吉野家「出店数激減?」に見る牛丼チェーンの変化 店舗数は頭打ち、早急に求められる新たな鉱脈
東洋経済オンライン / 2025年2月4日 7時20分
2025年2月期の吉野家の国内新規出店が計画の半分になる見込みだと日経新聞が報じた。
【画像8枚】吉野家が増やしている「カフェのような」店舗。清潔感があってオシャレな印象も、おじさん客には入りにくい…?
背景には、建築費や賃料、人件費の高騰がある。また、昨今では原材料費の値上げも続いており、既存店の売り上げが思うように伸びなかったことも影響しているという。
同ブランドを運営する吉野家ホールディングスは昨年、それまで横ばいが続いていた牛丼店を100店舗以上増やす「攻め」の計画を立てたばかり。それだけに、諸々の値上げや予想外の既存店売り上げの伸び悩みが同社に与えた影響の大きさがわかる。
一方、出店数が頭打ちになってしまっている背景には、吉野家の不振以上に、「牛丼業界全体の変化」にも理由があると思う。端的に言って「牛丼だけでは厳しい」のだ。
吉野家の店舗増加戦略の背景は?
そもそも吉野家が昨年、大幅な店舗数増加に踏み切ったのは、ここ数年での業績好調を受けてのこと。
【画像8枚】吉野家が増やしている「カフェのような」店舗。清潔感があってオシャレな印象だ
2020年のコロナ禍の際には赤字に転落するも、2024年2月期決算では売上高1874億円(前期比11.5%増)、営業利益79億円(同2.3倍)と好決算を叩き出した。こうした追い風を受けて、店舗数の増加を見込んだものと思われる。
特に増やそうとしていたのが、テイクアウト店とC&C業態と呼ばれる店舗。後者はクッキング&コンフォートの略で、カフェのような店内が特徴である。
店内にはドリンクバーなども設置され、テーブル席も多い。特にコロナ禍明けで店内飲食の需要が戻ってきたことを受け、このC&C業態には力を入れる予定だった。
こうした背景には「男性向け」という牛丼のイメージを覆し、さらに吉野家を成長させようという意図が隠れている。
吉野家の歴史と発展
吉野家の開業は1899年。日本橋の魚市場に誕生している。市場で働く忙しい人々のために、さっと食べられる牛丼を提供し始め、人気を博すことになった。
スローガンは「うまい、やすい、はやい」で、牛丼以外のメニュー数は絞り、サラリーマンをはじめとした男性一人客向けに牛丼を安く、早く食べられることに注力してきた。
同社の歴史の1つのターニングポイント……というか大打撃だったのが2000年代のBSE(牛海綿状脳症)の問題。基本的に「牛丼一筋」だった同社にとって牛丼が販売できなくなるという致命的な問題を与えた。
こうした諸々の事情が重なり、特に現社長である河村泰貴氏が社長に就任した2012年あたりから徐々にそのイメージ転換を進めてきた。その中でのC&C業態の模索であり、出店加速だった。
しかし、直近の業績や新規出店の計画修正などを見ると、狙っていた程にはうまく進まなかったようだ。
なぜ、狙い通りには進んでいないのか。
もちろん、店舗の開発コストの増加もあるのだが、筆者としてはより根本的の理由の1つとして、牛丼業界全体が「牛丼」という商材だけでは伸び悩んでいる現状を指摘したい。
現在牛丼チェーンを見ていると、その店舗数は、ほぼ横ばいになっている。
1968年には松屋、そして1982年にすき家が誕生。吉野家・松屋は都心を中心に増加するサラリーマンの需要に応え店舗数を増やす。
一方、後続のすき家は前2社がターゲットにしていなかった女性やファミリー層の需要を発掘し、郊外に店舗を多く作っていった。
しかし、その流れも2010年代半ばで止まってしまう。それ以降、すき家が2000店舗弱、吉野家が1200店舗弱、松屋が1000店舗前後のまま、基本的には横ばいの状態が続いているのだ。
ちなみに2023〜2024年で見ると、吉野家の出店攻勢があったため、牛丼チェーン全体での店舗増加数は2.0%増加で以前よりも上昇傾向にあるが、吉野家が結果として出店計画を縮小させたことを踏まえると、やはり「牛丼」だけで拡大することが難しい様子が見て取れる。
この背景には、牛丼自体が料理として完成されていて大きなイノベーションを起こしづらいことや、すき家の大規模な展開によって郊外のファミリー層への訴求も一通り終わってしまったことがあると思う。
各社、顧客の拡大や牛丼以外で戦い始めている
「牛丼だけ」での拡大が難しいのは、吉野家のライバルである松屋の動きを見るとよくわかる。
実は2023〜2024年で見ると、松屋も大きく店舗数を増加させている。しかし、こちらは少し事情が特殊である。松屋は「みんなの食卓でありたい」のスローガンのもと、もともと牛丼だけに頼らないメニュー構造をしていたが、近年、牛丼以外のメニュー進出にさらに意欲的になっている。
数年前からはとんかつの専門業態である「松のや」の出店を加速。また、カレー専門店である「マイカリー食堂」も誕生させて、この3店舗を複合させた併設店を多く出店している。
実際にこの店舗に訪れてみると、中はまるでフードコートのようであり、牛丼のみならずさまざまなメニューが選べるから、ファミリーなどにもってこいだ。
また、松屋では単独店でも外国の郷土料理とコラボしたメニューを提供していて、こちらもSNSで話題になるなど好評。最初はジョージアのシュクメルリ鍋定食から始まり、現在は超激辛の「水煮牛肉」を提供している。
まさに「牛丼」だけに頼らない収益構造を目指し、実際に同社の業績は好調である。
また、すき家は創業以来ターゲット層においているファミリー層向けのメニューを多く取り揃え、さまざまなトッピングを載せた牛丼や、ミニサイズ、サラダまで多く取り揃えることで地方・郊外でのシェアを盤石なものにしている。
一方、こうしたファミリー向けの店舗だけでなく、特に都心部については店舗オペレーションの関係から「セミセルフ店舗」として、大きくDXを取り入れた店舗を展開し、ビジネスマン需要への対応も行う。
昨年、こうした店舗で使われている使い捨て容器が“ディストピア容器”として話題になったことも記憶に新しいが、それもこうした政策の一環である。
いずれにしても、これまでの客層とは異なる客層を呼ぶための政策、特にメニューの多角化を中心に牛丼チェーンが動いている。
さまざまな新業態、新メニューを模索しているが…
もちろん、吉野家も「脱牛丼」の流れを加速させている。
例えばラーメンでは、多くの地方の小規模ラーメンチェーンのM&Aを繰り返している。昨年12月には関西のラーメンチェーン「キラメキノトリ」を買収すると発表、またそれ以前にもラーメン関連の食材の開発を手掛ける「宝産業」も買収し、ラーメン事業への意欲を見せる。
ラーメン業界は昨年個人店の倒産件数が最多となる一方で、M&Aが続き、チェーン化と個人店減少の二極化が進み始めている。そんななかで、チェーン化の流れに乗ろうとしているのだろう。
また、昨年12月には「カレー専門店 もう〜とりこ」をオープン。この「とりこ」シリーズとしては、「牛かるび丼・スンドゥブ専門店 かるびのとりこ」もオープンさせている。
さらに、それとほぼ同時にからあげの新業態「から揚げ専門店 でいから」も開店した。
これだけ書くと、この短い期間の間にずいぶんと多くの店舗を出店したんだなあ、と思わずにはいられないが、これに加えて昨年は吉野家内で「ダチョウ肉」を使った「オーストリッチ丼」の提供も試験的に導入。
吉野家によれば、ダチョウ事業も「新しい柱」として本格化させる狙いだという。
「伝統」の吉野家だからこそ、動き出しが遅かった?
ただ、これらの店舗が長期的に見てその利益に向上するかは難しいところだ。
例えば「もう〜とりこ」を視察したフードスタジアム編集長の大関まなみ氏は同店舗が「誰を向いているのかわからない」と書く。
店舗の構造としては若い女性を狙っているのだろうが、結局中にいるのは地元の男性が多く、吉野家の目指したい方向と現実の吉野家のあり方が乖離しているのだ(吉野家の跡地に出現「おしゃれカレー店」の実態 新業態を直撃!味のクオリティは申し分なしも…)。
吉野家は「牛丼一筋」で長い歴史を紡いできた。だからこそ、こうした動き出しへの変化が遅れてしまったのかもしれない。
そのためだろうか、こうした積極的な新業態の開発を見ていると、どこか「焦りの色」が見え隠れする。
しかし、その焦りは結果的に見れば、拙速な新業態の開発につながってしまい、最悪本業の牛丼までをも切迫しかねない。というよりも、今回の「出店数半減」報道には、こうした吉野家の焦りとその結果がよく現れているのではないか……筆者には、そんなふうに思えてしまうのである。
戦後、急増するソロ男性たちをターゲットにして大きくシェアを広げた牛丼屋。しかし、牛丼が初期にその顧客としていた独身男性だけでは、これ以上の成長は望めない。とはいえ、すき家のように初期からファミリー向けを狙っていなければ、突然ファミリー向けや女性向けに店のイメージを変更するのも難しい。
吉野家が置かれているポジションは、予想以上に厳しいのかもしれない。ファンのひとりとして、その奮闘を今後もウォッチしていきたい所存だ。
【もっと読む】牛丼チェーン「深夜料金」に不満の声が続出する訳 外食チェーンのインフラ化に我々は慣れてしまった では、牛丼チェーン各社が導入を進めている深夜料金に不満の声が続出している理由について、チェーンストア研究家の谷頭和希氏が詳細に解説している。
谷頭 和希:都市ジャーナリスト・チェーンストア研究家
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