1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

「副業は可能ですか?」入社前から問う若者の盲点 副業で成功する人・失敗する人の違いとは?

東洋経済オンライン / 2025年1月9日 7時30分

会社に入る前から副業をどうするか考える人もいるという(写真:TY / PIXTA)

「いつから副業できますか?」

【画像で確認】副業で成功する人・失敗する人の違いとは?

内定を出していた大学生のKさんから、このような問い合わせがあった。あまりに突然のことで、採用担当者は驚いた。

「入社する前にどんな準備を進めたらいいですか?」

「はやく戦力になりたいです。社会人になる前にどんな本を読んでおくべきですか?」

こんな質問はよく受ける。だが、内定者から「副業」に関する質問が来たのは初めてだった。

しかし頭ごなしに否定できない。多様性の時代だ。受け入れなくてもいいが、いったんは受け止めよう。そう思った。そのため、

「副業・兼業に関してはまだ規定がハッキリしていないので、入社してから説明しますね」

と、お茶を濁すように伝えた。すると、内定を辞退されてしまった。この採用担当者は頭を抱えた。

「上司に、なんて説明したらいいんだ……」

会社に入る前から副業を考える。10年前なら考えられなかったことではないだろうか。しかし今では、SNSやYouTubeで「誰でも簡単に稼げる」という情報があふれている。

スマートフォン1台あれば、どこでも仕事ができる時代。そんな環境の中で育った若者たちにとって、「副業」は当たり前の選択肢なのかもしれない。

しかし安易な副業は、かえって自分の成長を妨げることになる。私は20年以上のコンサルティング経験から断言したい。昨今、巷(ちまた)にあふれる「副業奨励」のムーブメントには反対だ。特に会社員としての経験が未熟なうちから、副業で成功したいと考えるのは、やめたほうがいい。

今回は、副業に関する誤解やリスクを、実例を交えながら解説していく。就活生や若手社員はもちろん、ベテラン社員にとっても参考になるはずだ。ぜひ最後まで読んでもらいたい。

なぜ副業を奨励するのか?

世間では副業を奨励する風潮が強まっている。その背景には、政府が2018年に策定した『副業・兼業の促進に関するガイドライン』がある。このガイドラインによって、企業は従業員に副業を許可しやすくなったのだ。

リモートワークの普及も、副業する人が増えた大きな要因として挙げられる。2020年の新型コロナウイルスの影響で、多くの企業がリモートワークを導入した。その結果、従業員は時間を効率的に使えるようになり、副業に対する意欲も高まった。

2020年に実施された「新型コロナウイルスの影響下における働き方の実態・意識調査」(YOUTRUST調べ)によると、43.6%の人が「副業の仕事がやりやすくなった」と回答している。

実際にリクルートやサイバーエージェント、サントリーなどの大手企業が副業制度を整備し、社外での新たな挑戦を奨励している。こうした事例がメディアで取り上げられ、若者のみならず中堅層にも「副業解禁」「副業できる」という認識が急速に広まっているのだろう。

しかし繰り返すが、私はこの流れはリスクが大きいと考えている。その理由を解説していこう。まずは副業で成功した人の事例を紹介する。

「副業になっちゃう」が正しい

「最初は副業するつもりはなかった。頼まれるからやっていただけ」

そう答えたのは、WEBマーケティング支援で年間1000万円以上稼ぐMさんである。Mさんの本業は不動産会社の営業企画で、肩書は係長。本業の年収は約500万円であるため、副業の手取りのほうが圧倒的に多い。

しかし、副業を本格的にやるつもりはないとKさんは言う。

「本業はあくまでも勤務先の営業企画であり、WEBを使って広告戦略を考えること。本業が忙しくなったら、副業なんて絶対にしない」

最初は勤務外の時間に、知人が経営する別業界の会社でWEBマーケティングのアドバイスをする程度だったという。しかし、結果が出始めると次々に別の企業を紹介され、Mさんの副業収入はドンドン膨らんでいった。

つまりMさんは本業での知見を生かした結果、WEBマーケティングのエキスパートとして声がかかるようになった、ということだ。本業が充実していたからこそ、周囲が「ぜひMさんにうちの会社も見てもらえないか」という流れになったのだ。

私はMさんのようなタイプの人を何人も知っている。彼らの特徴は、以下のような流れをたどる。

(1)本業で成果を出す

(2)個人に仕事の依頼がくる

(3)その仕事が副業になっちゃう

キーワードは「副業になっちゃう」という点。副業をしているのはあくまで結果論であり、最初から副業をすることを目的としていたわけではない。

こうした人々は日々の業務で成果を出し、社外からの相談ごとやプロジェクトが自然と集まるようになる。そして、いつのまにか副業としての収入が生まれている、という結果にすぎないのだ。

このようなMさんタイプの人は、副業によって本業では得られない経験を積み重ね、ますます仕事に磨きをかけていく。

新たな業界や異なる規模の企業からのオファーを通じ、視野が広がったり、最新のマーケティング手法を実践する機会を得たりする。そうした学びを本業に還元しながら、より大きな成果を出す好循環が生まれるのだ。

ただし、Mさんのような成功例にだけ目を向けるのはリスキーだ。

Mさんの場合は「本業の延長線上で成果を出せるスキルを確立していた」から成り立った。ゼロの状態からいきなり副業だけで稼げるようになったわけではない。こうした点を理解せずに、「副業なら簡単に稼げる」と勘違いしてしまってはならない。

「本業がおろそかになっちゃう」は最悪

次に副業で失敗する事例を紹介しよう。失敗する人は、次のような流れをたどる。

(1)本業で成果を出せない

(2)副業に手を出す

(3)本業がおろそかになっちゃう

キーワードは「本業がおろそかになっちゃう」という部分だ。とくに仕事がうまくいかないまま副業を始める人は、時間を切り売りする「代行業」のような仕事になりがちである。

たとえば深夜に内職のような業務を請け負ったり、SNSの運用代行を低単価で引き受けたりといった具合だ。長時間労働の割に低い報酬しか得られないことが多い。

このような副業を選んだ場合、当然ながらやりがいは感じにくいし、大きなスキルアップにもつながらない。長い時間をかけても収入はごくわずか。睡眠不足のまま本業に向かうようになれば、ますます本業のパフォーマンスが落ちていく。

結局は「どちらつかず」になり、成果も評価も得られない悪循環に陥ってしまう。まさに「二兎を追う者は一兎をも得ず」である。

「大学時代に起業した経験があります」

「社会人になる前から、3社の顧客がついています」

こんな実績があるならともかく、まだ一度も働いてもいないのに「副業ありき」で社会に出るだなんて、あり得ないのだ。

仕事ができない人は総じて「自己研鑽」に力を入れていない。たとえば自分の専門領域を高めるための勉強をおろそかにし、時間だけを切り売りする仕事を増やしてしまう。

さらに忙しさにかまけて「勉強する時間がないのだから仕方ない」と考え出すと、会社で求められるスキルの習得もおろそかになり、同僚との能力差が広がっていく。

特に昨今は「人的資本への投資」が重視される世の中だ。会社側が教育に力を入れてくれているのに、その機会を台無しにするような社員なら評価も落とすことだろう(たとえ成果評価が高くても、能力評価が落ちるリスクがある)。

このように会社からは評価されず、副業でも大した収入を得られず、結局どちらにも注力できなくなるというわけだ。それに、たとえうまくいったとしても、副業を5年、10年と長く続けることは難しいのが現実。結局はどこかで頓挫してしまうケースが多い。

お金を稼ぐことは簡単ではない

冒頭で紹介した「いつから副業できますか?」と聞いた内定者は、何を理解できていなかったのか。

それは「お金を稼ぐことの大変さ」である。私は20年近く営業コンサルタントをしてきた。だから断言できる。どんなに優れた自社商品であっても、売るのは簡単ではない。一度でも営業を経験した人なら、その難しさを痛感しているはずだ。

したがって、稼ぐことを甘く考える人は、

(1)本業で成果を出せない

(2)副業に手を出す

(3)副業がうまくいっちゃう

という、都合のいい夢を見てしまう。さらに、「副業で独立できちゃう」「副業のノウハウが本業でも活きちゃう」などと、ありもしない幻想に浸ることになる。

実際には、こうしたシナリオがうまくいくのはごく一部の限られた人だ。大半の人は時間とお金を費やして、本来の目的を見失ってしまう。

企業であれば、本業(コアコンピタンス)以外の事業に手を出す「多角化戦略」は慎重に検討すべきことだ。まさに禁じ手であるとも言われる。かつてはライブドアやライザップが大胆な多角化戦略を試みてハデに失敗している。

このように、たとえ本業が好調であったとしても、いろいろな事業に手を出して成功させることは、とても難しいのだ。

まして個人の場合、余力もリスク許容度も企業ほど潤沢ではない。安易に「稼ぎやすそう」というだけで副業に手を出すのは、危険極まりないといえよう。

本業に集中できないなら転職せよ

基本は本業に全力を注ぐことだ。

しっかり成果を出して、まずは会社に認められること。そして十分に余裕ができて、ご縁やタイミングが合うならば、副業に手を出す。そのほうがはるかに建設的だ。実際、Mさんのようなタイプはそうしたプロセスを踏み、結果として自らの専門性に拍車をかけている。

もし、どうしても本業で成果が出ないのならば、副業を考えるより本業そのものを変えるほうが賢明だ。

まず思いつくのが転職。さらに報酬を増やしたい。もっとやりがいのある仕事がしたい。というのなら、転職先でそれを求めよう。副業に手を出したり、起業するよりは、はるかに安全だ。

「本業では成功できないが、副業ならすぐに稼げるかも」という発想は、あまりにも甘い。ロマンのない話で申し訳ないが、謙虚な気持ちで目の前の仕事に力を注ぐことを強くおススメする。

横山 信弘:経営コラムニスト

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください