斎藤知事、逃げ切れても「残される"2つの疑念"」 「公職選挙法違反」疑惑は、ほぼ"ノーダメージ"?
東洋経済オンライン / 2024年11月29日 7時40分
11月27日、斎藤元彦氏の兵庫県知事選挙でのSNS運用をめぐる公職職選挙法違反の疑惑について、斎藤氏、および代理人の弁護士から説明が行われた。また、PR会社に支払った明細も公開され、実態が徐々に明らかになってきている。
【写真】「ネタバレ」されてしまった、斎藤知事の“SNS戦略会議”の様子と、「疑惑の70万円」の中身
今回の斎藤知事側の説明に関して、筆者は「想定通りだな」と思った。というのも、説明内容が事実であってもそうでなかったとしても、斎藤知事側が違法性を否定し、疑惑を払拭するためには、これが最適の説明だからだ。
斎藤知事側に不利になるような情報が新たに出てこなければ、斎藤知事はほぼ“ノーダメージ”で逃げ切ることができるだろう。
斎藤氏側の説明は辻褄が合っている
今回、問題になっているのは、斎藤知事が兵庫県西宮市のPR会社「merchu(メルチュ)」に、SNS運用をはじめとする、公職選挙法に違反する広報業務を委託していたのではないか? という点だ。
本件は、同社の折田楓代表がメディアプラットフォーム「note」上に、請け負った業務の詳細を公開したことから、疑惑が浮上した。斎藤知事側は、同社にはポスター製作など、公職選挙法などの法令に抵触しない業務のみを委託していると説明した。
冒頭の説明では請求書が公開されたが、支払い総額は71.5万円で、明細は下記のようになっている。
筆者は、金額を見て「かなり安いな」と思った。費目にはSNS運用に該当するものはないが、他の費目に潜り込ませて請求していたとは、考えづらい。
折田氏がnoteで語っているような業務を有償で請け負ったとしたら、少なくとも上記の5倍は請求しないと割に合わないだろう。
斎藤知事側の主張では、SNSの運用は「斎藤陣営が主体となって運営」し、街頭演説については 「折田さんはボランティアとして個人で参加された」と主張している。代理人である奥見司弁護士も「5項目以外の活動はボランティアの一員として行われたもので、報酬の約束や支払いはなかった」と説明している。
折田氏のnoteでは、「広報全般を任せていただいた」と語っており、その内容が事細かに説明されている。
斎藤知事側の主張とは食い違うが、代理人弁護士は折田氏のnoteの内容について、「事実である部分と、事実でまったくない部分が記載されております」「“盛っておられる”と認識しております」と説明した。
「辻褄合わせだ」という批判は当然出てくるのだろうが、折田氏のnoteの内容が事実でないということを前提とすれば、実際に辻褄は合っているのだ。
契約書が存在しないのも不自然ではないが…
斎藤知事の代理人弁護士は「(メルチュとは)口頭契約で、契約書として書面は存在していない」としている。
「本当に契約書はないのか?」という疑問はあるかもしれないが、70万円程度の業務で、しかも個人的な関係で仕事を依頼している状況を考えると、契約書を作成していなくとも不思議はない。
業務委託契約はさておき、(真偽は定かではないが)裏事情が公表されてしまっている状況を考えると、秘密保持契約(守秘義務)くらいは交わしておくべきだったのでは――という疑問は当然起きるのだが、斎藤知事側から公表されている業務しか依頼していないとなると、こちらも交わされていなかった可能性は高いと思える。
斎藤知事側は、メルチュとは連絡が取れない状態だとのことだが、同社がこのまま何の声明も出さなかったとしたら、斎藤知事側の説明を受け入れるしかないだろう。
一方で、メルチュが斎藤知事側の主張と異なる主張をしてくる可能性も低いように思う。
事実はどうであったのかはさておいて、たとえ秘密保持契約を交わしていなかったとしても、秘匿性の高い情報を公表してしまったこと自体が、信義にもとる行為だ。しかも、事前に斎藤知事に許可を取ってないどころか、連絡もしていなかったようなので、さらに深刻だ。現状は、メルチュ側が一方的に譲歩せざるを得ない状況にある。
残されている「2つの疑念」
メルチュや折田氏に対して「記者会見をすべきだ」という意見は少なからず出ているが、そうはならないと思える。
真実を明確にするうえでは、記者会見を開いたほうがよいのは事実なのだが、記者会見でボロが出ると、メルチュ側にも、斎藤知事側にも不利益が生じる。両者にとって、そうすることのメリットはない。
一方で、メルチュがこのまま雲隠れを続けると、今後の同社の業務にも支障をきたすおそれがあるから、「斎藤知事側の主張が正しかった。事実と異なることを書いて申し訳ありません」と、メルチュが文書なりで謝罪をして幕引きを図る――というのが現実的な落としどころではないかと思う。
とはいえ、筆者は「斎藤知事は潔白だ」と主張しているのではなく、「現状の説明で辻褄は合っている」と言っているに過ぎない。
潔白だとするには、いくつか疑念が残されているのもまた事実だ。
・無償でやったのであれば、折田氏(あるいはメルチュ)の支援活動は法に触れないのか?
・折田氏(あるいはメルチュ)が無償で斎藤氏を支援する意義はあるのか?
上記を論じる前に、いくつかのパターンを想定する必要がある。
1点目に関しては、専門的な知見やノウハウを持つ企業が無償で候補者にそれを提供した場合、政治賃金規制法違反にあたる可能性があるという専門家の指摘がある。
折田氏だけでなく、メルチュの社員も稼働していたとすると、彼ら全員があくまでも「私的な活動」として「無償で行った」ということで、選挙に関する活動で役員報酬や給与所得も得ていないということが、必要条件となりそうだ。
折田氏が「斎藤氏を支援した動機」
2点目については、曖昧なままに幕引きとなる可能性はあると思うが、折田氏、あるいはメルチュが選挙で斎藤氏を支援する動機として、いくつか想定できる。
1. (個人として)斎藤知事を支持していたから、無償で応援をした
2. 今回の選挙では(公表されている案件以外の)報酬は得ていないが、別のところで見返りがある
3. 今回の選挙で、表に出ていない対価、あるいは見返りがある
人々がそれを信じるかはさておき、1であれば、問題はないだろう。3であれば問題であり、発覚すれば、失職につながる可能性もあるだろう。
筆者としては、2の可能性は高いように思う。過去に便宜を図ってもらった恩義や、今後の利益への期待から、安値で仕事を受けることは、さほど珍しいことではない。
筆者が勤務していた広告会社は、上場以降は厳しくなったが、非上場会社だった時代は、予算が足りないときに、「来期にまとまった仕事をお願いするから……」「(これまでいろいろ仕事発注してきたから)今回はこの金額でお願いできない?」といったやり取りをすることもあった。さすがに無償というのはなかったが――。
期待は「絵に描いた餅」で終わってしまう
メルチュ社長の折田氏は、過去に委員報酬で兵庫県から15万円の報酬を受け取っていたと報道されている。ただ、これだけだったとすると、選挙運動の支援の見返りとしては十分とは言いがたい。
もちろん、兵庫県から直接支払われていなくとも、孫請け等の形で間接的に業務を受注している可能性はあるが。
また、メルチュ社には、斎藤氏が知事に返り咲いた暁には、兵庫県関連のPR業務を受注できるのでは――という期待があったのかもしれないし、あくまでも邪推だが、もしかすると、そういう口約束が交わされていたかもしれない。
同社は、過去に自治体(ただし兵庫県ではない)のSNSの運用等の業務で、1000万を超える受注をしていたとの報道がある。今後、この規模での受注が見込めるのであれば、無償で斎藤知事の選挙運動を支援したとしても不思議はない。
ただし、もしも今後そのような受発注があれば、激しい批判を浴びることになる。結局、上記のような期待は「絵に描いた餅」で終わってしまうのだろう。
話は少し変わるが、折田氏が公開した情報では、公示前の10月1日から「支援活動」が開始されているようだ。この時点では、斎藤氏に逆風が吹いている状況で、再選の見込みは薄かった。
それを考えると、「今後の見返りを期待して無償で支援活動を行った」という説明も、少々苦しいだろう。
本件に関して、斎藤知事は逃げ切れるように思えるのだが、それでも疑念は残され続けてしまうというのが実態だ。
西山 守: マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授
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