独身で養子迎えた彼女が「親として」心がけたこと 複雑な過去を持つ次女をどう育ててきたか
東洋経済オンライン / 2024年11月12日 16時1分
「非婚(=結婚しない生き方)」を選んだ韓国の編集者ペク・ジソンさんは、2人の子どもと養子縁組をして家族になりました。長女を迎えて3年後、人見知り絶頂期に迎えた次女の子育てで心掛けたこととは。ジソンさん著『結婚も出産もせず親になりました』より紹介します。
養子縁組が決まる前に引き取る?
家庭裁判所では、養子縁組の可否の判断を他の案件より早めに進行するという。それでも、2013年のはじめに次女の養子縁組を申請して、許可が下りたのは10月末だった。
赤ちゃんの人見知りは6カ月前後で始まって、12カ月を過ぎると緩和されていく。つまり、わたしは次女を生後10カ月という人見知りがいちばん激しい時期に引き取ることになったのだ。まったく人見知りのない3カ月の長女を育てたときとはまるで違う経験だった。
養子縁組機関もこの問題を認識していて、裁判所の許可が下りる前に里親として子どもを引き取ってはどうかとすすめられた。ちゃんと子どもを育てられることを証明すれば、裁判所の審査にも有利になるという。でも、必ず養子縁組の許可が下りるとはかぎらない。
すでに養子をひとり迎えている点は評価されそうだけど、判事はわたしが非婚であることを問題視するかもしれない。独身女性が子どもを2人も育てるのは難しいと判断される恐れもある。
わが家で数カ月育てた後にもし許可が下りなかったら、また養育環境が変わる赤ちゃんが受けるショックは大きいだろう。だから養子縁組が確定するまでは、もともとの里親家庭で引き続き育ててもらうことにした。
このような〝養子縁組を前提とした子どもの引き取り〞は、2020年のジョンインちゃん事件(*1)発生以降、「養子縁組ショッピング」という言葉で非難されるようになった(*2)。ただし、これはわたしが経験したこととは意味合いがまったく違う。
当時、養子縁組機関の社会福祉士は子どもの人見知りと新しい環境への適応を心配して、生後5〜6カ月のうちにまず引き取って育ててはどうかとアドバイスしてくれたのだ。実際にそうできていたら、養子縁組後に次女とわたしが大変な苦労をすることもなかっただろう。
新しい環境を拒否した次女
家庭裁判所の許可が下りると、怒涛の日々が始まった。次女は一夜にして養育者が変わったことをとても不安がり、ひきつけを起こしたように震えながら大泣きした。
すでにお話ししたとおり、養子縁組が確定するまでの数カ月間、わたしと長女は何度も次女に会いに行って一緒に遊んでいた。それでも養育者と環境ががらりと変わるというのは、里親を母親だと思っていた次女にとって、世界が崩れるような衝撃だったにちがいない。
命の危険を感じているかのような、切羽詰まった泣き声が家じゅうに響き渡った。次女をあやしながら、この子は将来ロック歌手になるかもしれないと思ったくらいだ。夜通し泣き声が続いて、わたしと長女はあまり眠れなかった。当時の家は商住混在ビルだったからよかったものの、もしアパートやマンションだったら、ご近所さんに通報されて追い出されていたかもしれない。
次女がやってきてから数カ月後にマンションに引っ越した。そこでも一度泣きはじめると、マンションの敷地じゅうに大きな声が響き渡った。幸いなことに不安症状はしだいにやわらいで、激しく泣くことは減ったので、隣人から苦情が入ることはなかった。わが家に来たばかりの頃は米のとぎ汁のような下痢をしていたけれど、それもだんだんよくなって、黄褐色の健康なうんちをするようになった。
表情が暗くて元気のなかった次女は、愛嬌たっぷりのかわいらしい子どもに成長していった。それでもストレスを感じるようなことがあると、最初の頃と同じような不安症状を見せて何もかもを拒み、大声で叫びながらもがいた。そんなときは次女を長い間抱きしめた。次女が完全に落ち着くまでには何年もかかった。
上手におしゃべりができるようになってからは、納得できないことがあったら相手に自分の感情をきちんと伝えて、仲直りをするためのコツを教えた。今は、気分をそこねても暴れたり大声を出したりすることはほとんどない。
すねてぷんぷんしていても、しばらくすると自分のほうからやってくる。どうして腹が立ったのか、なぜ悲しかったのかを事細かに話しながら謝ったり、ときには「謝ってほしい」とお姉ちゃんに要求したりもする。
お友達とケンカをして「あっちが悪いんだよ。お母さんからも何とか言って」と頼んでくることもあるけれど、そのたびにわたしがよその子を叱るわけにもいかない。「きちんと自分の気持ちを話して、謝ってほしいことを伝えようね」と話している。
それでも解決しないときは、何日か会わないようにしたらどうかとアドバイスすることもある。どうすることもできないことはなるべく早く忘れて、自分でコントロールできることにフォーカスしたほうがいい。
毎日成長して、毎日強くなっている次女
怒りや悲しみの理由が思い出せないことやわからないこともある。そんなときは自分の好きなことをするか、寝たほうがいいと話す。ぐっすり眠れば、また世界が違って見えるようになるものだから。
次女は生まれて1年の間に養育者が2回も変わるという不安定な状況に置かれ、ひたすら泣き続けてすさまじい無力感と挫折感を訴えた。でも、今となっては永遠の家族を手に入れた。毎年成長して、毎日強くなっている。非力な被害者ではなく、主体的に考えて感情を表現し、問題に対応する強さを身につけていっている。
娘が直面する試練について対応策を考えられるように、わたしはできるかぎり前もって説明をする。そして、どんなことがあっても母親に相談すれば解決できると繰り返し伝えている。すべての問題を解決してあげることはできないとしても、いつでも頼れる存在がいると娘に確信させてあげたいからだ。
*1…2020年10月、1歳4カ月の女児が養子縁組先で虐待死した事件。BTSのジミンら著名人が追悼コメントを発表したことで大きな注目を集めた。
*2…事件発生当時、文在寅大統領が記者会見で児童虐待事件の再発防止について質問され、「養親の気持ちが変わることもあるため、一定期間中は取り消したり、子どもと合わなければ変えたりというかたちで養子縁組ができるような対策が必要だ」と発言。「養子を返品可能なものにたとえた」と国民の非難が殺到した。
※
(前編:独身の彼女が韓国で「2人の養子」を迎えたなぜ)
(翻訳:藤田麗子)
ペク・ジソン:編集者
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