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出生の秘密を知る者との、思いがけない「出会い」 「源氏物語」を角田光代の現代訳で読む・橋姫④

東洋経済オンライン / 2024年12月15日 16時0分

世間によくある色めいたこととは違う

「この御簾の前では決まり悪い思いです。その場限りの軽い気持ちでしたら、こうしてわざわざ訪れるのも難しいくらいの険しい山路ですのに、このようなお扱いとは……。こうして露に濡れながら何度も通いましたら、いくらなんでも私の気持ちもわかっていただけるだろうと頼もしく思います」とたいそう生真面目に言う。

若い女房たちが、如才なく対応できそうもなく、消え入りたいほど恥ずかしがっているのも見ていられず、奥のほうで寝ている年輩の女房を起こしにいかせるが、その手間取っているあいだももったいぶっているようなのが心苦しく、大君(おおいぎみ)は、

「何ごともよくわかっておりませんのに、知ったふうな顔で何を申していいのやら……」とじつに奥ゆかしい気品のある声で遠慮がちにかすかにつぶやく。

「じつはよくわかっていながら、人の嘆きに知らん顔をするのもこの世の常だと承知しておりますが、あなたまでがあまりにもそらぞらしいことをおっしゃるのは残念ですね。まれなほど何ごとも悟りきっていらっしゃる宮とごいっしょに暮らしているあなたの心の内は、さぞやすっきりと何もかもお見通しのことと思います。やはりこうして隠しきれない私の心が深いか浅いかもわかっていただけるのなら、来た甲斐もあるというものです。世間によくある色めいたこととは違うとわかっていただきたいのです。そのような色恋沙汰は、あえて勧める人がいたとしても、私がその気になるつもりはないと強く思っております。そうした噂も自然とお耳になさっていることでしょう。所在ないままひとりさみしく日を送っている私の世間話でも聞いていただいたり、またこうして世間を離れてもの思いに耽(ふけ)っていらっしゃるお気持ちを紛らわすために、そちらからお声を掛けていただけるほど親しくおつきあいできましたら、どんなにうれしいことでしょうか」などと言葉数多く話すので、大君はただ恥ずかしく、答えに窮し、先ほど起こした老女房が出てきたので対応をまかせてしまう。

この老女房は遠慮もなくしゃしゃり出て、「まあ、畏れ多いこと。失礼なお席の設けようではありませんか。御簾の内にお入れすべきですよ。若い人たちはものごとの程合いも知らないのですからね」とずけずけ言う声が年寄りじみているのも、姫君たちは決まり悪く思っている。

「まったくどうしたものか、ここにお暮らしの宮さまは世間の人の数にも入らないような有様で、お訪ねくださってしかるべき人たちですら、思い出して訪問してくださるでもなし、だんだん音沙汰もなくなる一方のようですのに、あなたさまのまたとないご親切のほどは、私のようなつまらない者でも、なんと申していいかわからないほどありがたく存じます。若い姫君たちもそのことはよくわかっていらっしゃいながらも、申し上げにくいのでしょうかね」と、まったく遠慮することなくもの馴れた口をきくのも、小憎らしい感じがしないでもないが、その物腰はひとかどの者らしく、たしなみのある声なので、

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