蔦重が演出「華やかな吉原」に潜む"遊女の悲惨" エンタメ化されても遊廓の本質は「風俗街」
東洋経済オンライン / 2025年1月8日 18時30分
この吉原の転換期と同じ時期、出版界においても大きな転換期が訪れました。江戸にも独自の本屋・版元が生まれ、上方中心だった出版文化が江戸へと移ってきたのです。その渦中で、本屋を開業したのが、蔦屋重三郎でした。
蔦重は吉原大門前の五十間道(ごじっけんみち)に店を出しますが、そこで吉原遊廓のタウンガイドである「吉原細見」を売り出します。吉原細見は各妓楼にどんな遊女が所属しているのか、茶屋や吉原の芸者たちの情報や金額などを含めた、吉原の総合ガイドブックです。
正月と7月の年2回発行されますが、妓楼内の遊女の移り変わりも激しいため、改訂版なども随時、刊行されました。そのため、新興の本屋としては、確実な定期収入になる、堅い仕事でした。
吉原細見を作っていくには当然、吉原の人たちの協力が不可欠です。吉原出身の蔦重に、吉原の人たちも全面的に協力してくれたのでしょう。またそれは、吉原にとっても益のあることでした。江戸市中の外にあり、庶民の生活とは隔絶した世界であった吉原遊廓を、出版物を通じて巧みに宣伝・プロデュースしたのです。
蔦重は盟友である山東京伝(さんとうきょうでん)らとともに吉原を舞台にした流行の大人向け絵本である黄表紙や洒落本を、多数刊行します。また、勝川春章や北尾重政といった既に浮世絵界の重鎮である絵師とともに、吉原遊廓を美しく表現した絵本を出版しました。
寛政期に入ると、早くから目をかけていた喜多川歌麿の才能を見抜き、美人絵の作者として起用します。吉原の遊女をまるで、ファッション・スターのように描いて売り出したのです。
そうすることで、吉原遊廓は江戸庶民の流行文化の発信地となり、蔦重の出版物が売れるほど吉原のブランド価値も高まっていきました。黄表紙や洒落本、浮世絵を通じて巧みに吉原を演出し、これに惹かれた人々がこぞって吉原を訪れ、遊んでいく。まさに蔦重は吉原とウィンウィンの関係を築きました。
また、当時、戯作者の多くは下級の武士たちでした。基本的には原稿料は出ない趣味の範囲で、教養ある武士が戯作を書いていたのです。そうした戯作者を、自分の版元に繫ぎ止めるために、蔦重は吉原を活用しました。
このような武士たちは、基本的には家禄で食べていけるけれども、吉原で遊べるほどのお金はない人間たちです。蔦重は彼らを吉原の馴染みの茶屋に呼んで接待し、妓楼まで面倒を見たのでしょう。まさに作家を銀座の高級クラブで接待するようなものです。蔦屋から本を出せば吉原で遊べるとなれば、みんな蔦屋から出したいと思うわけです。
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