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フランスは「平均44歳」欧州に旧型客車多い事情 鉄道復権で中古需要活発、新車導入も進むか

東洋経済オンライン / 2025年2月1日 6時30分

ドイツ鉄道の103形電気機関車が牽引する客車列車。かつては国内・国際優等列車の中心的存在だった(撮影:橋爪智之)

日本では、機関車が客車を牽引するいわゆる客車列車はクルーズトレインの「ななつ星」や観光用のSL列車「SLやまぐち号」のような特別な列車を除いて、ほぼ絶滅に近い状況となっている。

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一方、ヨーロッパでは高速列車をはじめ、電車や気動車が急速に数を増やしているものの、日本と比較すればまだ多くの客車列車が残っている。環境問題の後押しで鉄道の復権が進む中、中古客車を調達して列車運行ビジネスに参入する民間事業者も少なくない。

だが、ヨーロッパ全体で客車の高経年化、老朽化は進んでいる。一部では、旧型客車の強度や耐久性の問題を指摘する声もある。実際、どのくらいの「車齢」の客車が使われているのだろうか。

フランスの客車は平均「44歳」

ドイツの調査会社SCIフェアケール(SCI Verkehr)がまとめたデータによると、ヨーロッパ大陸諸国で車両の保有数トップ5の各国(フランス、イタリア、ポーランド、スイス、ドイツ)における客車の平均車齢は33年に達している。

【写真】1990年代の国際列車や夜行列車から最新型の「レイルジェット」「ナイトジェット」まで、ヨーロッパの鉄道を走る「客車列車」の数々

5カ国の中で最も平均車齢が高いのはフランスで、実に44年。日本でいえば旧国鉄時代に製造された客車が当たり前ということになる。2番目に車齢が高いのはイタリアで38年。次いでポーランドの34年、スイスの33年と続く。5カ国の中で最も低いのはドイツで24年。フランスとドイツの客車の平均車齢には20年もの開きがある。

なぜここまで差が出るのだろうか。これには各国の車両導入のポリシーが反映されている。

最も平均車齢が高いフランスは、1980年代以降都市間輸送においては高速列車TGVが主力となっており、主要都市間を結ぶ長距離列車の多くは客車からTGVに置き換えられた。一方でTGVが運行されていない地方都市間では、1970~80年代に製造された「コライユ型」と呼ばれる客車を使った列車が、現在も主力として運行している。

実はこのコライユ型以降、フランスでは新型の長距離列車用客車は投入されていない。

フランスは、客車列車については基本的に電車やバイモード(電化区間と非電化区間を直通できる)車両などを投入して置き換える方向へ進んでおり、これが他国よりも平均車齢が大幅に高い要因となっている。

だが、2025年1月にフランス運輸大臣のフィリップ・タバロ氏が、政府主導でまもなく夜行列車用の新型客車180両と機関車30両を発注すると語った。実現すれば、実に45年ぶりの新型客車導入となる。

「フェリー輸送」で客車が残るイタリア

次いで平均車齢が高いイタリアも似たような状況にある。現役の客車の中には、1980年代までヨーロッパの花形列車だったTEE(ヨーロッパ国際特急)の時代に製造された車両もあり、車齢50年を超える客車が今も走っている。

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一方、主要都市間輸送の多くは高速列車「フレッチャロッサ」をはじめとする電車に置き換えが進んでいる。非電化区間も、日立製のトライブリッド(電気・ディーゼル・バッテリー)車両「マサッチョ」のインターシティ用が投入されつつあり、客車の活躍の場は次第に狭くなっている。

だがイタリアもフランスと同様、夜行列車に新型客車の投入が決まっている。一方でイタリア半島とシチリア島間の航送(フェリーで車両をそのまま輸送する)がある点も、客車列車が残りつづけるであろう要素の1つだ。

フェリーで電車を航送するのは難しく、高速列車フレッチャロッサを積載する計画が持ち上がったこともあったが、技術的な問題で断念したことが伝えられた。航送が残る限り、客車列車の完全廃止へは至らないものと考えられる。

では、5カ国のうち平均車齢が最も低いドイツはどうか。ドイツも主要都市間輸送の主力は高速列車ICEとなり、今後も基本的にはICEなど固定編成の列車への置き換えが見込まれている。

だが、近年は都市間列車のインターシティに新型の2階建て客車(IC2)を投入しているほか、既存の客車による国際列車ユーロシティの置き換え用として新型客車(ICE-L)の導入を決めるなど、客車列車は衰退一辺倒ではない。数は少ないとはいえ新型客車の投入が続いていることが、平均車齢が低くなっている要因だ。

「客車」が長年主力だった理由

ヨーロッパで客車列車が長らく主力だったのは理由がある。地続きのヨーロッパ大陸では国際列車が多く運行されているが、各国で電化方式や信号システムが異なる。このため、電車や気動車の場合は乗り入れ相手国の電圧や信号に対応した車両を製造しなければならず、それよりは国境で各国の機関車につなぎ変えればいい客車列車のほうが効率的だった。

季節による需要の変動が大きいことも客車が好まれた理由の一つだ。固定編成の電車や気動車は、多客時には同じ編成を複数つなげて運行するが、細かい需要の変動には対応しにくく供給過多になることもある。

だが1990年代以降、ヨーロッパでも客車列車から電車や気動車への置き換えが進むようになった。各国で高速鉄道が次々と開業し、それまで都市間優等列車の主力だった客車列車は、年を追うごとに支線のローカル特急や、急行列車などへ格下げされていった。

近郊列車も、機関車や客車の老朽化により置き換えが必要となったタイミングで、電車や気動車への交代が進んだ。近年は、旅客用車両は電車や気動車、さらにバッテリーを積んだハイブリッド車両のような固定編成の車両ばかりとなっている。

息を吹き返した?客車列車の強み

だがコロナ禍以降、客車を取り巻く状況はやや風向きが変わりつつある。ヨーロッパでは環境問題の後押しもあって、鉄道の需要が増え続けている。この需要に応えるため、電車や気動車への置き換えで余剰となっていた機関車や客車を活用する方向へ進んでいくのではないかという予測があるためだ。

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前述のドイツ鉄道や、オーストリアの高速列車「レイルジェット」、夜行列車「ナイトジェット」を筆頭に、ベルギーやポーランド、チェコでも新型客車が投入されるなど、今も客車の需要は低くない。

また、これらの新型客車に押し出されて不要となった旧型客車は民間オペレーターへ売却され、ヨーロッパ全土で運行されている。こうした民間事業者はどこも好調で、つねに客車が不足している状況であることから、中古車市場もかなり活況を帯びている。

【写真】2024年6月にチェコで起きた事故では旧型の客車だけが大破。老朽化の問題を指摘する声も

これらの事業者が客車列車を選ぶ理由は、すでに各国で運用の実績がある客車なら、機関車さえ手配すればすぐにでも運行開始できるためだ。民間事業者の中には、新型客車の購入を示唆する会社もあり、ヨーロッパの客車需要は当面続くものと考えられる。

平均車齢については、新型車投入と旧型車淘汰のバランスを考えた場合、今後しばらくは高止まりの状況が続くことが予想されるが、フランスのように新型客車の投入によって既存の客車を置き換えるようなことがあれば、一気に若返りが進み、平均車齢も低くなるだろう。

一方で旧型客車に関しては、強度や耐久性についての課題も指摘される(2024年7月23日付記事『衝突事故で「1両だけ大破」、欧州鉄道の隠れた課題』)。客車をめぐる動きは、現在のヨーロッパの鉄道の状況をよく示しているといえるだろう。

橋爪 智之:欧州鉄道フォトライター

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