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少数与党となった石破政権だが「前途は洋々たり」 世論が待望する「政界再編」に向け与野党連携を

東洋経済オンライン / 2024年11月12日 10時0分

11月11日、特別国会の決選投票で首班指名された石破茂首相。(写真/共同)

11月11日、特別国会が召集され、自民党の石破茂総裁が首班指名された。先の衆議院選挙で自民・公明が過半数割れしたことで首班指名は決選投票で決まる薄氷の勝利だったが、少数与党政権が厳しい再スタートをきることになった。

少数与党の石破政権が日本の課題を突破するためにカギとなるのは「石橋湛山」だ

自民党内には、惨敗を喫した選挙の責任をとり石破首相に退陣を求める声がある。だが、衆院選投開票から一夜明けた10月28日、石破首相はさっそく新たな地方創生の基本構想を取りまとめる方針を示した。それは「日本創生 前途は洋々たり」との思いからではないか。

前途は明るい

前途は洋々――この言葉は、第55代内閣総理大臣だった石橋湛山が、東洋経済新報社の社長を務めていた1945年8月、敗戦を受けて記したものだ。「東洋経済新報」8月25日号社論のタイトルは「更生日本の門出――前途は実に洋々たり」。原爆や空襲で日本中が焼け野原となり、多くの人が悲嘆に暮れていた時、湛山は民主国家「小日本」の門出を祝い、前途は明るいと説いたのだ。

石破首相はたしかに大敗の責任を負う立場にある。だが、この2年間、自民党の信頼を失墜させてきたのは「旧統一教会」問題であり、「裏金」問題だ。これらの問題によって岸田文雄前首相は政権運営に行き詰まり、10月の総裁選で選ばれたのが石破氏であった。

厳しく処分をすれば多くの当該議員が落選し、甘い対応を取れば国民が反発をして党全体が沈没しかねない。けじめをつけるのは、誰が総裁でも難しかった。今回の総選挙は、当初から負けが織り込み済みだったということだ。

石破首相から「退陣」の意思が見受けられない理由を探るうえで、選挙結果や、注目すべき世論調査結果をみておきたい。

衆院選小選挙区の投票率は53.85%だった。前回から2.08ポイント下回って、戦後3番目に低かった。投票率が低ければ低いほど組織票を持つ自民党や公明党が有利になるという通説は、今回くつがえった。

他方、議席を大幅に増やした立憲民主党は、実のところ比例票がほとんど伸びていない。以下は、前回3年前の衆院選と今回の衆院選における比例得票数の変化だ。 

  2021年と2024年総選挙の比例得票数の変化

2021年 2024年 増減
自民党 1991万票 1458万票 -533万票
立憲民主党 1149万票 1156万票 +7万票
国民民主党 259万票 617万票 +358万票
公明党 711万票 596万票 -115万票
日本維新の会 805万票 510万票 -295万票
れいわ新撰組 221万票 380万票 +159万票
日本共産党 416万票 336万票 -80万票
参政党 187万票 +187万票
日本保守党 114万票 +114万票
社民党 101万票 93万票 -8万票

自公は得票数を大幅に減らしているが、立憲民主党の増加票は微々たるもの。自公は自滅したが、立憲民主党に負けたわけではないということだ。

3分の2の国民が「辞任不要」

民意は何を求めているのか。共同通信社が10月28、29両日に実施した全国緊急電話世論調査が参考になる。

・石破内閣の支持率は32.1%。内閣発足に伴う10月1、2両日調査の50.7%から18.6ポイント下落

・与党過半数割れとなった自民、公明両党の連立政権継続を望むとしたのは38.4%。望まないは53.0%。石破茂首相が大敗の責任を取り辞任すべきだとの回答は28.6%にとどまる。辞任不要は65.7%

・自民派閥裏金事件に関与し、当選した議員を要職に起用することに79.2%が反対。賛成は16.3%

石破内閣の支持率は選挙前と比べて急落し、国民の過半数が自公連立政権を望まないとした一方で、石破首相の辞任については、なんと3分の2の国民が「不要」と考えている。

さらに、次の設問に対する回答が重要だ。

・次の政権の枠組みはどのような形が望ましいと思いますか。

自民、公明両党による少数与党政権 18.1%
自民、公明両党に日本維新の会などを加えた政権 19.3%
立憲民主党を中心とした多くの野党による政権 24.6%
政界再編による新たな枠組みの政権 31.5%

最も望まれているのは「政界再編による新たな枠組み」だ。石破首相がこの民意をくみ取り、政界再編による新たな枠組みを提示できれば、現在の厳しい局面を打開できるのではないだろうか。

もちろん、価値観や基本政策が異なる複数の政党間で政界再編を起こすには、相当なエネルギーが要る。筆者は、政界再編のカギを握るのが湛山であると考えている。

2023年6月、湛山没後50年という節目の年に、自民党から立憲民主党の議員まで幅広く集う超党派議連「石橋湛山研究会」が発足した。

この1年数カ月、同会は多くの識者を講師に招き、国民に新たな枠組み・選択肢を示せるよう構想を練ってきた。メンバーには岩屋毅外務大臣、中谷元防衛大臣、村上誠一郎総務大臣ら石破内閣の重要閣僚がのきなみ参加している。そして、いつも最前列に座り、積極的に挙手をして質問していたのが首相になる前の石破氏であった。石破内閣は「石橋湛山議連内閣」とも言えるのだ。

石橋湛山議連を活用せよ

少数与党で、政権運営のためには野党の協力が欠かせない石破政権にとって、この議連を活用しない手はない。もともと超党派なのだから、党派を超えた連携ができるはずだ。自民党内に反乱分子を抱えている状況なら、なおさらである。

議連の幹事長である古川禎久元法務大臣は「自民党総裁選で党の看板を掛け替えたくらいではダメ。既存政党による政治は、もはや限界を露呈している」と、政界再編の糸口を探る。湛山は、与野党が連携する時の接着剤になりうる。

石破首相が政権発足直後に口にした「日米地位協定の改定」は政官界、マスコミが一斉に批判したことでトーンダウンしてしまったが、これぞ保守本流の湛山の目線といってよい。

戦後、首相となった湛山は「向米一辺倒にならず」という気概をみせた。戦後日本にとってアメリカは間違いなく重要な同盟国であるが、それでも首を垂れることなく、不条理なことには正面からもの申すべきであると主張し続けた。日本の領土に米軍ヘリが墜落しても、「日米地位協定の壁」によって日本の警察は事故現場にすら立ち入れない。この現実を変えようとすることが、そんなにおかしなことなのか。

同盟国に応分の負担を求めるとするトランプ氏がアメリカ大統領に返り咲いたことで、日本も対米関係再設計の議論を始める時ではないか。自発的隷従の態度に陥るのではなく、まずは日米地位協定の見直しからスタートしたい。

通商政策を考えるうえでも湛山の視点は参考になる。湛山は、「先ずは功利主義者たれ」と説いた。自分たちだけ儲かればよいという趣旨ではない。自分たちの利益を追求しようと思ったら、おのずと相手の利益も考えなければならないという意味だ。自由貿易を唱え続けた湛山らしい戒めだ。

だが、世界経済は保護主義の方向へ進んでいる。トランプ新大統領は、中国からの輸入品に60%の関税をかけるらしい。矛先は中国だけではない。日本製鉄のUSスチール買収に反対する姿勢からもわかるように、同盟国である日本にも容赦しないはずだ。

だが、アメリカが誘導する保護主義の潮流に、ただ流されるだけでよいのか。歴史を振り返ると、ブロック経済や保護主義は世界大戦につながるリスクを孕む。日本の戦後の繁栄をもたらしたのは、産業技術をベースとした自由貿易であった事実を、もう一度噛みしめる時だ。

問われる構想力

病気のため2カ月ほどで総理大臣の職を辞した湛山は、その後、日本が西側諸国と共産圏の懸け橋となるべく「日中米ソ平和同盟」を提唱した。東西の対立構造にただ引きずり込まれてゆくのではなく、紛争を予防、抑止するために対立国同士が結びつきを強める必要があると唱えたのだ。このくらい大胆な構想力が必要だ。

日本をはじめ世界各国は米中覇権対立によって引き裂かれようとしているが、グローバルサウス諸国は、どちらにつくのか踏み絵を踏ませるような大国のやり方に反発している。米中2極秩序で世界を認識するのではなく、全員参加型の新たな国際秩序が組成されつつあることを理解しなければならない。

一般財団法人・日本総合研究所の寺島実郎会長は、「国連アジア太平洋本部」機能を沖縄に誘致する構想を掲げている。沖縄を、世界の紛争予防、解決、平和維持のための拠点にするという構想だ。中国が台湾に攻め込むという危機感が煽られるなか、岸田政権は防衛予算を大幅に増やすことを決めた。しかし本当に必要なことは、この地で紛争を起こさせない枠組みだ。寺島氏も、石橋湛山研究会の講師として招かれた識者の一人である。

政権運営の打開のためだけでなく、通商政策から安全保障政策まで、湛山には多くのヒントが詰まっている。石破政権が湛山をうまく活用できれば、「前途は実に洋々たり」である。

小原 泰:シン・ニホンパブリックアフェアーズ代表取締役

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