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31歳、4回転職した彼が「秋田でマタギ」になった訳 挫折の末にマタギという生き方にたどり着くまで

東洋経済オンライン / 2024年11月30日 11時30分

現在、岡本さんには師と仰ぐ2人のマタギがいる。1人は、前述の伊藤優さん。若い頃から射撃の大会で何度も優勝経験を持ち、歴代の阿仁マタギの中でも射撃の名手として名高い。冬眠中のクマを穴からおびき出して仕留める穴熊猟でも、その腕は冴えわたる。

「穴熊猟では、クマは煙でいぶされたり、棒でつつかれたりするので、明らかに人間を外敵だと認識して、殺すつもりで穴から出てくるんです。しかもクマとの距離は巻き狩りと違って至近距離。優さんは厳寒期の穴熊猟に1人で行ってクマと対峙するんです。本当にかっこいいなと思います」

もう1人の師匠は、岡本さんが「親方」と呼ぶ、元シカリ(リーダー)の松橋吉太郎さん(91歳)。伝説のマタギと言われている人だ。

83歳まで現役を続け、91歳の今も岡本さんと一緒に山を歩く。伝説たるゆえんは銃の腕はもちろん、阿仁のすべての山を熟知し、あらゆる経験が頭の中にぎっしりと詰め込まれているから。

岡本さんが聞けば、なんでも教えてくれる。山の地形や歩き方、火の起こし方。クマの撃ち方と心構え。クマの猟場や通り道、冬眠穴の場所。山菜やキノコが生える場所、イワナやヤマメが釣れる場所――。

「過去の武勇伝もノリノリで教えてくれます(笑)。優さんに、『岡本を頼む』と言ってつないでくれたのも親方です。面倒見がいいとか、そんな平たい言葉では表現できないくらいに人間的にすばらしく、本当に可愛がってもらっています」

マタギに惹かれる若者たち

ここ数年、岡本さんのようにマタギの生き方に共感し、マタギになるために阿仁地区に移住してくる若者たちが現れ始めている。共通するのは、「混沌とした現代社会で、『生きるとはどういうことか?』を自分や他者に問い続けていること」と岡本さんは言う。

その答えを岡本さん自身はマタギの生き方に見いだした。

「現代社会は人も動物も“死”が遠ざけられています。汚いものを覆い隠して社会の秩序を形成することで、“生”の感覚までも奪われていくような気がするんです。でも僕たちマタギは日々、山に入って、当たり前のようにクマも魚も鳥も自分の手でその“生”を仕留めて、山の神様に感謝しながら食べる。ありのままの命の連鎖が日常と地続きにあるんです」

もう1つ。シカリが統率するマタギという組織のあり方にも、岡本さんは惹きつけられる。

「僕の主観的な感覚ですが、マタギは1つの群れなんですよね。だからシカリという群れの長に従うことは、組織の上下関係とも職人の師弟関係とも違う、生きるための本能的なもののような気がします。僕はもともとプライドがめちゃくちゃ高くて、実は人に命令されたくない人間なんです。ちっぽけなプライドなんですけど(笑)。でも猟場のシカリの指示や命令は本当にすーっと頭に入ってくるんです。だって、従わないと死んでしまいますから」

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