ブラジル当局、中国「BYD」の工場建設に停止命令 建設作業員の労働環境が「奴隷同然」と問題視
東洋経済オンライン / 2025年1月15日 17時0分
中国のEV(電気自動車)最大手の比亜迪(BYD)がブラジル北東部のバイア州カマサリ市で進めていた新工場の建設が、現地の政府機関の命令により中断したことが明らかになった。
【写真】バイア州の労働監督当局が公表した建設作業員の宿舎内の様子
バイア州の労働監督当局は2024年12月23日、複数の関係機関で組織した合同調査チームがBYDの工場建設現場に立ち入り調査を行い、163名の建設作業員が「奴隷同然」の劣悪な環境で働かされていたと発表。これらの作業員を(保護して)ホテルに移送するとともに、BYDおよび工事の請負会社に対して工事の停止を命じた。
改善完了まで工事再開認めず
当局の発表によれば、163名の建設作業員は(BYDから工事を請け負っていた)中国の建設会社、金匠建設集団のブラジル法人に雇用され、工事現場内の4つの宿舎に居住していた。調査で判明した劣悪な労働環境が全面的に改善されるまで、当局は工事再開を認めないとしている。
ブラジル工場の建設中断は、BYDにとって思わぬ痛手だ。同社は2023年7月、カマサリ市に総額30億レアル(約767億円)を投じて年間生産能力15万台の乗用車工場を建設すると発表。ブラジル市場だけでなく中南米市場を本格開拓するための戦略拠点に位置づけている。
「わが社はブラジルの法律、中でも労働者の権利と尊厳を保護する法律を完全に順守する。それを改めて約束する」。BYDブラジル法人のシニア・バイスプレジデントを務めるアレクサンドレ・バルディ氏は、今回の“事件”についてそのようなコメントを発表した。
ブラジル当局の発表を受けて、中国のBYD本社は企業イメージの低下を防ぐための“火消し”に躍起だ。
「工事を請け負っていた建設会社は、わが社が求めた水準の労務サービスを作業員に提供していなかったことが判明した。そのため、問題の建設会社との契約を直ちに解除した」
財新記者の取材に対して、BYDはそうコメントした。また、契約解除の影響を受ける労働者に対して、BYDブラジル法人は「(被った不利益の補償を求める)すべての権利を保証する」と述べた。
ブラジルへの赴任経験を持つ自動車メーカーの関係者によれば、ブラジル当局は労働者の権利保護を重視しており、過去にもインフラ建設工事などを請け負った中国企業が同様の問題に直面したケースがあるという。
労働監督基準に大きな落差
「中国国内と海外では、労働環境や労働強度に関する(監督当局の)基準に大きな落差がある。海外進出する中国企業は細心の注意を払うべきだ」。上述の関係者はそう強調した。
BYDはブラジル工場の建設と同時に現地市場を積極開拓しており、その進捗は順調だ。同社によれば、ブラジル市場における2024年の販売台数は12月中旬時点までで約7万台と、前年同期の4倍近くに増加した。
同社はブラジル工場を2025年3月に稼働させ、同年末までに1万人の雇用を生み出す計画だった。それだけに、工場の建設中断が長引けば戦略の見直しを迫られる可能性が否定できない。
(財新記者:蘆羽桐、余聡)
※原文の配信は2024年12月24日
財新 Biz&Tech
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