよう」と止めても、「まだ誰も火星に行っていないなら、行くぞ!」と衝動を抑えられないというのです。
7つの理由のどれか1つだけでなく、複数の理由が組み合わさることもあるでしょう。
数々の思惑が絡み合いながら、やがて多くの人が月で暮らし、火星に到達する日が来るはずです。さらに長い目で見ると、太陽系、銀河系へと広がっていくかもしれません。
果たして、人類は、宇宙のどこまで到達することができるのでしょうか?
(イラスト:村上テツヤ)
井筒 智彦:宇宙博士、東京大学 博士号(理学)
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