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ファイル共有ソフト「ビットトレント」利用の陥穽 ここにきて利用に伴う損害賠償請求が増えている理由

東洋経済オンライン / 2024年11月21日 8時30分

ビットトレントは2003年にリリースされたソフトです。なぜここにきてビットトレント利用について損害賠償請求が増えたのか?という疑問が出てきますよね。

著作権侵害で損害賠償請求をするためには、著作権侵害をした人が誰なのかを特定する必要があります。ビットトレントではユーザーの氏名住所が表示されるわけではないので、著作権者からすると、以前は、著作権侵害をした人を特定するためのハードルが高かったといえます。

しかし、近年は技術の向上により、特殊なソフトを使って、ビットトレントにおける特定のファイルの提供者のIPアドレス、ポート番号、発信時刻(タイムスタンプ)を記録することができるようになっています。

そして、これらの情報を元に、著作権者が該当のIPアドレスを管理しているプロバイダーに対して「発信者情報開示請求」を行うことで、著作権侵害をした人の氏名や住所を把握することが可能となっています。

また、2022年のプロバイダ責任制限法の改正により発信者情報開示命令手続が新設され、以前より早期に発信者を特定できるようになった、という事情もあると思われます。

著作権者から発信者情報開示請求をされたことは、どうやってわかるのでしょうか。

自分(または同居の家族)がインターネット接続サービス契約をしているプロバイダー(ソフトバンク、KDDI、エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ等のプロバイダー)から、「発信者情報の開示等に係る意見照会書」が届く、というのが通常のパターンになります。

この意見照会書には、「あなたが発信した情報の流通により権利が侵害されたと主張する方が当社に対して発信者情報開示を求めてきたため、開示に応じてよいか、ご意見を照会します」という内容が書かれています。届いた人はプロバイダーに対し、開示に同意するかしないかを記載した書類を返送することになります。

意見照会書に対し開示に同意しないと返送して、同意しないことはできます。ですが、同意しなかったからといって自分の住所氏名等が開示されないというわけではありません。裁判所で発信者情報開示が認められると、プロバイダーは要求されている発信者情報を開示します。

「その程度の金額か」と考えるのは危険

ビットトレントを使った著作権侵害で、いったいいくらくらいが損害賠償請求されているのでしょうか。

2021年8月27日に東京地方裁判所で、ビットトレントのユーザーが責任を負う損害額について判断されました。この事案で、著作権者側は複数のユーザーに対して、数千万円~数億円の請求をしていましたが、上記の判決では、各ユーザーの損害額は数万円(10万円未満)と判断されました。また知的財産高等裁判所では、さらに損害額が少なく認定されています。

ですが、「なんだ、その程度の金額か」と考えるのは危険です。どのくらいの期間ビットトレントを利用しアップロード可能な状態にしていたかなど、損害の計算は個別の事案により変わりますし、この類の紛争は蓄積が少ないため、今後の主張立証次第では損害の算定方法が変わる可能性もあるためです。

ビットトレントをはじめとするファイル共有ソフトは便利なものですが、上記で記載したリスクもあるため、利用する場合には、その前にその仕組みをきちんと理解することが重要です。

宮川 舞:銀座数寄屋通り法律事務所 弁護士

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