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空飛ぶ「クロネコヤマト」最速で届ける荷物の中身 導入費用は130億円、スピード勝負の費用対効果

東洋経済オンライン / 2024年11月10日 7時40分

(記者撮影)

深夜3時過ぎの羽田空港。第1ターミナル隣の貨物地区に、クロネコマークを付けた航空機が到着した。北九州から飛来した機体には「YAMATO TRANSPORT」の文字が刻まれている。宅配便大手・ヤマト運輸の貨物専用機だ。

【写真で見る】深夜の羽田空港に到着したクロネコマークの貨物機。中からかまぼこ型のコンテナが取り出された

停止した機体側部のドアが大きく開き、かまぼこ型のコンテナが姿を見せる。コンテナは大型のリフトで引き出され、次々と運ばれていった。

トラック輸送が中心のヤマトだが、今年4月からJALグループと連携して貨物機を飛ばしている。8月には羽田に就航。新千歳、成田、北九州、那覇を結び、現在は1日14便を運航する。なぜ本格的に貨物機での輸送に乗り出したのか。そして、一体何を運んでいるのか。

生鮮品、アパレルが空を飛ぶ

貨物機が運ぶ荷物は多種多様。北海道発では生鮮品が多い。奥尻島産のあわび、利尻昆布などの特産品や、アスパラ、とうもろこし、トマト、メロン、長いもなどの農産物もある。一部は自治体などと連携した取り組みだ。

宅急便が主力のヤマトは、小口の荷物を中心に取り扱う。だが貨物機のサービスは法人向けが中心で、生産者から荷物を預かり、数十箱などまとまった量を運ぶケースが多い。農産物は東京・大田市場まで届けたり、スーパーの物流センターへ納品している。

食品以外では、北九州から半導体や自動車関連の部品なども運んでいる。ガスが充填されているエアバッグや航空機の部品、内部に燃料が含まれる部品などの危険物もある。半導体関連は成田で国際線につなぐケースが多いという。

メリットはやはり圧倒的なスピード、そして宅急便のネットワークとつなげられる点だ。新千歳―羽田間をダイヤ上は約2時間で結ぶため、産地で朝に採れた生鮮品を夜に航空機で運び、翌日昼から夕方にかけて飲食店などに届けることも可能だ。

ちなみに通常の宅急便で荷物を送る場合、北海道―東京間、東京―九州間はそれぞれ2日後の到着予定となっている。

首都圏から地方へ飛ぶ荷物もスピードが武器だ。ECで追加料金を払えば早く届けるサービスなどで、個人が購入するアパレルが多い。「購入後すぐにほしい」という要望に応えられるようになった。

また、航空輸送は短時間で振動も少ないため、荷物の負担を減らせるメリットもある。今年8~9月には福岡県産(JA筑前あさくら、JAふくおか嘉穂)のイチジク「とよみつひめ」を空輸し、首都圏のスイーツショップ「キルフェボン」の5店舗でタルトに使うトライアルを行ったが、通常よりも商品の傷みが少ない状態で届けられたという。

当初は社長も懐疑的だった

物流サービスにとってスピードは付加価値になるものの、なぜヤマトは自社便での運航にこだわったのか。

検討を始めたのは2019年。物流業界では、残業時間の上限が課せられる「物流2024年問題」が見えていた時期だった。

トラックの輸送コストは年々上昇し、毎年のように自然災害も発生している。リスクへの備えとして、トラックと鉄道、海上に加えて航空輸送もメニューに加える必要性を検討することとなった。当初は長尾裕社長も含め、社内からは「本当に飛ばすのか?」という声もあったという。

以前からJALやANAに委託して荷物を運ぶことはあったが、旅客便を前提とした路線だ。自社便ならば荷物の需要に合わせて、飛ばしたい場所へ飛ばすことができる。新たなビジネスを広げるために自社便の導入は欠かせないと、役員を含めて社内のコンセンサスは固まっていった。

そしてJALグループのスプリング・ジャパンが実際の運航を担う形で提携が決まり、今年4月の就航にこぎ着けたというわけだ。

ヤマトにとって空は難しい領域でもあった。当然、安全面の確保は第一となる。荷物の積み込み一つをとってもトラックとは異なる。飛行機は重量のバランスが重要だ。コンテナ1個の重さまで計算する必要があり、どのように荷物を積み、重量を調整するかという点は課題だった。

現役機長でもあるスプリング・ジャパンのオペレーション本部長・上谷宏氏は「貨物機はその日の重量のバランスを考えて飛んでいる。着陸などの際にも非常に気を遣う」と話す。

また、悪天候だと機体に燃料を多く積むケースがあり、運ぶ荷物の量を抑えなければならない。そうした場合はトラックや鉄道の代替輸送を手配する必要が生じる。空港で荷物を扱うセンターの作業や人員配置なども含め、貨物機のビジネスはまだまだ発展途上だという。

宅急便以外の顧客も開拓

現在、ヤマトは法人営業部の中で、貨物機の営業を担当するチームを作り、営業を進めている。貨物機が就航している地域に担当者を置き、現在は約50人。北海道・関東・九州の主管(宅配の拠点)に一人ずつ担当がいるイメージだ。セールスドライバーや法人支店の営業担当者が開拓してきた案件に対し、貨物機の担当者が提案などを行い、稼働までの時間を短縮している。

近年のヤマトは大企業の供給網の一部を担うなど、法人向けの新規開拓を強化してきた。貨物機では宅急便で付き合いがなかった顧客の獲得も進んでいる。「当初、九州から新千歳へ飛ばすことは考えていなかったが『飛ばすなら乗せたい』と顧客から相談され、冬に生鮮品が採れない北海道へ九州から野菜を送るなど、後々見えてきた需要もあった」(貨物航空輸送オペレーション設計部の鈴木達也部長)。

足元では冷凍・冷蔵のクール輸送の体制を整えている。たとえば、山口・下関のふぐ、鹿児島のぶりなど、名物の海産物の取り扱いも今後は増えていきそうだ。

増便も視野に

もちろん、新サービスには相応の費用がかかっている。初年度となる今2025年3月期における貨物機関連費用は約130億円。現在は3機体制で、増便も視野に入れている。

つねに大量の宅急便の荷物を運ぶため、貨物機を空の状態で飛ばすことはないが、高い輸送コストに見合う量を獲得する必要がある。阿部珠樹常務執行役員は「時間と距離を縮める武器を使い、顧客のビジネスを活性化できるようにしていく」と意気込む。

ヤマトの業績は厳しく、今期は4期連続の下方修正、4期連続の営業減益見通しと苦しい状況だ。貨物機のビジネスも「新たな需要獲得に時間を要している」と想定を下回っている状態だ。新サービスとして早期に定着させられるかが、問われている。

田邉 佳介:東洋経済 記者

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