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清少納言描く「平安の理想の男性像」と"現実の姿" 宮中の明け方の光景から恋愛模様が垣間見える

東洋経済オンライン / 2024年11月30日 7時50分

懐紙をしまい込んでから「それではおいとましよう」と、ようやく男性は帰っていくのです。

確かに、冒頭に記した男性と比べたらスムーズさがないし、この男性には風情は感じられませんよね。

しかし、清少納言は後者の男性が大半だというのです。

二度寝をした女性のもとに不届き者も

さて、男性が去った女性の中には、上着を頭からかぶって、二度寝する者もいました。ところが、その女性の様子を御簾を開けてのぞいている不届き者もいたようです。

不届き者のその男性は、しばらく女性の寝姿を見ます。枕上には、広がったままの夏扇、几帳の辺りには、細かく切られた懐紙が散乱しています。

寝ていた女性も、誰かに見られている視線にいつしか気づきます。被っていた着物の中から、見上げてみると、男性が長押に寄りかかり、ニコニコしながら、座っているではありませんか。

顔を知らないわけではない、しかし、それほど仲がいいわけではない、その男性。女性は(悔しい。こんな姿を見られて……)と悔しがります。不届き者はそんな思いをつゆ知らず「これは、これは。未練一杯の朝寝ですね」などと声をかけてきます。男性は女性をからかっているのです。男性は簾の中に半分身を乗り出してきます。それに対して女性は「早く帰ってしまった人が憎らしいので」と答えます。

清少納言はこうしたシーンを描きながら、「風情のある、別に取り立てて書くようなやり取りではないが、言葉をかわす2人の態度は悪いものではない」とも記します。

この不届き者の男性は、さらに大胆な行動に出ます。女性の枕上にあった扇を、自分の扇を使って、手繰り寄せようとしたのです。当然、男性と女性の身体は、それまでよりも接近します。女性は、少し近づきすぎではないかしら……と感じて、胸が騒ぎ、奥のほうに身体を引っ込めます。男性は、手繰り寄せた扇を手に取りつつ「よそよそしいことですね」などと女性に恨み言を言います。

そうこうするうちに、辺りも明るくなってきて、人々が起き出してきました。

早朝のうちに、女性のもとから帰った男性の使いの者が文を持ってやって来ましたが、この不届き者がいるせいで、遠慮して差し出せません。日はのぼり、さらに明るくなってきたので、不届き者も退散しました。

当時の恋愛模様が垣間見える

場所は宮中、女房の局における男性と女性のしばしの会話です。男は殿上人、女は女房と思われます。清少納言はこの光景を実際見たのか、誰かから聞いたのか、わかりません。それでも、平安時代の明け方の情景は、当時の恋愛のありようを垣間見させてくれます。

(主要参考・引用文献一覧)
・清水好子『紫式部』(岩波書店、1973)
・石田穣二・訳注『新版 枕草子』上巻(KADOKAWA、1979)
・今井源衛『紫式部』(吉川弘文館、1985)
・渡辺実・校注『枕草子』(岩波書店、1991)
・朧谷寿『藤原道長』(ミネルヴァ書房、2007)
・紫式部著、山本淳子翻訳『紫式部日記』(角川学芸出版、2010)
・倉本一宏『藤原道長の日常生活』(講談社、2013)
・倉本一宏『藤原道長「御堂関白記」を読む』(講談社、2013)
・倉本一宏『紫式部と藤原道長』(講談社、2023)

濱田 浩一郎:歴史学者、作家、評論家

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