斎藤・石丸氏「人を動かす話し方」、決定的"共通点" 何が気持ちをかき立て、熱狂を生んだのか
東洋経済オンライン / 2024年12月4日 8時30分
一部上場企業の社長や企業幹部、政治家など、「トップエリートを対象としたプレゼン・スピーチなどのプライベートコーチング」に携わり、これまでに1000人以上の話し方を変えてきた岡本純子氏。
たった2時間のコーチングで、「棒読み・棒立ち」のエグゼクティブを、会場を「総立ち」にさせるほどの堂々とした話し手に変える「劇的な話し方の改善ぶり」と実績から「伝説の家庭教師」と呼ばれている。
その岡本氏の著作『世界最高の話し方』シリーズは累計20万部のベストセラーとなっているが、その「真骨頂」ともいえる「人前での話し方のスキル」をまとめた新刊『なぜか好かれる「人前での話し方」』がついに発売された。
コミュニケーション戦略研究家でもある岡本氏が「人前での話し方」を切り口に「斎藤・石丸両氏の話し方」を分析する。
2人の「心を動かす話し方」のヒミツに迫る
2024年、最も話題になった人物といえば、まさかの大逆転勝利で復活を遂げた斎藤元彦兵庫県知事、そして、都知事選で予想外の健闘を見せた石丸伸二さんの名前が上がるのではないでしょうか。
【書籍】1000人以上の社長・企業幹部の話し方を変えた「伝説の家庭教師」岡本純子氏が「人前での話し方」の世界最高スキルを解説した新刊
時代のあだ花? 寵児? のようなこの2人のコミュニケーション術には、決定的な「共通点」と「相違点」があります。
その両面から、「心を動かす話し方」のヒミツについて迫ってみました。
まず、この2人が注目を集めた最も大きな理由は、その勧善懲悪のシンプルなストーリーです。
改革に抵抗する守旧派議員や職員、マスメディアという「敵」に敢然と立ち向かう「ヒーロー」としてのポジショニングを獲得し、有権者の心をつかみました。
「どうせ何も変えられない」と日本の現状に絶望する人たちに、「自分の一票が社会を変えられるかもしれない」「既得権益をぶっ壊せるかもしれない」という自己有用感を埋め込み、動かしたのです。
まさに「劇場型」
最初に挙げられるのが、「絶対正義の『無敵』の人」という点です。
羞恥心や罪悪感などは全部、前世にまとめて置いてきたかのような強心臓。どんなに批判されようと、責められようと、時に、現実を歪曲しても、「まったく自分は悪くない」「自分は絶対に正しい」と、神々しいまでの鈍感力を貫きます。
「自分は圧倒的な正義である」と確信して疑わないその超合金のようなメンタルに、「磔の刑になっても信念を貫いたイエス・キリスト」、つまり「神の子」のようなカリスマ性を感じる人もいるのかもしれません。
人は「正しい人」より「自信のある人」を評価しがち
というのも、人の脳は、「正しい人」ではなく、「自信のある人」の意見をより高く評価するようにプログラムされてしまっているからなのです。
Journal of Neuroscience誌に発表された英サセックス大学の研究によると、人が何かを信じるには、
①「個人的な経験」
②「多くの人が信じていること」
③「自信のある人が信じていること」
という3つの要素が重要とされています。
なかでも、最も影響力があるのが「③自信のある人が信じていること」。
人の脳は「自信のある人の意見」に強く反応するようにできているのだそうです。
「特に今日の政治情勢においては、事実が明確でない場合、一見自信のありそうな人に、私たち自身の信念が影響されがちだということに注意する必要がある」と、この論文を主幹した研究者は述べています。
まさにドナルド・トランプが大統領に再選された理由のひとつには、「私だけがあらゆる問題を解決できるのだ」という傲慢なまでの彼の絶対的自信が支持を集めたという側面はあるでしょう。
また、「confidence(自信)はcompetence(有能)と間違えられやすい」とされており、「ただ、
このゆるぎない「自信」のほかに、2人に共通するのが、汗も体臭も感じさせない「清潔感」です。
斎藤知事を応援していた件のPR会社の女性社長も、YouTubeチャンネルで、石丸氏のシュッとしたスマートな風貌を大絶賛し、彼への憧れを切々と吐露していましたが、薄汚れた悪事などとは無縁に見える爽やかな雰囲気は2人に共通しています。
「人の印象の55%は見た目で決まる」という説がありますが、フケひとつ、ホコリひとつついていなさそうな、潔癖なまでにこぎれいな印象もプラスに働いたことは間違いありません。
どこか「低体温」な話し方が逆にクールと感じる人も
さらに、2人に特徴的なのは、演説などでは、冷静沈着で、あまりがなり立てる感じではないことです。
話も決して面白いとは言えず、抑揚もあまりなく、表情もあまり変わらない。でも、どこか「低体温」な話し方が逆にクール、と感じる人もいるのかもしれません。
また、支持者に対しては、対立候補の悪口を言わないことも共通しています。「常に批判ばかり」の野党スタイルを嫌う若い世代には、理路整然と話すように見える2人が、清廉で新鮮に映ったことでしょう。
特に、詰問調に迫ってくる記者に冷静に、時に冷ややかに答える姿は、理不尽な「いじめ」に耐え、反撃しているようにも見え、応援したくなる気持ちをかき立てられたり、痛快に感じたりするのかもしれません。
このように多くの共通点がある2人ですが、その政治家としてのスタイルはかなり異なります。
斎藤知事は、元官僚であり、良くも悪くも「政策」や「方針」にこだわり、自分を演出することにはそれほど関心がない。
一方の石丸氏はあえて、キャラを立て、「ジョーカー」「トリックスター」を確信犯的に演じることをいとわないスタイルです。
リーダーとしての「コミュ力の真価」は?
オールドメディアと対決しても、SNSを味方につけることで支持を得た両氏の台頭に象徴されるように、企業や個人のコミュニケーションの手法や常識に「大きな地殻変動」が起きていることは間違いないようです。
時流を読み、注目される2人ですが、政治家として、リーダーとして、大切なのは「耳目を集めること」や「当選すること」だけではありません。
おふたりがどう実績をアピールしたところで、これまで周囲とのハレーションや反発、混乱を招いてきたことは事実。
ここから求められるのは、たんに大衆を扇動するだけではなく、周囲の人を説得し、動かし、実際に政策を実現する力。
リーダーとしての「コミュ力の真価」が問われていると言えるでしょう。
岡本 純子:コミュニケーション戦略研究家・コミュ力伝道師
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