噂だらけ「総合型入試と探究」理想と現実のズレ 「楽に受験できる」「実績やPR重視」は本当か?
東洋経済オンライン / 2024年12月20日 7時50分
ルールを整理してもなかなかイメージが湧かない「総合型選抜」。なぜそうなるのか。SNSなどでは、出所がよくわからない選考基準やごく個人的な受験経験が基となった「攻略方法」が読者に信頼されて拡散されている。よく聞く話は、以下のようなものだ。
【画像】「とにかく実績を稼げ!」「オープンキャンパスでアピールすべし!」総合入試の"噂"の数々
言わば「都市伝説」があちらこちらに存在するのだ。「専門塾」と呼ばれるものの中にも「大学教員が読むのだから高尚な言葉遣いによる記述が必要だ」と頓珍漢(とんちんかん)なアドバイスをするところもあると聞く。将来の進路に関わる「受験」情報としてはかなり危うい状況だ。
「実績稼ぎ」の競争になっていないか?
さらに高校の教員にも、コンテストの入賞や論文発表を目指す"勘違い"が横行している。選抜試験では本来、コンテストの入賞経験をどう今後に生かすかが問われるのであって、結果ありきではない。
中堅校と位置付けられる高校が一般選抜ではなく、総合型選抜にフォーカスして合格実績をあげようと探究に力を入れるようになった。当初はこれらの「探究に舵を切った」と言われる中堅校が探究活動のコンテストにおける主力であった。
だが2022年4月から高校では新しい学習指導要領によって「総合的な学習の時間」が「総合的な探究の時間」に変わった。高校での「探究学習」が浸透するにつれ、伝統的な進学校がコンテストに参加し始め、賞を目指すようになっている。
こうしたコンテストでは発表よりも審査員との「受け答え」が重視され、そこでは「基礎教養」が問われる。そのため基礎基本をしっかりと整え、そのうえで探究学習をすることが求められる。
それに「探究」は学び方である。ゆえに「総合的な探究の時間」だけで展開するものではなく、教科の授業でも「探究」は可能であるし、現に「日本史探究」「世界史探究」「古典探究」のように科目名に「探究」が入っている。
教科の授業も演習問題をたくさん解くことに終始せず、1つのテーマをじっくりと「探究」することに重点を置きたい。なにしろ、もう一般選抜で入学する受験生は半分もいないのだから。
「探究に舵を切った」学校では、果たして教科での探究は充実しているだろうか。このあたりができていないと、探究学習をともなわない「探究活動」に終始することになり、薄っぺらな活動で終わってしまう。当然、コンテストでは評価されない。
私は「全国高校生マイプロジェクトアワード」や「ベネッセSTEAMフェスタ」などで評価者を務めた経験があるが、そこから言えることは、ここでも「学力の三要素」やリフレクション、論理的思考、経験の活用が重要であり、探究学習をともなった活動であるかといった観点で評価している、ということだ。
これは大学入試における総合型選抜でも言えることだが、果たしてそうした観点を持って評価できているかは、大学の見識の問題であり、入学者確保に邁(まい)進する大学と入学後の受験生の成長を考える大学とでは評価の在り方はかなり異なるだろう。
「学ばない生徒」は「学べない学生」になる
こうした大学のスタンスの違いが総合型選抜をイメージしにくくする。実際、実質倍率(受験者数÷合格者数)が2倍を下回るような大学では、「探究が……」「基礎学力が……」「学ぶ意欲が……」なんて小難しいことを考える余裕がない。
実質倍率2倍を下回ると、不合格者よりも合格者が多くなる。実質倍率が1.1倍しかないのであれば、もはや合格者を決めるのではなく、わずかな不合格者を選ぶ作業になる。もっと言えば合否のラインを引くというより、
しかし、そのような状況で受験生を入学させていいものだろうか。
そもそも「学力の三要素」では、基礎学力において「基礎的な知識及び技能を習得させるとともに、これらを活用して」とあるように、これらの基礎的な知識、技能なくして「課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力その他の能力」は育めないのである。
以前の記事でも書いたが、総合型選抜であっても学校推薦型選抜であっても学力を問うように文科省は求めている。
少なくとも大学入学共通テストまたは小論文等、プレゼンテーション、口頭試問、実技、各教科・科目に係るテスト、資格・検定試験の成績等の評価方法のうちいずれかを必ず活用することを義務づけている。これにより、目的意識や学習意欲だけでなく、大学で学ぶために必要な基礎学力も適切に評価することになる。
受験準備が緩くなった「学ばない生徒」は大学入学後に「学べない学生」にスライドする。大学教育にふさわしい準備ができているかは、こうした基礎学力とそれにともなう学ぶ意欲で評価されるはずだ。「学ばない生徒」では大学に進学する価値はない。
基礎学力と探究は切り離されるものではない
「探究に舵を切った」学校では基礎学力をしっかりと身につけさせているのであろうか。
繰り返すが、探究は学び方である。基礎学力と探究は切り離されるものではない。こうした学校の教育でも「大学進学」が教育目標になっているとしたら、その教育はどんどん空洞化し始めているだろう。高校教育が空洞化すれば大学教育も空洞化しかねない。
学校教育は「出口」、つまり卒業後の進路によって縛られる。大学がどのような受験準備を求めるかは高校教育に大きな影響を与える。
それゆえに、高校教育が空洞化する責任の一端は大学にもあるのだ。大学が「学ばない生徒」を生んでいるとしたら大学は「学べない学生」をいかに教育しているか。大学は教育機関である。この矜恃が教育の空洞化を防ぐのではないだろうか。
一方で、「定年退職後は大学で教えたい」と考えるビジネスパーソンはいまだに多い。彼らに「学ばない生徒」「学べない学生」を大学入学後「学ぶ学生」に転換させる覚悟はあるだろうか。
そして、メディアでの誤用が多くてあきれるが、学習者を、中等教育(中学、高校)では「生徒」とし、高等教育(大学、短大、高専等)では「学生」とする。いま一度「生徒」と「学生」の違いを考えてもらいたい。そこには学び方、学ぶ姿勢に大きな違いがあるのだ。
AI時代だからこそ求められる学生像
時代の変化が激しい現代において、求められる能力は基礎学力、つまり自ら考える力であり幅広い教養である。特に生成AIが発達するにあたって、検証能力が問われる。
それに何を生成AIに求めるかにおいては、主体的に振る舞わないといけない。問いを立てる際は、基礎的な教養がしっかりしているかどうかによって生成AIの回答の深みや確からしさに影響が出てくる。検証能力に関しても、何をどのように検証するかを判断できるかどうかは、つねに幅広い教養があってこそである。
これからの時代に大学が担う教育は、AIに使われる人材を養成するのではなく、AIを使う人材の養成だ。
一方で、選抜性の高い大学においても、なにをどのように審査されているのかがわかりにくいのは確かだ。アドミッションポリシー(学生受け入れ方針)を読んでも抽象的でなにをどのように審査されるかを読み解くことは難儀だ。
そのような中、関西大学は総合型選抜(関西大学では「AO入試」と呼称)の受験生に向けて、総合型選抜ではどのような準備をしたらいいかを記載した冊子を作っている。アドミッションポリシーの具体化だ。学部によって審査の方法は異なるが、それぞれの学部でなにを受験生に求めているかを述べている。
ここに書かれていることは関西大学に限ったことではない。多くの大学でも求めるような汎用的な観点であるから、ぜひ参考にしてもらいたい。
次回は、総合型選抜のあるべき姿や大学教育、そして「探究」との関係を説いていく。
総合型入試と探究をテーマにシリーズでお届けしています。
第1回:大学入試の多様化進む「一般と総合型」何が違う?
第2回:大学入試は「年内合格続々」、東洋大が広げた波紋
後藤 健夫:教育ジャーナリスト
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