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大きな「補正予算」と借金依存が下がる決算の落差 「もはやコロナ禍ではない」景気は下支えなしでOK

東洋経済オンライン / 2024年12月3日 8時0分

衆院選で「昨年度を上回る規模」と表明していた(写真:Ystudio/PIXTA)

11月29日は、日本の財政にとって忙しい1日だった。

時系列的にいうと、まず2023年度決算が内閣から国会に提出された。

財務大臣の諮問機関である財政制度等審議会から予算編成に関する意見書「令和7年度予算の編成等に関する建議」が加藤勝信財務大臣に手交された。

開会した臨時国会の冒頭で石破茂首相が所信表明演説をし、一般会計総額が13兆9433億円となる2024年度補正予算政府案を閣議決定した。

2023年度決算から2024年度予算、そして今後編成される2025年度予算までが、この一日に凝縮されていた。

その中でも最も話題となったのは、2024年度補正予算政府案だろう。

「規模ありき」の補正予算の内実

この補正予算は、10月の衆議院総選挙公示日に石破茂首相が第一声となる街頭演説で、2024年度の補正予算を、一般会計総額が13兆1992億円だった2023年度補正予算を上回る規模にする考えを表明したことから始まった。

この時点では、補正予算の内容はほとんど詰まっていなかったから、一部の報道で、2024年度補正予算の政府案を「規模ありき」と評しているのも無理はない。結果的には、公言通り、昨年度を上回る予算規模となった。

では、補正予算案の中身はどうなのか。

野党も補正予算を求めていた能登地域の復旧・復興等に6677億円、今年度10.7%引き上げる保育士らの人件費などの処遇改善に1150億円、低所得者向け給付金に4908億円となっている。ただ、こうした施策は予算規模として単体では1兆円にも満たない。

額の多い施策を挙げると、防災・減災・国土強靭化対策の公共事業費に1兆4063億円、「AI・半導体産業基盤強化フレーム」に基づく支援として1兆3054億円(後に詳述)、燃料油価格激変緩和措置(原油価格高騰に対する補助金等)に1兆0324億円といったところである。

補正予算で、今年度も目立つのが、やはり公共事業費の増額である。

2024年度補正予算に関する報道をみても、「この予算の最大の目玉が防災・減災、国土強靱化である」という印象はほとんどない。

なぜこれほどの公共事業費を計上することになったのか。

それは、菅義偉内閣の時期である2020年12月11日に閣議決定された「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」(以下、5か年加速化対策)で、2021年度から2025年度までの5カ年で、公共事業費を国費で7兆円台半ばまで出すことを決めてしまったからである。

常態化した「補正積み増し」と使い残し

しかし、公共事業関係費は、補正予算で追加されても、年度内に使い切れずに翌年度に繰り越すことが常態化している。それは、東洋経済オンラインの拙稿「20年度は4.7兆円、巨額の公共事業費を使い残す訳」で詳述したように、コロナ前からの有り様ではあった。

「5か年加速化対策」が始まって以降でも、公共事業関係費は、当初予算で6兆円ほど計上されている。前年度から4兆円前後の繰り越しがあって、これだけでも年度内に10兆円も使える状態になっているにもかかわらず、補正予算で2兆円もの積み増しが行われる。

予算規模が12兆円に達するにもかかわらず、結局は4兆円を翌年度に繰り越している。実態として、毎年度にこなせる公共事業費はせいぜい8兆円程度である。それが、2021年度から3年続いている。

必要性が高いなら、毎年度、当初予算で計上すればよい話であって、補正予算にて付け焼刃で年度内に消化しきれないほど積み増す必要はない。しかも、資材高騰の折、無理に予算消化して公共事業を起こそうものなら、資材や建設従事者がそこで費消され、さらに資材高騰をあおって、民間の住宅やビルなどの建設の妨げになる。

「5か年加速化対策」を閣議決定した時期にはない物価高騰、人件費上昇が起きているのだから、消化しきれないほどに補正予算を計上するやり方は根本的に改めなければならない。

2024年度の補正予算がこれまでと様変わりしたのは、「基金」造成という手法をかなり手控えたことである。

「基金」造成とは、ある政策目的のために、直ちに支出するわけではないが、複数年度にわたり支出するためにいったん「基金」という形でお金を貯めておく、という手法である。

緊急の必要性はないが、予算をつけてくれる時にもらっておいて、後で自由にお金を使えるようにする。しかも、予算計上して国から「基金」を設置した法人に支出しておけば、(国民や企業のために直ちに使っていなくても)補正予算の規模を大きく見せることができる。

これでは、景気対策としての即効性はない上に、国会の予算統制から逃れて自由にお金をばらまける。この「基金」の仕組みについて、これまでの状態が目に余るとして、岸田文雄前内閣は2023年12月にルールの厳格化を決めた。

上振れ税収を補正予算で国民に還元

2024年度補正予算案では、宇宙戦略基金に3000億円計上するなど一部に残ってはいるが、2023年度補正予算のように基金増設のオンパレードということはない。むしろ、11月22日に決めた「AI・半導体産業基盤強化フレーム」を実行するために、既存基金から残金を国庫返納させることとした。

こうした補正予算の財源はどう工面したのか。

2024年度の税収が上振れすると見込まれる3兆8270億円を補正予算に充てることとした。税収が上振れるほどに国民から税金をむしり取っているという見方もあるが、補正予算で国民に早速還元しているのである。

それに、「AI・半導体産業基盤強化フレーム」に関連して基金からの国庫返納を含む税外収入1兆8668億円を加えても、歳出予算を賄うのに6兆6900億円足りない。6兆6900億円は、国債の増発で賄うこととした。

これにより、2024年度補正後予算で、国債発行額は42兆1390億円となり、一般会計歳出総額126兆5150億円に対して33.3%を占めることとなった。歳出総額に占める国債発行額の比率である公債依存度は、3分の1を何とかして超えまいと財務官僚が踏ん張ったかのような水準である。

国債を増発してまで巨額の補正予算を組むということが、必要なのか。

補正予算が閣議決定された同じ日、加藤財務相に手交した財政制度等審議会の意見書「令和7年度予算の編成等に関する建議」は、「もはやコロナ禍ではない」という書き出しで始まっている。

予算規模はコロナ禍で膨張したものの、コロナ対策は財政的にもはや必要なくなったにもかかわらず、依然拡大したままであり「速やかに平時化させる必要がある」として、コロナ前の水準に戻すよう求めた。

また、同じ日に国会に提出された2023年度決算では、巨額の補正予算が組まれたものの、公債依存度は27.4%と1997年度以来初めて30%を割った。長期政権だった第2次以降の安倍晋三内閣でも、30%を割ったことは一度もなかった。

2023年度の補正後予算では、公債依存度は34.9%だった。それなのになぜ決算ベースでは27.4%になったのか。

補正後予算から決算にかけて公債依存度が下がるワケ

予算に計上された歳出は翌年度に繰り越す分も含めて、財源が手当てされていなければならない。だから、補正予算を組む段階では、歳出を全額賄えるだけの財源の手当てをしていて、税収等だけでは足りないために、国債の増発を計画する。2023年度補正後予算ベースで国債発行額は、44.5兆円と見込んでいた。

しかし、予算に計上されながら結局使われずに失効した予算の不用額が、2023年度決算ベースで6.9兆円生じた。結局使わなかった予算には財源を充てる必要はない。

さらに、税収が補正後予算ベースから上振れするなどして国債発行で財源を手当てする必要がなくなり、最終的には国債を予定していたよりも9.5兆円も発行せずに歳出の財源を賄えた。

公債依存度が27.4%まで下がり、2023年度は借金依存を減らした財政運営を行ったことになるのだが、それで景気が大きく悪化しただろうか。決してそうではない。2023年度の日本経済はむしろ物価高騰が賃金上昇を上回って足を引っ張った。財政の下支えがないから災いしたわけではない。

これを教訓に、2025年度予算案は、借金依存を減らして「もはやコロナ禍ではない」姿にしてゆくべきである。

土居 丈朗:慶應義塾大学 経済学部教授

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