"伝説"の国際ボランティア八木沢克昌さんの一生 アジアの難民・貧困家庭の教育支援に献身
東洋経済オンライン / 2025年1月18日 8時0分
タイのスラムを拠点に東南アジアや南アジアで貧困家庭への教育支
1月16日にはタイ、ラオス、
2025年1月7日、クロントイの自宅で倒れているところを発見され、病死と確認された。享年66歳。67歳の誕生日を2日後に控えていた。
数千人にスラムの道案内
八木沢さんは、アジアでボランティア活動にかかわる人の間では伝説的な存在として知られていた。1980年代初頭、ポルポト政権崩壊後のカンボジアからタイに流れ込んだ多数の難民らの支援活動を始め、その後SVAのタイやラオス、カンボジアの各事務所所長を務めた。
とくに子ども図書館の設置・運営や貧困家庭の教育支援に尽力したほか、ミャンマーやアフガニスタンの難民援助、ネパールの地震被災地の救援などに幅広く活躍した。
私は新聞社の特派員としてバンコクに駐在していた約20年前から、公私ともに一方ならずお世話になった。取材では八木沢さんに導かれてタイのミャンマー国境の町メソットやミャンマー側のメラ難民キャンプなどを何度か訪れた。ラオスやカンボジアでも協力してもらった。
記者にとっては本当にありがたい道先案内人だった。自力では難しい場所に連れて行ってくれて、知り合いを紹介し、通訳を買って出て状況を解説してくれた。私が特別というわけではない。八木沢さんにお世話になった記者やカメラマンの数は、バンコク駐在だけで三桁に届くだろう。
また、酒好きの健啖家でもあり、食事や酒席をともにしたことは数えきれない。同僚や他社の記者も同様だった。
東南アジア最大級のスラム・クロントイ地区に30年以上、居を構えていた。八木沢さんのおかげでバンコク中心部に広がるこのスラムを歩き、住民らから話を聞くことができた。
記者やジャーナリストに加え、スタディーツアーやボランティアの学生ら、日本大使館や日本企業関係者らを案内していた。その数は千人の単位に上るだろう。
これらの人々のほとんどは、八木沢さんがいなければ、経済発展する首都の足元に広がる貧困の現場に足を踏み入れることはなかったであろう。
大活躍の傍らコラムも多数執筆
八木沢さんはいつもズームレンズをつけたニコンの一眼レフを首から下げていた。2000年代には邦字紙『バンコク週報』で、2010年代には『読売新聞』国際版ヨミサットで週1回のコラムを持っており、そのコラム用の写真を撮るためだった。『朝日新聞』のグローブにも執筆していた。
本業のNGO活動や多くの人たちの道案内だけでも忙しいのに、毎週かなりの行数の連載を速筆していたのには恐れ入った。テーマの多くは現場からの報告だ。もの書きを本業とする当方が恥じ入るほどの執筆のスピードだった。
特筆すべきは、キャンプに住む難民から政府高官までアジアの多くの国に張りめぐらせた人脈の広さと深さだ。
ラオスの歌姫と言われるアレクサンドラ・ブンスアイさんや、中央
八木沢さんは、学生時代に兄を交通事故で亡くしたことがきっかけで「悔いのない人生を」と誓い、当時日本で始まったばかりの国際ボランティア活動にのめり込むことになったと話していた。
還暦を過ぎてなお豊かな黒髪は変わらず、元気そのものに見えた八木沢さんだが、約3年前にバンコクで倒れ、日本で1年以上の療養生活を送ったのち、2年ほど前に現場に復帰していた。
「ミ・パ・ド」の信条を最後まで
2023年4月にバンコクでお会いしたのが最後だった。酒も飲めるようになり、さらなる飛躍を誓い、信条である「ミ・パ・ド(ミッション・パッション・ドリーム)で頑張ります」と話していたことが昨日のように思い出される。
バンコクを訪れても、もう八木沢さんと酒を酌み交わすことができない。アジア各地の話をすることもできないと思えば、喪失感はとてつもなく大きい。多くのボランティア関係者やジャーナリストも同様の思いを抱いていることだろう。
さようなら八木沢さん。お疲れさまでした。あなたの記憶は多くの人の心に刻まれ、業績とともに残り続けるでしょう。どうか安らかにお休みください。
柴田 直治:ジャーナリスト、アジア政経社会フォーラム(APES)共同代表
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