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「東インド会社への復讐」画策した男の悲しい末路 世界初の空売りはどう行われた?歴史振り返る

東洋経済オンライン / 2025年1月3日 18時0分

ル・メールは、ある政府高官への手紙で、座礁したり行方不明になったりしたVOCの船舶による総損失額を書き記している。さらには、なんとか帰国できた船舶でも、運搬してきたメースと呼ばれる香辛料の在庫が多すぎて、他の種類のものの在庫が不十分という状況にあった。どんどん品質が低下していく売れ残りのメースが倉庫に放置されていた。

VOCの株価下落に賭ける人々は、ル・メールに言わせると「日々入手するニュースと情報にもとづいて……株の売買に携わる」投資家にすぎなかった。

取締役たちは「株のかなりの部分をかなりの高値で」買っていた、とル・メールは書いている。取締役たちは、寡婦や孤児を守るために空売りを禁止しようとしていたのではなく、自らをさらに金持ちにするために禁止しようとしていた、と。

今日では、株価が急に下落し始めたときのお約束は、会社のCEOがテレビに顔を出し、株価下落に賭けている人々は噂をばらまいている、と主張することだ。皆さんの年金がわが社に投資されています! 寡婦や孤児のことを考えてください! 誰もが株式市場が右肩上がりに上昇することを望んでいる。株価下落に賭けるなんて悪党のやることに思えてくる。

でも、株式市場の重要な点は上昇することではない。株式市場の重要な点は、株の適正な価格を見極めることにある。つまり、企業の業績や世界情勢について入手可能なあらゆる情報を一番まともに反映した価格を見つけることだ。

明らかに、株式市場はときどきこの任務にみじめなほど失敗する。でも、市場に投資家が増えれば増えるほど――そして、とりわけ重要なことだが、彼らがより多くの情報を市場にもたらせばもたらすほど――市場は適正な価格を見いだすようになるだろう。

株価の下落時に利益を得る人間の存在を許すことは、投資家が詐欺的な行為を根絶したり、知られていなかった悪いニュースを広めたりするインセンティブを生み出す。これはよいことだ。

ル・メールのその後

イサック・ル・メールは自分のものだと主張するカネの件で当局と揉め続けた。ル・メールがカネを手にすることはなかった。ル・メールは海辺の小さな町で死に、次のような墓碑銘の刻まれた墓の下に埋められた。

イサック・ル・メール、ここに眠る。商人にして、世界のあらゆる地で活躍し、神の恩寵によりかなりの豊かさを知り、30年後、15万フローリン以上を失った(ただし名誉は除く)。

これは、死者がどれだけ大金を失ったか誇らしげに宣言する、世界で唯一の墓石かもしれない。おまけに、ちょっとした書き間違いもあるようだ。死ぬ前に書いた手紙で、ル・メールは自分が失ったのは160万フローリンだと書いている。墓碑銘にはゼロがひとつ足りない。

ジェイコブ・ゴールドスタイン:ジャーナリスト・作家

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