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東京で急増「貧しい日本人を排除するビル」の矛盾 富裕層向けの商業施設、なぜこうも金太郎飴化?

東洋経済オンライン / 2024年11月11日 8時20分

富裕層やインバウンドを意識した商業施設が、東京に次々とオープンしている。が、なぜかどの施設も同じようなものばかり…その背景とは?(筆者撮影)

東京で進む「貧しい日本人」の排除

以前、私は「東京で『お金のない若者』が排除され起きている事 ディズニーも高嶺の花、カフェすら混んで座れない」で、都心で進む再開発が「若者の静かな排除」を起こしているのではないかと問題提起した。

【画像で見る】すでにガラガラ? 金太郎飴な商業施設たち

再開発後のビルの高級化によって、消費に使えるお金を多く持たない若者たちが、おのずと街で活動できる範囲が狭められているのではないかという意見だ。

もちろん、これらは基本的に企業の活動の結果であり、それらを批判するのはお門違いかもしれない。筆者も、企業が利益を求める活動を否定はしないし、どんどん儲ければいいと思う。

ただその一方で、街を散策していると、こんなふうにも感じられる。

「富裕層やインバウンドをターゲットにした結果、金太郎飴のようなビルばかりできている気がする……」

【画像11枚】「多様性をアピール」「しかし貧乏な日本人は静かに排除」…。東京では今、"金太郎飴"商業施設が急増している

ブランディングの基本は差別化である。にもかかわらず、似たりよったりなビルなのは、長期的に見てまずいような気もするのだ。また、短期的な観点での投資が先行し、建物や施設が長期的な魅力を持てなければ、その地域の衰退に繋がりうるのは、バブルの歴史が証明している。

この、“都心のビル金太郎飴問題”(今、そう名付けた)を考えるにあたって、都心部でどんなビルが増えているのかを振り返っていきたい。

いま、都心の再開発で乱立するビルには、多くの場合「共通点」がある。実はこの共通点を考えるうえで面白いヒントを与えてくれるのが、Netflixで大ヒットした『地面師たち』である。新庄耕の大ヒット小説を映像にしたもので、架空の土地取引で巨万の富を得る「地面師」の暗躍が描かれるクライムサスペンスだ。

作品は、白金にある巨大な土地の架空売買をめぐって進んでいく。注目したいのは、だまされる側の不動産デベロッパー「石洋ハウス」が、その土地の取得後に建設予定の施設だ。気になる人はエピソード4の34分あたりを見てほしいが、そこでこの施設のパンフレットが登場する。いわば、フィクションの再開発案なのだが、この解像度がすごいのだ。

名前を「高輪COROX」といい、スローガンは「多様性の国際交差点」。正確な高さはわからないが、ある程度の高層ビルで、よく見ると中層階は「HOTEL FLOOR」、そしてその下には「OFFICE FLOOR」。どこかで見た配置だ。

さらに、低層階には独特の建築が施されている(木組みを使っていて、どことなく隈研吾っぽい)。そして地上には謎の「アートっぽいオブジェ」が置かれ、その周辺は適度に植樹がされている……。

なんだか見覚えがある。というか、見覚えしかない。

ホテルとオフィスとアートと植栽と…

例えば、麻布台ヒルズ。中〜高層階にはオフィスフロアがぎっしりとあり、さらに日本初進出のアマンの姉妹ホテルブランド「ジャヌ東京」も入る。低層階で目を引くのは世界的建築デザイナーであるトーマス・ヘザウィックによるきわめて独創性の高い建築。中庭にはさまざまなアート作品が置かれ、植栽も施されて緑豊か。

「高輪COROX」との違いといえば、高層階にレジデンスが入っていることだろうか。ただ、これも一部はホテルブランドのアマンがやっているから、ある意味でホテルの延長線上のようなものかもしれない。

これから建設予定のビルでも、同じような構成のものが多い。

例えば、2027年竣工予定で完成すれば日本でもっとも高いビルとなる「TOKYO TORCH」。デベロッパーは三菱地所だが、中層階にはぎっしりオフィスが入り、高層階には「ウルトララグジュアリーホテル」が入居。そして、低層階には独特の曲線が見られる建築があり、地上にはいい感じに緑がある。

似ている。似すぎている。

似たようなビル…マーケティング的に失敗では?

「高輪COROX」がここまで現在の再開発ビルの特徴を捉えるのには、理由がある。というか、現在のさまざまな状況を踏まえれば、こうならざるをえないからだ。

都心部の狭い土地で、大規模に再開発を進めるとなれば、ある程度そこにできる建物を高くしないと工事費をペイすることはできない。建物が高くなり、床が増えれば増えるほど、賃貸面積が増えるからだ。『地面師たち』で問題になっている土地も、寺に隣接した駐車場であり、そこまで広いわけではない。

また、もともとそこの土地に住んでいる地権者が持ち出しをすることなく、同じ土地に再び入居することができる、いわゆる「権利変換」を行えることもあり、高層化は「魔法の杖」ともいえる。

さらにはこうした方法については、国からの補助金が出るケースも。だから高層化が進むのだ(NHK取材班『人口減少時代の再開発 「沈む街」と「浮かぶ街」』)。

さらに短期間での利益回収を目論むなら、よりそこでお金を落としてくれる富裕層向けのホテル、さらにはある程度長期での賃貸を目論むことができる大企業のオフィスなどを誘致するのが早い。簡単に言えば、「高級化」したほうが、手っ取り早いのだ。

また先ほど、こうしたビルが基本的には「富裕層」などをターゲットに作られていることを示したが、よくよく出来上がったビルを見てみると、「これって本当に富裕層向けなの?」と思ってしまう建物があることも指摘され始めている。

富裕層、インバウンド向けビルに出る「ガラガラ」投稿

例えば、新宿に誕生した東急歌舞伎町タワー。百年コンサルティングの鈴木貴博氏はこのビルについて、海外富裕層向けのホテルが上層部に立地しているが、ホテルの中にはブランドショップなどが入居しておらず、海外富裕層向けの客層とのミスマッチが起こっていると指摘している(ただし、それは歌舞伎町という街の特性上、なかば意図的だ、と文章は続いている)。

こうした影響が強いと一概には言い切れないが、昨年開業した麻布台ヒルズもこのところ「ガラガラ」報道が後を経たないし、渋谷にできた「Sakura Stage」も高級店が入るフロアは人がいない、というツイートが拡散されたりもしている。

再開発したのはいいものの、「人がいない」報道が、結構されているわけだ。

……と、こういった指摘や報道を見ているなかで、筆者の中にある可能性が浮かんだ。

「こういった富裕層やインバウンド向けのビルを作っているのは、日本の会社員たちだ。大企業勤務といっても、世界から見れば富裕層とは言いがたい……もしかすると、富裕層のニーズがわかってないんじゃないか? だからこそ、金太郎飴みたいな、魅力に乏しいビルができてしまっているのではないか?」

という仮説である。

ビルを手掛けた人たちに取材したわけではないので、あくまでもフィールドワークを重ねたなかでの、筆者の個人的な感想にすぎないのだが、とはいえ、高級ホテルが入っていれば、そのビルは富裕層のニーズを満たすほど、安易なものではない、というのは間違いないだろう。

そんな気持ちで『地面師たち』を見直していると、なんとも嫌なシーンがあることを思い出す。ビルの計画完成後に上司から1万円を渡され「これでビールでも買ってこい」と言われ、計画を作っている人たちが大喜びする……というシーンである。

このシーンを見たわれわれは、「一流企業のデベロッパーの社員とはいえ、まあ庶民だもんな。税金や社会保険料も高いだろうし」などと思うわけだが、なんとも示唆に富んだ寓話と言えよう。

富裕層の真のニーズをつかめているのか、という話なわけだが、この点で参考になるのは、近年インバウンド観光地としてインパクトを増しているニセコかもしれない。

ニセコでの観光地の展開についてマリブジャパン代表の高橋克英氏は『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか 「地方創生」「観光立国」の無残な結末』で、ニセコにある多くの国際ホテルが、富裕層の行動パターンを徹底的に理解した上でリゾートを成立させていることを述べている。

例えば同書では、海外富裕層が「何もしない贅沢」を求めていると指摘する。そのうえで、滞在するホテルからあちこち出歩かないために、ホテルの中にスパやプール、アクティビティ施設などが必要になるという。

「ニセコでは、パークハイアットニセコHANAZONOなどがその典型であるが、そもそもここに滞在すると、わざわざ食事は外で、アクティビティは別の場所で、とはならなくなる。ホテル施設やサービスも当然、そうした戦略のもと設計されている」と高橋は書く。

もちろん、ニセコの成功もずっと続くものではないかもしれないが、都市再開発を理解するうえでは重要な観点だろう。

つまり、どんどんビルを建てること自体が問題なのではなく、マーケティングや消費者理解の浅さの結果、「誰もが得していない」状態が生まれてしまうことが、もっとも問題なのだと思えてくるのだ。

直線の経済から迂回する経済へ

都市計画学者の吉江俊は『<迂回する経済>の都市論』の中で、高層ビルを建てすぐにコストを回収する、というような、目的に向かって最短で利益を上げていこうとする都市開発の方法を「直線の経済」と呼んでいる。

これは、短期的な視点に立てばすぐに利益を上げられるかもしれないが、長期的な視点に立ったとき、本当に社会的な利益になるのか、ひいては企業の継続的な利益につながるのかが難しい。

そこで吉江が提唱するのが、開発に手間がかかったり、すぐには利益が出なくとも長期的な視点で利益があるように開発を調整していく「迂回する経済」の重要性だ。

提唱される「迂回する経済」とは?

例えば商業施設をテナントで敷き詰めるだけでなく、あえて広場を作って人が滞留できるようにしてみる。

短期的にはテナントがたくさんあったほうが利益が出るかもしれないが、長期的に見ればそこに人が集い、愛着が生まれるほうが、エリア全体の価値が上がるのではないか。

経済活動をシャットアウトするわけではなく、経済活動を行ったまま、それが長期的な視野で見ても回っていくような経済のあり方、都市開発のあり方を提唱するのだ。

まさに、現在の東京を考えるとき、この「直線の経済」による都市開発のシワ寄せが来ていると思えてならない。激混みするカフェ、MIYASHITA PARKに集まる若者、不自然に作られたバリケードに、激増する富裕層向けのビル……。

一方、大阪に目線を移すと、昨今話題の「うめきた公園」にある商業施設「うめきたグリーンプレイス」では、吉野家やケンタッキーフライドチキンのほか、「大阪王将」系のベーカリーなど、手頃なテナントを入れることで、富裕層やインバウンドに頼らない戦略が行われており、ネット上でも話題や称賛を集めている。(JR西日本、うめきた飲食店は「あえてチェーン」 公園に的(日本経済新聞/2024年11月9日)

大阪の盛り上がりを見るたびに、「経済活動は進めつつ、しかしもっと長い目で多くの人がよりよく暮らせる都市を、私たちは考える時期に来ているのではないだろうか?」という気持ちが浮かぶ。今後も東京に建つ、金太郎飴のようなビルを見るたびに、私はこの街の未来が心配になってしまうのだ。

前回の記事:東京で『お金のない若者』が排除され起きている事 ディズニーも高嶺の花、カフェすら混んで座れない

前々回の記事:東京に「座るにも金が要る街」が増えた本質理由 疲れてもカフェに入れず途方に暮れるあなたへ

谷頭 和希:都市ジャーナリスト・チェーンストア研究家

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