1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

北海道にホテルを作りまくる「通販会社」の"狙い" カタログ通販ベルーナが今やホテルで260億

東洋経済オンライン / 2024年11月28日 8時30分

札幌市の中心部に建つ、札幌グランベルホテル。実はカタログ通販で知られる「ベルーナ」が運営している。同社はここ数年で、ホテル関連事業を大きく成長させているのだ(写真:グランベルホテルグループ提供)

主とする事業が社会的背景から斜陽となったとき、企業はどう立て直すべきだろうか。カタログ通販で知られるベルーナは、その見本となる事例の1つかもしれない。

前期(2024年3月期)、約2080億円の売上高のうち、実に262億円をホテル業で稼ぎ出し、右肩下がりの通販事業を支えている。国内外に22施設を所有しており、うち5施設は北海道に。インバウンドの増加に伴い、まだまだ業績は伸びそうだ。

通販会社が、なぜホテル事業でこれほどの成功を収められたのか。異色の成長戦略に迫った。

9年で300億円増加したプロパティ事業

「定番のアイテムがカタログで安く買える通販会社」。

【画像】ベルーナが運営する、"絶景"なホテルたち

中高年の読者の多くは、ベルーナにそんな印象を抱いているのではないだろうか。筆者もその一人だった。

しかし同社は、2006年にホテル事業に進出。いまやモルディブからワイキキ、スリランカまで、海外4施設を含む26のホテルを経営するホテルチェーンとしての顔も持つ。

では、「通販会社のホテル」とは一体どんなものだろう。

【画像で見る】ベルーナが運営する、"ロケーション最高"なホテルたち

ベルーナの社長を務める安野清さんに尋ねると、国内に所有するリゾートホテルは、「旅館のおもてなしとホテルのきちんと感、その中間の位置づけ」だという。心なしか、同社の親しみやすいカタログのイメージを彷彿とさせる。

一方、ベルーナが「都市型ホテル」と定義する施設は、ビジネスホテルに大浴場、バー、レストランなどを充実させて少しグレードアップしたデザイナーズホテルを指すそうだ。

国内に8軒、コロンボに1軒ある「グランベルホテル」をメインブランドに位置づけている。海外に持つリゾートホテル3施設は、「ラグジュアリーブランド」という位置づけだ。

平均客室単価は2024年9月現在で、都市型ホテルは平均1万8000円、リゾートは一人当たりの換算で1万2000、1万3000円~3万円。客室に露天風呂が付いていたり、面積が広い部屋なら3万5000円程度まで上がることもあるという。

利益面で大きく会社を牽引

ホテル業界紙『月刊ホテレス』のホテル客室稼働率調査によると、2024年9月の全国の平均客室単価は1万3907円。コロナ禍の落ち込みなど外的要因に左右されることもあるそうだが、基本は平均か、それより高めで推移しているということだ。

売上高も好調で、ホテル、賃貸、発電所とプロパティ事業を合わせて前期320億円、うち8割をホテルが占めている。営業利益は42億円。2023年3月期はプロパティ事業の売上高が208億円、営業利益13億円だったことを考えると、恐ろしい伸び率だ。

さらに今期は、売上高366億円、営業利益53億円を見込んでいる。2025年4月には札幌に605室、7月には小樽に159室のホテルを開業する計画だ。2024年12月には、定山渓ビューホテルの2フロアをエグゼクティブフロアにする大改装も予定。その増収も反映されての数値である。

安野社長は、「東京や京都のインバウンド、コロンボやモルディブの稼働率、売り上げともに伸びていて、まだまだ成長を見込んでいます」と自信を見せる。

その言葉通り、同社の東京のインバウンドの割合は約85%と高く、京都では95%を占める。全体では、都市型ホテルで60%、国内ホテルのリゾート系で20~30%だそうだ。

日本人を顧客にしてきた通販会社にとって、このようにインバウンド需要を取り込むことは、広義でのリスク分散と言えるのかもしれない。

ただし、これはあくまで結果で、最初からインバウンドを狙ったわけではないそうだ。日本人客が中心だったが、他ホテルもそうであったように、2015年頃から飛躍的にインバウンドの利用が増えていったのだ。

ベルーナのホテルが北海道に多い訳

同社のホテルの26施設中5施設が北海道にあるのも、最初はインバウンドを狙ったものではなかった。

元々ベルーナの前身企業は、1975年頃から札幌、釧路、北見に事務所を構えていた。安野社長はそこへ頻繁に訪れるうちに、食や観光資源、大自然のポテンシャルが高いことを実感。「ますます人気が高まってくるだろう」「かなり集客できる場所ではないか」と、北海道でのホテル経営を構想するようになったという。

これを機に、異業種交流会などを通じて人脈を築き、2021年、札幌とすすきのの物件との巡り合いがあって、グランベルホテルをオープン。新設とM&Aを続け、5施設を経営するに至ったのだ。

前述した通り2025年には札幌、小樽にも新たな開業を控えるが、北海道ではインバウンド人気にプラスして、ここ数年、温暖化によって避暑のニーズも高まっている。こうした状況から、今後もマーケットは拡大すると睨んでいるそうだ。

「需要と供給のバランスから見て、まだまだホテルを増やしても大丈夫だと考えています。鍵となるのは飛行機の便数で、航空燃料不足や空港への乗り入れ数にまだ課題があります。ですが行政も解決に向けて動いており、見通しは明るいのではないでしょうか」

北海道以外では、収益性が高い東京であと2、3軒を。次いで、スリランカ、ロサンゼルスでもホテル建設を検討したいと話す。業績の向上は続きそうだ。

利益が半減するシーズンも…

順調そのものに見えるホテル業だが、課題もある。ひとつには、リゾートにはシーズン性があり、季節によって稼働率にばらつきがあることだ。北海道は比較的安定しているが、たとえば、福島県裏磐梯にある「裏磐梯レイクリゾート」は、8月、10月の宿泊客が突出して多いという。逆に都市型ホテルは全般的に8月が弱い。

「とはいえ、インバウンドの増加で以前よりばらつきは減っており、悪くても65~75%の稼働は維持できています。しかし中には、単価を下げなければ稼働につながらない時期もあります。結果として、純利益が半減する月も……。一年を通して単価が下がらないのは東京だけですね」と安野社長は眉根を寄せる。

課題はあれど、ベルーナのホテル業はなぜこんなに成功できているのだろうか。その理由はビジネスへの根本的な姿勢にありそうだ。

カタログ通販事業とホテル事業を端から見ると、まったく違って見える。けれど安野社長は、「専門性の違いは感じていません。商売の基本は同じ。弊社では呉服や化粧品販売もしていますが、『この事業だからこう』という考え方はしていないのです」とこともなげに言う。

大切にしているのは、近江商人の「三方良し」にも通ずる、3つの満足度の向上だそうだ。それぞれの要素について具体的に見ていこう。

1.お客様満足度の向上 「気持ちよかった」の声を追求する

通信販売でのお客様満足度の向上とは、いかにお客様に喜んでもらう商品を用意するかにある。これはホテルで言えば、いかに「気持ちよかった」とお客様を喜ばせ、リピーターを増やせるかに当たる。

両者に共通するのは、「顧客目線」「お客様の声を聴く姿勢」だ。「お客様の、特にマジョリティの意見は生かしていかなければ取り残されます」と安野社長はきっぱりと言う。

だから、顧客の声を基に、接客や設えにも気を配る。接客で最も重視しているのは礼儀礼節だ。次いで、「従業員が楽しく仕事をしている姿、雰囲気をお客様に見せる」ことだという。「どんな言葉を使うか」といった形式よりも、最もそれがダイレクトに伝わると説明する。

他方、設えについては、積極的に投資をしてリノベーションすることを心がけている。

M&Aで取得した旅館や、年数を経たホテルは、必要に応じてロビー、サウナ、カラオケルーム、客室、売店などを「気持ちのいい場所」として生まれ変わらせることを意識している。加えて、他チェーン同様、専用サイトや会員制度も取り入れている。

2.従業員満足度の向上 「主役意識」で従業員が成長する

ベルーナの従業員満足度とは、「社員やアルバイトスタッフが、いかに楽しく、気持ちよく働けているか」ということだ。そのためには、「なるべく従業員を主役にして、モチベーションをあげることが不可欠」だと安野社長は強調する。

事業が「人ごと」にならない「主役意識」「当事者意識」をもたせるために、通販、ホテルどちらにも、日々の「改善、改良、改革」と、「気づき→提案→活かす→反省」のサイクルを取り入れている。従業員の誰もが気づいたことを活かせる、実践できる環境を目指しているのだ。

具体的には、月に1~2回、グループ提案、個人提案の場が設けられており、新入社員であっても「経験していないからこそ気づくこと」を提案して活かせるという。

加えて、待遇の改善にも力を注いでいる。給料は顕著な例で、2023年に7%、2024年に5%、合計12%も引き上げられた。

3.会社満足度の向上 「全員参加」で改善し、収益力を高める

ベルーナの会社満足度とはすなわち、「いかに、しっかり稼ぐのか」ということだ。「それを実現するにはどうしたらいいかを考え、改善、改良、改革を続ける文化を社内にどのように作るのか」という意識が要となると安野社長。事業の根幹とも言える部分だが、そこにも「社員全員で」取り組んでいるという。

「弊社はなんでも“全員参加型経営”です。顧客満足度、従業員満足度、会社満足度の向上。いずれの方法もみんなで考えましょう、そのために改善、改良、改革をしましょうと折に触れて伝えています。自分で考えた改善案でうまくいくと成功体験になりますよね。それをいかに積み重ねてもらうかを追求するのが私の仕事なんです」

インタビュー中、安野社長はおそらく10回以上、この「改善、改良、改革」という言葉を口にした。3つの満足度の向上を求め、変わり続けることが、すべてのベルーナの経営の支柱となっているということなのかもしれない。

そして、これを追求する上では、同社ならではの強みが存在する。

通販のDNAが活きる集客戦略

その強みとは、長年の通販事業で培ったマーケティング力だ。通販事業から行っていた「お客様の声を聴く」という姿勢は、デジタル時代において、緻密なデータ分析とシステム構築という形に進化した。

通販で培ったECチームがプロパティ事業でも活躍

そして今では、元々通販事業を行っていたECチームのうち25人が、ホテル事業のデータ分析を行い、集客、システム構築に反映していると明かす。

彼らは、各ホテルの特性に合わせて最適な集客戦略を展開。立地やブランド特性に応じて、リアルエージェントとWEB系エージェント、自社ホームページでの直販、企業向け営業など、多彩なチャネルを巧みに使い分けている。

インバウンド需要については、ブッキング・ドットコムやアゴダなどの海外OTAと連携し、効率的な集客を実現している。

「3つの満足度の向上の力と、マーケティング力。それらをバランス良く発揮し、総合力で差をつけています」。成功の理由を問うと、安野社長はそう答えた。だが、さらなる秘訣が隠れていそうだ。

後編では、ホテル事業の成功を支えている投資判断、「浪漫」と「計算」の両立に迫る。

笹間 聖子:フリーライター・編集者

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください