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火星移住に向けて解決すべき「目の問題」 「宇宙」と「目」の不思議な関係とは何か

東洋経済オンライン / 2025年2月7日 15時0分

宇宙に行くと、目にはどんな影響があるのでしょうか?(写真:ペロリ/PIXTA)

2024年11月、文部科学省から「裸眼の視力が1.0に満たない小中学生の割合が、過去最高だった前年から横ばいで推移している」と発表があった。ここ数十年、子どもの視力の低下傾向は止まらない。視力が悪くなってもメガネをかければよいと思われがちだが、近視は将来的に失明のリスクが高くなるため、危険な疾患だ。

眼科医としてこの問題に向き合っているのが、窪田良氏。科学的にも証明されている「1日2時間の屋外活動で子どもの近視は抑制できる」ことを知ってほしい、と発信を続けている。

今回は、『近視は病気です』著者の窪田氏と、『東大宇宙博士が教える やわらか宇宙講座』(東洋経済新報社)の著者である井筒智彦氏が、「子どもの外遊び」や「宇宙と目の関係」などをテーマに全4回で対談をする。第3回では、宇宙における目の問題や、窪田氏が開発中の超小型眼科診断装置について語り合う。

宇宙に長期滞在すると目が悪くなるのはホント?

井筒:宇宙飛行士になると、視力が低下すると言われていますよね。宇宙飛行士の若田光一さんは、目が良いことが自慢だったそうですが、宇宙から帰還後に視力が低下し、メガネをかけるようになったと聞いたことがあります。宇宙に行くと、目にはどんな影響があるのでしょうか?

窪田:今、推測されているのは、SANS(Space Flight-associated Neuro-ocular Syndrome)と呼ばれる現象です。無重力化によって体液の分布が変わり、脊髄や脳を包んでいる髄液の圧が上がることで、網膜の後ろから眼球が圧迫される。眼球の丸い形がつぶれて扁平化します。それによって虚血になり、遠視が引き起こされると考えられています。

井筒:なるほど。眼球が圧迫されることで、目が悪くなるのですね。

窪田:この現象は、宇宙に6カ月以上いる人の多くに起こっています。眼球の変形をなくすためには、おそらく人工的に重力をかけるしかないと思います。

地球は人間にとって奇跡の環境

井筒:月は地球の6分の1の重力ですが、それでも目への影響はあるでしょうか?

窪田:程度は違いますが、やはりあると思います。なぜなら、もともと人間は重力に対応して体内の圧力のバランスをとるようにプログラムされているからです。下に引っ張る重力の力が弱くなれば、相対的に頭蓋内圧は上がっていきます。それが目には悪影響を及ぼします。

井筒:それだけ人間の体は、地球の重力に合わせられているということですね。

窪田:その通りです。ちょっと寝たきりになっただけで、立ち上がれなくなる人がいることからもわかるように、重力に逆らって生活していることが、いかにすごいことなのか。それが当たり前にできているのは、人間の体が適応してきたからなんです。

もし無重力状態で暮らすとしたら、一気にそのバランスが崩れてしまう。目だけでなく、筋肉や循環器系にも影響が出ます。

井筒:宇宙に半年いただけでも体に変調を来すのですから、いかに地球が人間にとって恵まれた環境なのかがわかりますね。

窪田:本当にそう思います。人間にとって地球がどれほど奇跡的な環境なのかを知れば、環境破壊なんてしていいわけがないですし、同じ地球に住む仲間と争い合っている場合ではない、という気持ちになります。

井筒:宇宙の視点を持つと、地球の見え方も変わっていきますね。窪田先生の会社(窪田製薬ホールディングス)では、SANSの問題に対応するために、NASAと共同でデバイス開発をされているそうですね。

窪田:はい、超小型眼科診断装置の開発を進めています。宇宙における目の問題は、人間がこれから宇宙にどんどん出ていくために必ず解決しなければならない課題の一つです。

というのも、例えば火星に行って帰ってくるのに、今の技術だと3年半かかります。その間に視力低下などの障害が起こるため、対処法を見つけるには宇宙空間での目の診断が重要だとされているからです。今や宇宙における目の問題は、放射線障害に並ぶ最重要課題の一つだと考えられています。

宇宙に必要なものは、地球でも必要なもの

井筒:なるほど。治療法を見つけるために宇宙で検査する必要があるのですね。

窪田:そうです。すでに国際宇宙ステーションには眼科の検査機器が1台あるのですが、眼科医か検査技師がいなければ検査ができず、半年に2回ほどしか使われていません。しかも台に乗せたプリンターほどの大きさがあるので、必要最小限のものしか積み込めない宇宙船には乗せられない。そこで、自分で目の検査ができるコンパクトな機器の開発が求められていました。

井筒:開発中の機器は、どのようなものですか?

窪田:もともと私たちは、高齢者の在宅医療用に、誰でも簡単に操作できる検査機器の開発に取り組んでいたので、その技術を応用したものです。検査技師がいなくても自分1人で検査できますし、大きさは双眼鏡サイズで、宇宙船にも持ち込めるコンパクトな機器です。

井筒:宇宙飛行士と、在宅医療を受ける高齢者。どちらも自分で簡単に検査をしなければならないことから、発想されたのですね。

最近では、水を使わずに髪や頭皮の汚れを拭き取れるシートや、すすぎが簡単にできる歯磨き粉などが開発されています。宇宙で使うと考えるとニッチな商品ですが、例えば災害時に水が使えない地域でも需要があります。

窪田:宇宙での課題を解決することが、実は身近な課題の解決ともつながっていますよね。コンパクトな眼科診断装置でいえば、宇宙の課題を解消できるものであると同時に、高齢化でニーズの高まる遠隔医療でも使うことができる。だからこそ、長期的な展望で開発に取り組んでいきたいと思っています。

井筒:実は、今回『近視は病気です』を読んで、すぐに眼科に検査を受けに行きました。異常なしだったのですが、片目にほんのわずかですが黄斑萎縮があって。医師からは「2、3年ごとに検査して経過を見ましょう」と言われました。

窪田:井筒さんの場合、もともと近視があったことから、近視性の黄斑変性の可能性がありますね。

井筒:はい。何も知らないまま、ある日、突然目が見えづらくなって、病院に行ってそう告げられたらショックだったでしょうが、本を読んで知識を備えていたことで心構えができていました。

子どもの近視は外遊びによって進行を抑えられる一方で、私のように大人の近視に対しては、何かできることはありますか?

「大人でも屋外活動は目によい」報告も

窪田:元々、屋外活動による近視の抑制効果が明らかになっているのは、目の成長期にあたる20歳頃までと考えられていて、大人に効果があるかどうかは研究が進められている段階です。

ただ、最近オーストラリアで行われた研究では「屋外活動は大人の近視抑制にも効果がある」との報告がありました。オーストラリアは、最先端の近視研究が盛んな国の一つ。この結果には期待が持てます。いずれにしても、屋外で太陽光を直接浴びて遠くを見ることが目に良い影響を与えるのは間違いありません。

井筒:世界でもどんどん近視研究が進められているのですね。

窪田:はい。さらに新しいテクノロジーの開発によって、大人の近視に効果的な治療法がこれから出てくる可能性もあります。私たちが開発した治療用メガネの「クボタグラス」は、光の力で矯正的に遠くを見ている状態を作り出すもの。すでに子どもでの効果は実証されていますが、何歳まで効果があるのかはこれから検証を進めていくところです。ぜひ今後の展開に期待していてください。

井筒:はい。目に負担がかからないような生活を意識しつつ、新しい情報を待っています!

(構成:安藤梢)

井筒 智彦:宇宙博士、東京大学 博士号(理学)

窪田 良:医師、医学博士、窪田製薬ホールディングスCEO

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