やさしいママが急変「母親を鬼に変えた」病の正体 「このままじゃダメだ…」女性がとった行動とは
東洋経済オンライン / 2024年12月15日 10時0分
生理痛など、20代から婦人科系の病気に悩まされてきたという女性(45歳)。「家族がいたからこそ乗り切れた」と話すが、その道のりにはいろいろなトラブルがあったよう。
夫や子どもたちを驚愕させるほどだったという、その病気とは――。
市販の痛み止めが手放せない
女性の名前を浜田かおりさん(仮名)としよう。かおりさんは中学生と小学生の子どもを持つ母親。婦人科クリニックで「子宮内膜症」との診断を受けたのは、20代のときだった。
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「10代のころから生理痛がひどくて……。市販の痛み止めが手放せなかったことに不安を感じて、受診をしたのがきっかけです」(かおりさん)
子宮内膜症とは、簡単にいうと「子宮の内側を覆っている子宮内膜の組織が、子宮以外の卵巣や腹膜といったところで増えていく病気」だ。20~30代の女性に多く見られる一般的な病気で、子宮内膜症があると、生理痛が重くなりやすい。
かおりさんはかかりつけの産婦人科医からの勧めもあって、低用量ピルによる治療を始めた。
本連載では、「『これくらいの症状ならば大丈夫』と思っていたら、実は大変だった」という病気の体験談を募集しています(プライバシーには配慮いたします)。取材にご協力いただける方は、こちらのフォームからご応募ください。
子宮内膜症は女性ホルモンの影響を大きく受ける。低用量ピルでホルモン量をコントロールすることで、内膜の増殖を抑えるのだ。かおりさんに合っていたのだろう。治療はうまくいき、まもなく、生理痛に悩まされる日々から解放された。
そして、かおりさんは夫と知り合い、29歳で結婚。30代に入るとまもなく妊娠し、1人目を授かった。そしてその数年後には第2子を授かった。
妊娠中はもちろん生理はないが、出産してからもうそのように生理痛は軽かった。出産すると子宮の出口が広がるため、生理時に子宮の収縮が弱まる。このことが生理痛の軽減につながるといわれている。
ところが――。
わが子が驚愕の目で自分を…
2人目を出産した後、ばらばらだった生理が順調になってくると、“新たな問題”が勃発した。それが「月経前症候群」だった。かおりさんが当時を振り返る。
「娘がおもちゃの片付けをせず、散らかしっぱなしのまま、テレビを見ていたんですよね。その姿が視界に入ったとき、わけもなくメチャメチャ頭にきて、叱ってしまったんです」
ちょっと注意するつもりだったのが、怒りの言葉がとめどなく出てきて、止められない。子どもが大泣きをしているのを見て、「私、子どもに何をしているの!?」。我に返った。
「そのときは何が起きたかわからず、あぜんとするだけでした」
しかし、その後も「お風呂に入るように言っても、なかなか入らない子どもに対し、イライラして怒鳴ってしまう」など、同じような状況をたびたび繰り返すようになっていた。
そんなある日のこと。このときも「怒りすぎてしまった」(かおりさん)のだが、上の子が驚愕の目で自分を見ていることに気づく。
「いつもと違う自分を何とかしないとダメだ……」
はっとさせられたという。
イライラする、人にあたる、すぐに怒るといった行動が生理と関連していることに気づいたのは、数カ月後のことだ。
「やらかしてしまった翌日に生理が来るのがわかってからですね。これって月経前症候群なんじゃないか、とピンと来ました」(かおりさん)
詳細は後述するが、月経前症候群は生理が始まる3~10日前に起こる体と心の不調をいい、生理が始まるとともによくなったり、なくなったりするのが特徴だ。
「育児ストレスも影響していたかもしれません」と、かおりさん。イライラを何とかしようと、お風呂にゆっくり入ったり、アロマテラピーをしてみたり……。だが、いっこうに改善する気配はない。
このままでは自分も家族もつらい。家庭が崩壊してしまうかもしれない。何より子どもから「急に怒り始める怖いお母さん」として見られるのは、ぜったいに避けたい。
そうだ、家族会議を開こう!
考えた末、かおりさんは“ある対策”を講じることにした。
家族会議を開き、そこで「お母さんには月経前症候群という生理にともなって体調が変わる病気がある。イライラはその病気によるもの」と説明したのだ。
子どもたちは話を聞いても驚くことはなく、「じゃあ(イライラは)しかたがないね」という反応だったという。かおりさんは、実はこれまでも性教育の一環として、体や性について子どもたちに、積極的に教えていた。これが功を奏したのだろう。
これ以後、かおりさんは生理前になると子どもたちにはっきり、「イライラしてきました。明日、生理が来ます。だから今日のお母さんは怒りっぽいです!!」などと伝えることにした。
やがて、子どもたちのほうから、様子を察して「お母さん、大丈夫?」と聞いてきてくれたり、「触らぬ神に祟りなし」という感じで、放っておいてくれたりするようになった。
もともと育児や家事に協力的だった夫も、「今日はお母さん、生理で体調悪い日だから、お父さんと一緒に外に出かけよう」「今日はお父さんと一緒にご飯作ろう。何がいい? まずは、買い物に行こうか」などと気を遣ってくれるように。
おかげで、かおりさんが1人で休めるようになったという。
母親のイライラ問題から勃発した親子問題。これをなんとか乗り越えた、浜田さん一家。それ以後、より何でも話せる家族へと進化した。
かおりさんは言う。
「夫の協力のことを友人たちに話すたびに、『旦那さんはすごい、いい人だね』とよく言われます。もちろん夫にはとても感謝しています。ただ、こうした対応がすべての男性のスタンダードになればいいなぁ、と願わずにはいられません」
■総合診療かかりつけ医・菊池医師の見解
総合診療かかりつけ医、きくち総合診療クリニック院長の菊池大和医師によれば、月経前症候群の症状は実に多彩だ。
心の症状としては情緒不安定、イライラや抑うつ、不安や眠気、集中力の低下、睡眠障害など。体の症状では腹痛や頭痛、むくみ、お腹の張り、乳房の張りなどが起こってくる。
月経前症候群の詳しい原因はまだわかっていないものの、女性ホルモンの一種である黄体ホルモンの関与が指摘されている。
「生理のある人の70~80%の人に起こるとされていますが、つらい場合は受診したほうがいいでしょう。仕事に支障が出たり、家庭不和につながったりすることもありますから」(菊池医師)
月経前症候群の診断では問診が最も重要だ。このため、受診する場合は日頃から診てもらっているかかりつけ医や、心療内科が勧められるそうだ。必ずしも婦人科でなくてもいい。
治療では、漢方薬が処方されることが多い。このほか症状に合わせて鎮痛薬や睡眠薬、抗不安薬などが検討される。リラクゼーションも効果的だ。菊池医師は患者に「自分だけの時間を作ること」や「運動などで体を動かすこと」などを勧めている。
「一般的な薬物治療でよくならない場合や、症状の重い患者さんには低用量ピルによる治療など、専門的な治療が必要になるため、婦人科に紹介します」(菊池医師)
婦人科というと、「内診をされるのではないか」と受診を躊躇する女性が多いかもしれない。しかし、月経前症候群で内診をされることは基本的にはないそうだ。
とくに男性の理解は「効果的」
最後にこの病気には夫やパートナー、家族の理解が欠かせないことにも触れておこう。
菊池医師は、「とくに男性の理解は効果的」という。「症状のつらさを理解してもらうことが、症状の改善にもつながります。この点、かおりさんの対応は見事でしたね」(菊池医師)。
自分からは(月経前症候群について)言いづらいという人はどうか。
「診察に同席してもらうといいでしょう。実際のところ医師から病気の説明をされて、ようやく『そうだったのか』と理解をする男性は多いのです」(菊池医師)
女性は勇気を出して話すこと。男性はパートナーの話に耳を傾けることがまずは必要なようだ。
菊池 大和:きくち総合診療クリニック
狩生 聖子:医療ライター
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