外交交渉路線に転換したウクライナの胸の内 2024年夏から始まっていた停戦に向けた模索
東洋経済オンライン / 2024年12月18日 8時0分
2024年12月2日、ウクライナのキーウで、ドイツのオラフ・ショルツ首相とウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領(左)が、戦死したウクライナ兵の追悼式に参列した。(写真・Yan Dobronosov/Global Images Ukraine via Getty Images)
2024年12月に入り、ウクライナ情勢をめぐり大きな局面転換があった。ゼレンスキー政権が、ロシア側が占領を続ける一部領土の武力奪還戦略を放棄して、条件付きながら、停戦による「外交交渉解決」路線への転換を宣言したことだ。ここでは、この戦略変更の内幕を深掘りする。
「わが軍はクリミアなどの一部領土を奪い返す力が欠けている。これは真実だ。外交解決を探らなければならない」。これはゼレンスキー氏が2024年12月1日、キーウでの共同通信との単独会見で述べた言葉だ。
「全占領領土の武力奪還」を放棄
これは、ウクライナが掲げてきた「全占領領土の武力奪還」という公式的立場の放棄を、ゼレンスキー氏が対外的に宣言したことを意味する。北大西洋条約機構(NATO)加盟の確約や、NATO加盟国部隊のウクライナ駐留など何らかの安全保障措置の実現が停戦受け入れの前提となっている。
この路線転換をもたらした最大の要因は言うまでもなく、早期の戦争終結に向けた和平仲介を掲げるトランプ氏の再選だ。2025年1月20日にトランプ政権が発足するのを前に、ウクライナとしては、外交解決路線への移行を宣言することが現実的と判断した。
しかし、実はこの「全占領領土の武力奪還」戦略をめぐっては、今回のゼレンスキー発言より以前に、ウクライナは実質的に修正をしていたのだ。
それは、ウクライナは2024年半ばから、占領地域からのロシア軍の軍事的駆逐を図る一方で、「最後的には外交交渉で解決する」との表現を採用し始めていたのだ。これは何を意味していたのか。
「全領土武力奪還」の旗をそのままにして、2024年夏の時点でウクライナ軍には別の「暗黙の戦略」があったのだ。
その「暗黙の戦略」について語る前に、まず前提となる戦況を説明しよう。現在、ロシア軍と戦闘が続く戦線は大きく分けて2つある。東部ドネツク州と南部クリミア半島だ。
このうち、ドネツク州では年内での完全制圧を厳命したプーチン氏の命令を受け、ロシア軍が主導権を握って猛攻を続けている。ウクライナは苦しい防衛作戦を余儀なくされている。
ウクライナ軍にあった暗黙の了解
一方でクリミア半島では、セバストポリに司令部を置いていた黒海艦隊が事実上、ウクライナ軍によるミサイル、ドローン攻撃で艦隊機能を喪失するなど、ロシア軍が防御一辺倒となっている。
こうした情勢を受け「暗黙の戦略」は以下のようになっていた。クリミア半島の奪還を急ぐ一方で、都市数も多く、制圧には大きな困難や犠牲を伴う東部ドンバス地方(ドネツク、ルハンスク両州)の武力奪還は実質的に断念して、クリミア半島制圧後に外交交渉でロシア軍に撤退を迫る――というものだった。
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