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サントリー社長交代「同族経営回帰」が称賛のワケ 新浪社長には厳しい意見…「プロ経営者」はなぜ嫌われる?

東洋経済オンライン / 2024年12月15日 9時0分

サントリーの新浪剛史社長(写真左)と創業家出身の鳥井信宏副社長(撮影:梅谷秀司)

サントリーホールディングス(HD)は12月12日、新浪剛史社長が退任して代表権のある会長に就任、創業家出身の鳥井信宏副社長が社長へ昇格する人事を発表した。

【図表】「プロ経営者」サントリー新浪剛史氏が“有能である”動かぬ証拠

同族経営は、経営の硬直化、公私混同を招きやすい等の理由から批判されることも多いのだが、SNSでは創業者一族の社長就任を称賛する声が非常に目立っている。

一方で、創業家以外で初めて同社のトップとなった現社長の新浪氏には、批判的なコメントが多くある。同氏は社長から会長に就任するが、「サントリーにとどまるなら不買運動を続ける」といったネガティブなコメントが相次いだ(不買運動を唱える人がいる理由は後述)。

どうしてこのような評価がされるのだろうか?

経営者交代が賞賛される「3つの理由」

今回の社長人事を「大政奉還」と報じているメディアもあるが、もともと、サントリーHDは同族経営の非上場企業で、2014年に新浪現社長が就任したのは、創業家出身の経営者を育成する間の暫定的なものとされていたし、新浪氏自身もそのように明言していた。

その意味では、今回の社長人事は完全に既定路線と言ってよく、なんら驚くようなことはないと言える。それにもかかわらず、同社の社長人事が大きな話題になり、SNSで賞賛された理由としては、

1:新浪社長に対するマイナスイメージ

2:「プロ経営者」に対する抵抗感

3:同族経営への評価

の3点があると考えられる。

まず、新浪現社長については、その言動がよく批判される人物でもある。

たとえば、2021年に新浪氏は「45歳定年制にして個人が会社に頼らない仕組みが必要」と発言し、「中高年の切り捨てだ」として批判をされた。

2023年には、児童手当の所得制限撤廃に反対を唱え、「子育て世代の負担を理解していない」と叩かれた。同年、マイナンバーカードの一本化に際する廃止時期の適用について、「納期を守るのは日本の大変重要な文化」と発言。財界が政府に要求するような物言いが批判を集めた。

ジャニーズ問題に関しては、「チャイルド・アビューズ(子ども虐待)は絶対にあってはいけない」という前提のもと、「ジャニーズ事務所を使うことは虐待を認めるということ」といった強硬な発言を行い、一部のジャニーズファンから批判を浴びた。この件はX上で「#サントリー不買運動」が多数ポストされる結果となっている。

新浪氏は2023年4月に経済同友会代表幹事にも就任しており、一企業の経営者を超える存在として、言動は注目を集め、場合によっては物議も醸してきた。

発言の内容自体は、必ずしも極論とは言えず、それなりに根拠に基づいたものだと思うのだが、誤解を招きやすい表現をしていたのも、また事実であっただろう。

真偽のほどは不明だが、新浪氏がローソンの社長時代にパワハラを行っていたと2023年に『週刊新潮』が報じたことも、新浪氏の「高圧的」というイメージを世間に与えたように思える。

「プロ経営者」は日本では嫌われがちだが…

新浪氏に対する風当たりの強さは、同氏が「プロ経営者」であることも影響しているだろう。プロ経営者は、一時ほどではないが、日本においては「金銭目的で企業を渡り歩く」「企業の伝統や文化を破壊する」といった悪いイメージを抱く人も少なくない。

新浪氏は、新卒で三菱商事に入社し、社内ベンチャーを立ち上げている。2002年に株式会社ローソン代表取締役社長兼CEOに就任。2014年には、サントリーHDの代表取締役社長に就任している。

多くの企業を渡り歩いているわけではないが、プロ経営者の代表的な人物の1人とみなされている。

他の「プロ経営者」といえば、2024年7月には魚谷雅彦氏が資生堂取締役代表執行役会長CEOを退任することが発表された。

新浪氏がサントリーHDの代表取締役に就任したのと同じ2014年、魚谷氏は資生堂の代表取締役に就任しているが、140年を超える歴史を誇る同社で、役員経験のない人物が初めて抜擢されたと注目を浴びていた。

魚谷氏の就任後、低迷していた同社の業績は大きく回復した。しかしながら、魚谷氏が退任を発表した2024年は赤字に転落しており、経営者としての能力の限界も指摘されていた。

また、プロ経営者というと元日産CEOのカルロス・ゴーン氏を思い浮かべる人も多いかもしれない同氏は、2018年に金融商品取引法違反、特別背任で起訴され、2019年には密出国し、海外逃亡している。

アップルコンピュータ日本法人、日本マクドナルドホールディングス、ベネッセホールディングス、ゴンチャジャパンの社長を歴任した原田泳幸氏もプロ経営者として有名だが、原田氏は、ベネッセ―ホールディングの業績不振を脱せないまま代表取締役を退任。その後の2021年、ゴンチャジャパンのCEO時代に、妻への暴行容疑で逮捕され、同年CEOを辞任している。

プロ経営者といえども万能ではないし、業績が低迷したとしても、すべて経営者の責任であるとも限らない。しかしながら、プロ経営者は「成功するのは当然」とみなされがちである。

一方、新浪氏の場合、10年間にわたるサントリーHDの業績は好調に推移している。下記に過去10年のサントリーHDの業績をまとめているが、2023年には、初の営業収益(売上)3兆円を突破している。

新浪氏が社長に就任する直前、サントリーHDはアメリカの蒸留酒大手・ビームを買収している。ビームとの経営統合を成功させ、グローバル化の推進への足掛かりにすることが、新浪社長の大きなミッションだったとされる。

ビ―ムはビームサントリーと名称を変更していたが、今年5月に「サントリーグローバルスピリッツ」に変更され、企業名から「ビーム」が外れた。

このタイミングで今回の新浪氏の社長退任は、これを節目としたとも言われている。

業績が低迷していたわけでもなければ、経営責任をとっての退任でもなく、勇退であったと言えるだろう。新浪氏に関しては、経営手腕、経営の成果という点では、批判される点はほとんどないようにも見える。

「よき同族経営」は続けられるのか

サントリーは、2014年の新浪氏の社長就任まで、1899年の創業以来、4代にわたって同族経営が続いてきた。

筆者は広告会社に勤務していた一時期、同社と付き合いがあったのだが、同族経営ならではの企業文化を維持しつつ、創業者・鳥井信治郎氏の「やってみなはれ」の精神を受け継いだ、進取の気性に富む企業だった。

同族経営については、経営学の1テーマとして研究されているものの、非同族経営と比べてもメリット、デメリットの両方があり、どちらが優れているという結論は得られていない。ただ、日本は諸外国と比べて同族企業が多いこと、同族企業は寿命が長いという事実は確認できている。

サントリーは、洋酒メーカーとして創業したが、「日本企業らしさ」を維持しながら成長を続けてきた企業でもある。SNSの声をみていても、サントリーが築いてきた飲酒文化や、文化事業を賞賛する声が見られた。

とはいえ、新浪氏が社長を務めてきた10年間も、サントリーの企業文化は維持され続けていたように思える。新浪氏は、同社4代目社長で現会長の佐治信忠氏とともに、会長として新社長を見守ることとなる。

経営手腕の実際の評価とは別に、財界人としての言動について叩かれることの多い新浪氏。会長となって新社長に舵取りを任せ、表に出てくる機会が減っていけば、今後はもう少し「プロ経営者」としての客観的な評価がされるようになるのではないだろうか。

西山 守: マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授

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