ミスドが「めちゃくちゃ閉店?」噂の裏で進む変化 商品にも空間にも付加価値を大きくつけている
東洋経済オンライン / 2024年11月17日 8時40分
「ミスタードーナツ、いつどの店舗に行ってもめちゃくちゃ混んでるのに、めちゃくちゃ閉店している」という旨のポストがX上でバズった。
この投稿の背景には、10月31日にミスド秋葉原店が閉店したことがある。秋葉原店の開業は1972年。2024年で開業52年となる長寿店舗だ。近年では外国人観光客の増加に伴い、週末ともなればその店舗には多くの行列ができ「なぜそんな店舗が閉店を?」ということが、ちょっとした違和感をもたらしたのだろう。
この投稿では、実際に多くの人がその店舗を利用していたことや同店舗の長い歴史にも言及しながら、「どんなシナリオなら閉店しなかったのだろうか」と投稿を続けている。
本当に大量閉店なのか? 調子が悪い?
では、ミスドは調子が悪いのか?
【画像8枚】「めちゃくちゃ閉店してる」との声もあるが…。業績絶好調のミスド、背景には時代を読んだ「空間戦略」があった
そんなことはない。ミスドは大量閉店していないし、なんならその業績は好調だ。
筆者にはこの投稿が間違っている、と批判する意図はない。ただ、実はこのポストには、近年のミスドの変化が顕著に表われていると思ったので、解説したい。
客数も客単価も増加している
実際、ミスドの業績はどうなっているのか。同ブランドを運営するダスキンの2024年3月期決算資料を見てみると、ほとんどの売り上げをミスドが占めるフードグループの売上高は約584億円。
前期の約489億円から19.6%の増加をしており、期のはじめに予想として出した567億円よりも上回る結果となった。
こうした売上高を支えるのが、客数と客単価の増加。客単価についても6.1%の上昇で、客数も11.9%増加。ここ数年で何度かの値上げを行っているが、客離れが起きるどころか、客数は増えているのだ。簡単に言えば、「絶好調」といったところである。
では、冒頭の投稿で話題になっていた店舗数についてはどうだろうか。同決算資料を見てみると、2024年3月時点の稼働店舗数は全国で1017店舗。前期の新規出店は39店舗で、1000店舗の大台を回復している。
「回復」といったのは、ミスド、2021年期には店舗数が961まで減っていたからだ。2014年3月の1350店舗と比較すると、400店舗近くが閉店するという、文字通りの「大量閉店」が起こっていたのだ。
割合で言えば29%の店舗が閉鎖となった計算になり、事実、売り上げでみても2014年期から営業赤字が続いていた。
同社はその理由を「カフェ」業態が台頭してきたことによって客足を奪われたことや、「テイクアウト」だけに頼る収益構造になっていたことに求めている。
だが、そこから現在まで店舗数が回復している。
赤字からの脱却にあった「商品戦略」と「空間戦略」
実はこうした業績の向上はコロナ禍直後の2021年から起こっているが、その背景には意欲的なメニュー戦略がある。2017年からはじめた他社製品との共同開発メニュー「misdo meets」など、新製品がヒットを飛ばしたのだ。
これは、GODIVAや祇園辻利といった他のメーカーと共同で開発したドーナツとのことだが、その人気が高く、ミスド人気に火を付けた。また、ブランドとのコラボの他にもポケモンやミニオンなど、キャラクターをはじめとしたIPとのコラボレーションも人気を博している。
実は、もう一つの回復原因が「店舗の改装」。24年3月期では103店舗が改装されているが、実はこの動きは2018年ごろから起こっていて、前述した営業赤字に対応するため、ドーナツの持ち帰りだけでなく、店内飲食を重視した造りに店の構造を変えていった。
そのため、店内にはソファ席やコンセントなども作り、外観もおしゃれで入りやすい黒を基調としたものにした。改装が難しい店舗は移転や閉店が検討され、実際、「閉店になった店舗の、近いところで新たな店舗がオープンする」という事例が増えている(福山松永店が閉店し、東尾道店として移転予定……など)。
つまり、改装のために閉店したりリニューアルしたりする店舗もあり、決して閉店がマイナスな意味だけではないことに注目したい。
ミスドは「空間への注力」を行っているのである。
ここからは筆者の持論なのだが、ミスドの「空間への注力」は、コロナ禍以後の成長を大きく支えたのではないかと感じている。
というのも、コロナ禍による外出自粛の反動なのか、飲食業界の多くでリアル店舗への客数の増加が起こっている。
日本フードサービス協会が発表したデータによれば、2023年の飲食業全体の売上高は2019年比で107.7%。物価高の影響があるものの、特にミスドなどが属すると思われるファストフードは2019年比で120.1%で、かなり伸びている。コロナ前よりも多くの人が訪れているのだ。
中でも好調なのがカフェ。同協会の外食産業市場動向調査によれば喫茶業界の前年比売上は120%で、飲食業全体の平均値よりも大きくなっている。背景には飲み会の減少やリモートワークの普及などもあるだろう。
特に筆者は、ここ最近、カフェなどをはじめとして「1000円以内ぐらいでだらだらといられる空間」を「せんだら空間」と名付け、そうした空間にニーズがあることを様々な媒体で述べてきた。まさにそうした「せんだら空間」的な方向として、ミスドはピッタリだったのではないか。
ミスドの改装の要点は「店内飲食の重視」だったが、まさにこの方向は期せずしてコロナ以後の動向にマッチしていたのだ。
居心地が良くなり、カフェとしての利用も増加?
しかも、これは私がインタビューなどをしていて気づいたことなのだが、ミスドではコーヒーのおかわりが自由だったり、コンセントがある空間もあって、だらだらいやすい。それが、その他のカフェと十分競合できる空間をミスドにもたらした。
「ファミレスとカフェの中間のようで、なんとなく使いやすい」というのも、ミスドの空間としての価値だろう。そして、現在の改装でも、ミスドはカフェ化をどんどんと推し進めている(ように見える)。
つまり、ミスドが表面上は「なくなっている」ように見えるのは、逆にミスドが躍進していることを表してもいるのだ。
冒頭のXのポストのように、秋葉原店の閉鎖で「ミスドってそんなに儲かりにくい構造なのか?」という疑問を持った人も多かっただろう。この閉鎖についてショップ側の掲示は「当ショップの都合により」となっており、取材を申し込んだメディアに対しても、詳細な回答を行っていない。
しかし、全体として見ると、ミスドは商品の魅力を鍛える一方で、空間的な魅力も向上させてきたのは、間違いのない事実なのだ。
業態拡大にも表れるミスドの変化
ここまで見てきたように、ミスドは商品にしても空間にしても「高付加価値」を売りにしつつある。商品ではブランドとコラボした高付加価値の商品を多く取り揃えているし、空間にしても「だらだらいやすい」、カフェと競合できるような空間を作っている。それらの策が功を奏したといえるだろう。そこに、ミスドの変化の核心がある。
実はミスドは10月25日、大手ハンバーガーチェーン・モスバーガーとのコラボ店舗である「MOSDO!」を埼玉県三郷市の「ららぽーと新三郷」に展開した。
実はこの業態は2010年から模索されていたものの、2015年に出店した関西国際空港店を最後に出店が途絶えていた(同店舗は2020年に閉店)。関東での出店は初めてとなる。ハンバーガーとドーナツを一緒に提供することで、ファミリー層の需要やランチ以外での時間の需要拡大を狙っている。
モスバーガーの商品などを付加価値として魅力をアップしているだけでなく、その空間としての多様性を押し出す方向で、まさに現在のミスドの変化の方向性を象徴するような出店だ。
安い値段で販売し、テイクアウトありきで店を組み立てる方向からの変化がじわじわと起こってきているのが、ミスドの現状なのだ。そして図らずも、そんな変化を秋葉原店閉店に対する人々の反応が映し出している。
谷頭 和希:都市ジャーナリスト・チェーンストア研究家
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