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平気で「ちらし寿司の素」買う人の盲点【ごはん編】〈再配信〉 「残念すぎる酢飯」が多い、その驚きの裏側は?

東洋経済オンライン / 2024年11月19日 19時0分

「ちらし寿司のおいしさ」を決めるものは何でしょうか(写真:Nana/PIXTA)

70万部の大ベストセラー『食品の裏側』の著者、安部司氏が開発したレシピ集『世界一美味しい「プロの手抜き和食」安部ごはん ベスト102レシピ』が9刷7万部を突破し、話題を呼んでいる。

『食品の裏側』発売後、全国の読者から受けた「何を食べればいいのか?」という質問に対する答えとして、安部氏が自ら15年かけて開発した膨大なレシピノートの中から、「簡単に時短に作れるレシピ」を厳選した1冊だ。

いまなお食品添加物の現状や食生活の危機をメディア等で訴え続けている安部氏が「平気で『ちらし寿司の素』を買う人が知らない超残念な真実【ご飯編】」について語る。

*本記事の後編:平気で「ちらし寿司の素」買う人の盲点【具材編】


【東洋経済オンラインで2023年3月1日に公開した記事の再配信です】

【写真でわかる】「ちらし寿司の素」の残念な真実

「ちらし寿司の素」に衝撃を受けた理由

3月3日は桃の節句。ちらし寿司を召し上がる家庭も多いことでしょう。

ちらし寿司はトッピング次第でいくらでも華やかになりますし、老若男女、誰にも好まれる料理です。

私も子どもの頃からお祝い事などのあるたびに、母親が作ってくれるちらし寿司が楽しみでした。

しかし、近頃は「ちらし寿司の素」を使う人が多いようです。

レトルトパウチに入っているもののほか、粉末酢とセットになった瓶詰タイプもあるようです。

いずれにしても炊きたてのご飯に混ぜるだけで、ちらし寿司が完成するという「利便性」「簡単さ」が人気なのでしょう。

確かにちらし寿司はたくさんの具材を切って煮込んで、合わせ酢を作って混ぜて……と、作るのがちょっと面倒かもしれません。それが「混ぜるだけ」の手軽さでできるなら、こんなにありがたいことはありません。

私も今回、市販の「ちらし寿司の素」を購入して作ってみたのですが、非常に驚きました。控えめに言っても「おいしくない」。衝撃的でさえありました。

その最大の原因は「酢飯」です。酢飯に使われている「お酢」が決定的においしくないのです。

本来、「伝統的なお酢(純米酢)」は、米を蒸して「麹」を育てるところからはじまります。

できあがった麹と蒸した米を混ぜて、ここに「酵母」を加えて発酵させることで、いったん日本酒を造ります。これは飲用の日本酒とは違って、風味の強い酒です。

その酒に「酢酸菌」を加えて、お酒の表面で「酢酸菌」を育てていきます。この「酢酸菌」が、お酒の「アルコール成分」を、お酢の主成分である「酢酸」に変えます。

これを「酢酸発酵」といいます。昔ながらの壺(甕[かめ])で、ゆっくり熟成して完成させます。これを「上面発酵」といいます。

「純米酢」はなぜおいしい?「穀物酢」って何?

できるまで半年から1年かかり、その間に微生物が醸し出す「有機酸」や「アミノ酸」「糖類」などによって複雑な味わい、風味が生まれます。

これが「純米酢」のコク、おいしさを作り出すのです。

このお酢の発酵の過程における主成分を化学的に説明すると、以下の3ステップになります。

【ステップ1】米の「でんぷん」が、麹で「ブドウ糖」に変わる
【ステップ2】「ブドウ糖」が、酵母で「アルコール」に変わる
【ステップ3】「アルコール」が、酢酸菌で「酢酸」に変わる

化学的には「でんぷん」が「ブドウ糖」になって「酒」になるわけですから、「でんぷん」であれば米に限らず、より安価な小麦やトウモロコシなどを使ってもいいわけです。

ただし、「小麦だけ」「トウモロコシだけ」で作ってしまうと、全然おいしくありません。ですから、米に小麦、トウモロコシを混ぜて作るのが一般的で、これを「穀物酢」といいます。

「穀物酢」は小麦、トウモロコシが混ざっている分、「純米酢」に比べて圧倒的に安いけれども、風味が足りません。でも現実的にスーパーで一番売れているのは、この「穀物酢」です。高価な「純米酢」はなかなか売れません。

ちなみに、どの材料を使うにしても「酢酸発酵」させたものを「醸造酢」といいます。いま市場に出回っているものの多くは、この「醸造酢」です。

「醸造酢」に対して、「酢酸発酵」を経ない「合成酢」というのがありますが、家庭用としてはほとんど出回っていません。

いま述べた「純米酢」も「穀物酢」も、どちらも「醸造酢」です。

「醸造酢」の原料としては穀物だけでなく、果実、アルコールなども使われます。

あるいはこれらを混ぜ合わされたものもあります。簡単に言えば、原料は何でも、発酵させたら「醸造酢」なのです。

コンビニのポテトサラダなど、マヨネーズを使ったサラダに「アレルゲン」として「りんご」と書かれていることがあります。

これはみなさん不思議に思うようで「なぜりんごが使われているのですか?」と聞かれることがよくあります。

これはマヨネーズの原料となる「醸造酢」の原料に、りんごが使われているからです。

もっと早く安価に作れる「アルコール酢」「速醸酢」

さて、昔ながらの伝統的な製法に対して、もっと早く作る方法があります。

「伝統的なお酢のつくり方」ではわざわざ米から酒を造りますが、「そんなことをしなくても、アルコールから直接お酢を作ればいい」という発想が浮かぶわけです。

つまりアルコールを買ってきて、そこに「酒粕」と「酢酸菌」を入れて、樽などで発酵させれば、手っ取り早くお酢ができるわけです。これを「アルコール酢」と呼びます。

さらに、これをもっと早く作るためには、ここに空気を送り込みながら強制撹拌(かくはん)して発酵を促します。これを「速醸法」と呼び、それで作られたお酢を「速醸酢」といいます。もちろん「アルコール酢」も「速醸酢」も、先ほど述べた「醸造酢」です。

「速醸法」だと3~5日でできるし、なんといっても非常に安価です。

しかし、この「アルコール酢」「速醸酢」は、風味のある日本酒を原料としないから、お酢のコクや風味がありません。鼻にツンときつさが来て、とげとげしい味がします。私に言わせれば、化学物質である「酢酸」そのものに近い味です。

さらにいえば、「伝統的な製法」で作ると、4%程度の濃度(酸度)のお酢ができますが、「速醸法」で作ると10~15%という高濃度(酸度)のお酢ができます。

これを5%程度に薄めて製品にするため、さらに風味が飛んでしまうのです。

それから「瓶詰のちらし寿司の素」に使われている「粉末酢」についても述べておきましょう。粉末酢単品の商品も売られています。

これは高濃度(酸度)の「合成酢」や「速醸酢」などの「醸造酢」を、「酢酸ナトリウム」や「デキストリン」などの粉末の基材にしみこませて作るのです。焼きそばの粉末ソースも同じような作り方をします。

「粉末酢」はお酢本来の風味がなくて、私にはおいしいとは思えません。

以前は「粉末酢」を使っていたメーカーも液体にするなど、業界でも切り替えが進んでいるようです。 

お酢に「当たりはずれ」が大きい理由

お酢についてはセミナーや講演会などで、食品加工のプロからよくこのような質問を受けます。

「なんでこんなに酢がおいしくないんですか」

「なぜお酢には当たりはずれがあるのですか?」

もちろん一般の方も疑問に思うところだと思います。お酢の製法と種類を知れば、選び方も変わってくるはずです。

いずれにしてもこの「アルコール酢」「速醸酢」は今や一番多く出回っているお酢です。しかも使われている原料は小麦、トウモロコシを混ぜた「穀物酢」がほとんどです。

安く売られている食酢はもちろんですが、市販の「ドレッシング」「甘酢あん」「お酢のドリンク」などの多くは、この「アルコール酢」「速醸酢」です。最近人気の「だし入りの合わせ酢」もこれだと思います。

ただ、ドレッシングやドリンク類であれば、ほかの調味料もいろいろ使われるから、それほど「お酢そのものの味」は問われません。

つまり、それらの食品では、お酢がおいしくなくても、ごまかされるのです。

しかし「酢飯」は、それらの商品とは根本的に違います。そこにこそ「ちらし寿司の素」の盲点があります。

なぜなら「お酢の味」が「ご飯(酢飯)の味」を決定的に左右するからです。

一般的に、すし酢に使われるのは「お酢と砂糖と塩のみ」です。淡泊な酢飯にはお酢のよしあしがダイレクトに反映されてしまうのです。ごまかしがききません。

私の食べた「ちらし寿司の素」に使われていたのも、この「アルコール酢」、もしくは「速醸酢」だと思われます。混ぜたときの「酢酸臭」がとにかく強く、うま味がなく、酢飯のおいしさが感じられませんでした。

あくまで私の意見ですが、酢は伝統的な「純米酢」が一番おいしいと思うし、寿司には「純米酢」が最も合うと思っています。

「穀物酢」は風味がないし、「玄米酢」「果実酢」はやはり米とはテイストが合いません。

「バルサミコ酢」はもっと合いません(笑)。

「寿司のおいしさ」を決めるものは何か

「ちらし寿司は具材がいろいろ入るしトッピングもあるのだから、酢飯はあまり関係ないのでは?」と思う人もいるかもしれません。

しかし、そうではありません。ちらし寿司のおいしさは「酢飯」が決めるのです。

ちらし寿司というより、寿司というものは「酢飯(シャリ)」のおいしさが決め手といっても過言ではありません。

いい「お酢」と「砂糖」と「塩」で作れば、酢飯は本当においしいものです。

「お酢の酸味」と「アミノ酸のうま味」「砂糖の甘み」「塩のしょっぱさ」がご飯と絡み合って、「和食の究極のおいしさ」が表現されているのが「酢飯」だと私は思います。

酢飯がおいしければ、それだけでちらし寿司は半分成功したようなもの。

逆に言えば、酢飯がおいしくなければ、どんなにいい具材を使っても、豪華なトッピングをしても、おいしいちらし寿司はできません。

そのぐらい、寿司において、酢飯は重要な位置を占めるものなのです。

ちなみにお酢の作り方、市販の寿司に使われる添加物については『食品の裏側』でも述べているので、興味のある方はご覧ください。

次回の記事では、【具材編】としてちらし寿司の具材の残念な真実を掘り下げつつ、「本当においしいちらし寿司の作り方」も紹介したいと思います。

*本記事の後編:平気で「ちらし寿司の素」買う人の盲点【具材編】

安部 司:『食品の裏側』著者、一般社団法人 加工食品診断士協会 代表理事

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