「孤独のグルメ」がいまなお愛され続ける深いワケ 「食べる側」を主人公とした食マンガの先駆け
東洋経済オンライン / 2025年1月15日 14時0分
なかでも、まず注目すべきは、江口寿史である。『すすめ!!パイレーツ』『ストップ!!ひばりくん!』などのヒット作がある一方、原稿が遅いことでも有名。近年はイラストレーターとしての活動がメインで、マンガは何年も描いていなかった。その江口寿史の新作が載っているというだけで、ちょっとした“事件”である。
『吉祥寺23時』と題された作品の主人公は江口氏本人。井之頭五郎になりきって、夜の吉祥寺で飲み屋ではなく飯屋を探す。たどり着いたのは、江口氏とっておきの実在店。そこで生サンマ塩焼定食を「幸福って炊き立てのお米の匂いだよね」なんてモノローグとともに食べる様子も五郎そのものだ。
しかも、それが昨年12月に放送されたドラマ『それぞれの孤独のグルメ』の江口寿史ゲスト回と連動しているのだから、ドラマを見た人には2倍おいしい。
浦沢直樹『孤独のランチ』の主人公は、五郎よりやせぎすで目つきの悪い「池ノ上六郎」だ。名前からしてパロディ感満載だが、メニューに悩むのではなく定食のごはんと味噌汁の配置に悩むのがまた苦笑を誘う。そして、それにも増して見事なのが料理描写。本家・谷口ジローの画面を完コピしたような構図と緻密さはさすがである。
女版孤独のグルメ(ただし酒あり)という感じでドラマ化もされた人気作『ワカコ酒』の作者・新久千映が描くのは『五郎とワカコ』。タイトルどおり、五郎とワカコが『孤独のグルメ』に登場した赤羽のあの店で隣り合わせになったら……という設定だ。ワカコが朝から日本酒をキュッとやりつつ生ゆば刺をつついていると、隣のスーツ姿の男(五郎)も同じ生ゆば刺とうな丼を食べているのに気づく。
「お酒を飲まず豪勢な朝ごはんか」「もりもり朝食 元気な証し」と微笑むワカコ。一方の五郎はワカコを見て「…OLだろうか 生ゆば刺と酒…平日の朝から…?」「水商売って感じじゃないし…」と思う。その言い回しはオリジナルの五郎のセリフを拝借したものだ。
『孤独のグルメ』の原点ともいえる作品があった!
ほかの寄稿者たちも、2~4ページ(カレー沢薫は再録で8p)のショート作品ながら、それぞれに趣向を凝らした自分なりの『孤独のグルメ』を見せてくれる。原作者・久住昌之の実弟である久住卓也は、兄弟ならではの視点で『孤独のグルメ』の舞台裏を綴る。そしてもう一人、独自の世界を展開するのが和泉晴紀だ。
昔からのファンならご存じのとおり、もともと和泉晴紀と久住昌之は「泉昌之」名義でデビューしたコンビ作家だった。基本的に久住が原作、和泉が作画を担当する。そのデビュー作『夜行』(1981年発表)は、夜行列車で旅する男が駅弁をいかに攻略するか、というだけの話をハードボイルドなタッチで描いた怪作である。
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