「情報を手放して仮説を立てる」が現代で有効な訳 データを入手すると何かを得た気になるだけで終わる
東洋経済オンライン / 2025年1月4日 14時0分
どこを起点にすると思考が動き続けるか。そう考えたときに、安斎さんらは、「問い」だと思ったのだろう。本書では、「仮説」を起点とすると、サイクルが回り続けると仮定し、話を進める。正直、起点はどこであってもいい。このサイクルが回らなかったり、止まってしまったりしたときに、どうやって揺さぶりをかけ、動かすのか。その手段はたくさんあったほうがいい。
僕が、仮説からサイクルを始めるほうがいいと考えるようになったきっかけは、「行動サイクル」にヒントを得たからだ。とにかく仮説を立てる。すると「仮説」を検証したいという欲望を伴った「観察」のサイクルが始まる。
具体的に行動を起こすときには行動サイクルというものがある。行動サイクルとは、すべての行動は「計画」→「実行」→「振り返り」のプロセスを踏むことになるというものだ。
通常このサイクルでは、「計画」を起点にすることが多いのだが、どうも計画倒れになりやすい。計画から始めると、行動の熱量が上がらないことが多い。
どうすれば行動の熱量が高まるのだろうと試していたときに、「振り返り」を起点にすると行動の熱量が高まり、自分ごととして「計画」を立てやすくなると感じた。
この行動サイクルの「振り返り」に当たるものが、観察(思考)サイクルでは「仮説」だ。とにかく雑にでもいいから、仮説を立てる。そうすると、仮説を検証したいという欲望が生まれ、熱量のある観察が始まる。
仮説は最強の道具
仮説は、観察を始めるときの最強の道具になる。現代はたくさんの道具がある。その道具に振り回されると、人は観察ではなく「観測」を行ってしまう。観測をすると、データという手触りのあるものが手に入る。それで、何かを得た気になり、安心してしまう。インターネットをはじめとした道具など何もなくても、仮説だけを頼りに世の中を見ていた人たちのほうが、ずっと遠くまで観察できているように思う。
たとえば、2500年ほど前の古代ギリシア。ギリシア人たちは、「火・空気・水・土」で世の中が構成されていると考え、その仮説にもとづいて、世界を観察し、思考を深めた。そして、観察を続ける中で、四元素という仮説自体もアップデートされていった。中国でも同じだ。五行は「木・火・土・金・水」の5つから世の中が構成されているという仮説だ。
西洋でも東洋でも、大胆な仮説があり、その仮説をもとに世界が観察された。さまざまな観察が起きたおかげで、仮説がアップデートされた。ニュートンの万有引力の法則も同じだ。
たくさんの情報と道具が現代社会にはあふれている。そういうものをすべて一度手放し、仮説だけを武器にする。それが観察力を磨く方法だ。
佐渡島 庸平:コルク代表取締役社長CEO/ 編集者
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