セブン&アイの買収、経済安保の視点を忘れるな 元国家安全保障局長が説く、食料や雇用への影響
東洋経済オンライン / 2025年2月2日 13時0分
セブン&アイ・ホールディングス(セブン&アイHD)が、カナダの流通大手アリマンタシォン・クシュタール(ACT)から受けた7兆円規模の買収提案は、日本の経済界や社会に大きな衝撃を与えた。一方、セブン&アイの傘下にあるスーパー創業家(伊藤家)では株式非公開化を目指した対抗策を模索している。
セブン&アイは、ACTの提案、創業家の提案、自社単独での成長策を含め、すべての選択肢を検討すると発表している。セブン&アイの取締役会は、公正な視点で十分な議論を行い、買収受け入れの是非を判断する必要がある。
買収案の判断には、加盟店オーナーや従業員、地域社会への中長期的な影響も考慮されるべきであり、短期的な利益のみを重視するのは望ましくない。本稿では、海外の事例や食料安全保障の観点から、本買収の影響や問題点を提起する。
仏政府は農業保護を理由に買収阻止
まずは過去にACTが行った敵対的買収に対する外国政府や企業の対応事例を紹介する。直近では、2021年1月にフランスの小売り大手カルフールに対する買収提案があった。フランス政府は、カルフールが同国の食料供給の約20%を担い、農家や10万人の雇用に影響を及ぼすとして買収を阻止した。また、フランスの農民団体もカナダからの輸入増加による農業への悪影響を懸念し、合併に反対した。その結果、ACTは買収を撤退し、友好的業務提携にとどまった。
2019年11月には、オーストラリアで、ガス・石油会社のカルテックス現地法人に対する買収提案があったが、カルテックスの取締役会は提案を過小評価とし拒否。オーストラリアの外国投資審査委員会は燃料供給の安全保障の観点から精査を示唆し、最終的にACTは撤退した。
これらの事例から、政府や業界団体の反対により買収が実現しなかった経緯が読み取れる。反対理由は、安全保障上の懸念や多様なステークホルダーへの悪影響であった。
ここで、世界各地で積極的な買収提案を行うACTとはそもそもどんな会社なのかをおさらいをしておこう。ACTはカナダに本社を置き、約30の国と地域でコンビニエンスストアやガソリンスタンドを展開するグローバル企業である。1980年にケベック州ラヴァルで最初のコンビニエンスストアをオープンし、現在は1万6000を超える店舗を展開している。「クシュタール」や「サークルK」などのブランドを持ち、カナダでは道路輸送燃料小売りでもリーダー的な立場にある。
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