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「タワマン反対はカスハラ?」品川区で深まる対立 超人気エリアで起こる「住民 VS.行政」バトル

東洋経済オンライン / 2024年11月19日 9時30分

住民団体による街頭活動(筆者撮影)

住宅購入は人生で一番大きな買い物。それは令和の現在も変わらない。しかし東京23区では新築マンションの平均価格が1億円を超えるなど、一部のエリアでは不動産価格の高騰が止まらない。

不動産市場の変遷や過去のバブル、政府や日銀の動向、外国人による売買などを踏まえ、「これからの住宅購入の常識は、これまでとはまったく違うものになる」というのが、新聞記者として長年不動産市場を研究・分析してきた筆者の考え方だ。

新刊『2030年不動産の未来と最高の選び方・買い方を全部1冊にまとめてみた』では、「マイホームはもはや一生ものではない」「広いリビングルームや子ども部屋はいらない」「親世代がすすめるエリアを買ってはいけない」など、新しい不動産売買の視点を紹介。変化の激しい時代に「損をしない家の買い方」をあらゆる角度から考察する。

今回は、品川区で起こっている住民による再開発反対運動と再開発を推進したい行政側の動きをレポートする。

進む再開発に疑問を投げかける住民たちの動き

あちこちで再開発が進む東京。特に注目されるのは品川区だ。

【画像あり】筆者が入手した品川区による「悪質クレーム等調査票(まとめ)」

同区で進む主な再開発事業は武蔵小山、大崎西口、東五反田、品川浦、大井町、戸越の6エリアとされ、実は東京都最大級の再開発エリアといえる。

地域の活性化・ブランド化などにつながるとされる再開発だが、地域住民たちが諸手を挙げて賛成するわけではない。

タワマンを核とした再開発が次々と進む品川区で、一部住民と行政、開発事業者との間で摩擦が深まっている。

品川区で再開発に反対する「住み続けられるまちづくりをめざす品川区民の会」(以下「めざす会」)に加入する住民団体は、現在9つを数える。

具体的には「大崎西口駅前地区再開発を心配する会」「大崎西口高層建築を考える会」「武蔵小山の再開発から住民と職場を守る会」「五丁目の環境と文化を守る会」「東大井5丁目1~4番地区 再開発を心配する会」「戸越公園駅周辺 調和のとれた街並みを創生する会」「住民の暮らしと安全・環境を守る会」「放射2号線を考える会」「品川浦周辺地区 再開発を再考し立ち退きから住民を守る会」である。

ちなみに、9月には東五反田一丁目地区で、新たに「東五反田一丁目地区市街地再開発を心配する会」が正式発足した。

品川区の一部住民や一部の区議によるこの反対運動を、行政はどう受け止めるのだろうか。

以前の記事でも紹介したように、「歴史ある街並みや文化を残したい」住民側と「タワマン系住民を増やし、財政を豊かにしたい」行政側の思惑がある。

東京都は知事主導でカスタマーハラスメント(カスハラ)対策の条例を制定し、2025年4月に施行する予定だ。

品川区長の森澤恭子氏は、元大手デベロッパー社員で広報担当も務めていた。都議時代は小池百合子氏の都民ファーストの会派で当選した。

請願や陳情を「悪質クレーム」とする行政側

品川区では今夏、区庁内で「悪質クレーム等調査票(まとめ)」を作成しているが、筆者は流出したこの庁内資料を入手した。

問題なのは、品川区が区民による行政への意見を半ばカスハラ扱いしていることだ。

もちろん、常軌を逸するような悪質なクレームには対策すべきであるが、再開発エリアに対する情報公開請求、請願や陳情の提出について、品川区では「悪質なクレーム」としているのだ。

「悪質クレーム等調査票(まとめ)」において、再開発事業への請願や陳情については次のように記載されている。

「再開発事業への反対者であり、元区議会議員であることから、地域に反対の旨のビラを配布したり、区議会に多数の請願・陳情を多数提出していることから、対応業務が増大し、業務量が増加している。また、その内容に職員や再開発関係者の個人名が記載されていたり、事実と異なる内容や組合等を誹謗中傷する内容が含まれていたり、職員の処分を求める陳情の提出など、職員が安心して働くことを妨げている状況。」

上記を見ると、品川区は再開発事業への反対について「悪質クレーム」であると断定していることになるのではないか?

ちなみに、上記に書かれた人物は佐藤弥二郎氏(元区議)だ。同氏は武蔵小山で相次ぐタワマン開発に数年前から一貫して反対してきた住民団体(「武蔵小山の再開発から住民と職場を守る会」)の代表であり、無記名でも同氏を指しているのは一目瞭然だ。

「愛される商店街」がタワマンで分断?

東京でも有数の長さ(800m)と賑わいを誇り、地元住民からも愛される武蔵小山商店街。すでに駅側の商店街入り口付近には、タワマン2棟がそびえ立つ。

さらに商店街の中にタワマン数棟を新たに建設し、商店街を寸断する計画が進んでおり、実現すれば東京都で一番長い人気のアーケード街が寸断される。

行政からの補助金と都や区が決める都市計画がタワマン建設の推進力だ。累積で400億円規模の補助金も投入される予定となっている。

一方、品川区は戸越銀座など域外からも買い物客を集める数多くの地元商店街をPRし、商店街自慢のパンフレットを作成してきた。

武蔵小山商店街では行政の関心事が再開発事業にシフトし、この「カスハラ騒動」を生むことになったのだ。

「めざす会」では、2024年11月7日に区庁舎前などで街頭活動を行い、住民代表をカスハラと断定するような区の姿勢については、事前に区長に面談を求めた。

しかし区長側は面談には応じず、住民側に街頭PRのためのチラシ案の一部削除を申し入れるという対応があった。

削除要請があったのは、「区長がこのまま面談を拒否するのであれば私たちはやむを得ず、再開発の実態を全区民に周知するため、11月7日12時半より1時間、区役所前道路での街頭宣伝により区民に訴え、代表が区長室に伺わせていただきます。多用は承知の上ですが在室下されるよう申し入れ致します」という部分だったという。

区議会で提案された「驚き」の内容

ちなみに、品川区議会では、件のカスハラ文書の作成とほぼ同時期に、ある騒動が起こっていた。

8月29日の区議会の議会運営委員会で、自民党の議員がある提案書を提出したというのだ。

その提案は「本会議の討論で政党や議員を批判するのは問題であるため、制限をかけるべきだ」という趣旨であり、さらに「本会議の討論は2分でいい」などとされたという。

さすがにこの提案は多くの区議の反対にあい、実を結ばなかった。

再開発の反対者を実質名指しするようなカスハラ文書と、この提案の狙いは、どこか重なる部分があるように思える。

こうした品川区をめぐるトラブルの根本要因は、都市開発部門の事実上の最高幹部が都庁から品川区庁舎に派遣されていることも大きいだろう。

また、品川区庁舎には東京都都税事務所や都建設局第二建設事務所が入居し、「ここは都庁の出先なのか?」と勘違いするほどだ。

「めざす会」の中でも最近発足したのが「品川浦周辺地区 再開発を再考し立ち退きから住民を守る会」だ。

彼らは江戸時代から風光明媚な品川浦・北品川駅エリアの再開発に反対している。

品川駅の南に位置する北品川駅周辺では、昔ながらの風情が残る名勝地でもある品川浦を中心に、13ヘクタールに及ぶ再開発計画で10棟ものタワーマンション建設計画が進もうとしているのだ。

品川駅や高輪ゲートウェイ駅の再開発に合わせるかのような北品川駅(京急電鉄)界隈の高架・立体交差事業と一体となっている。

江戸時代には旧東海道として栄えた歴史ある「品川浦」。現在も舟だまりにつり船や屋形船が並び、なんともいえない風情がある。

立地条件もよい湾岸エリアのこの地にタワマンを建てれば、よく売れるのかもしれないが……。

忘れてはならない。再開発に反対する住民たちの存在

品川区内の再開発の反対運動については、品川区外の都民はあまりその実態をよく知らない。

「品川区民は品がいいから、反対運動などしないだろう」といったイメージがあるかもしれないが、そんなことは決してない。

きらびやかに見える再開発の裏側には、強い意志をもって戦う住民たちが存在することを忘れてはならない。

山下 努:不動産ジャーナリスト

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