渋谷サクラステージ"閑散"に見る「再開発の現実」 渋谷の再開発はもう失敗してしまった…のか?
東洋経済オンライン / 2025年2月8日 8時40分
再開発が進む東京。「ハラカド」など、今までになかったコンセプトの商業施設が話題になる一方で、出遅れてしまったり、魅力が伝わりきっていない印象のビルも存在する。例えば、「Shibuya Sakura Stage」はその1つかもしれない……。
新著『ニセコ化するニッポン』を上梓した、都市ジャーナリストの谷頭和希氏が解説する。
昨年に全面開業した渋谷の「SHIBUYA SAKURA STAGE」(以後、サクラステージ)。商業施設や長期滞在型ホテル、マンションが合わさった複合施設で、渋谷で進む大規模再開発の「ラストピース」といわれていた。
【画像19枚】「ひ、人がいない…」「昔の桜丘はあんなに繁盛してたのに…」 ガラガラとの評判の「サクラステージ」の実態
そんなサクラステージ、昨年の終わりぐらいから「ガラガラ」なんて評判を聞くようになった。平日も休日も、とにかく人がいないらしい。
その噂は本当なのか? 今回は実際に現地の様子をレポートしつつ、現在進行中の渋谷再開発が「今のところ成功なのか、失敗なのか?」を考えてみたい。
結論からいえば、「半分成功、半分失敗」といったところ。どういうことか。
一つの街のようになっているサクラステージ
さっそくサクラステージを訪れてみた。同施設は渋谷駅西口と代官山駅の間に広がる「桜丘地区」に誕生。それまで、低層の建物が多く立地していた地区だが、このたびの再開発で一帯の風景は驚くほど変わった。
【画像19枚】「ひ、人がいない…」「昔の桜丘はあんなに繁盛してたのに…」 ガラガラとの評判の「サクラステージ」の実態
施設は渋谷駅に直結している「SHIBUYA サイド」と、桜丘地区に隣接する「SAKURA サイド」の2つに分かれている。
2棟とも、中・低層階にはレストランやショップが入るが、「SHIBUYA サイド」の高層階はオフィスや教育機関(大学)、一方「SAKURA サイド」の高層階にはマンションや長期滞在型のホテルが入居している。
公式ホームページのマップで「TOWN MAP」と書かれている通り、施設全体が一つの「街」のようになっている。
でも、人が少ない…?
さっそく歩いてみよう。歩き始めたのは、日曜の夜。といっても渋谷なので、ハチ公前や道玄坂、宮益坂には多くの人が歩いている時間帯だ。
渋谷駅から直結するSHIBUYA サイドにはレストランが点在するが、人の入りはそこそこ。ただ、同時刻のスクランブル交差点やMIYASHITA PARKに比べると相対的に人は少ない。
特に人の少なさが目立つのが、桜丘に近いSAKURA サイド。活気がなく風通しが良い。渋谷の風を感じるのに、もってこいのスポットになってしまっている。
またここには「桜丘の森」という公園のようなスペースもあるのだが、そこもほとんど人がおらず、寒空の下で缶ビールを飲むグループ以外には、ライトアップされた木々が光っているだけだった。
空きテナントの多さが施設の寂しさを作る
こうした寂しい雰囲気の原因の一つは、空きテナントの多さ。
建物のそこらじゅうに何もない区画がたくさんある。中には、まだテナントが埋まっていなくて立ち入りができない場所も。
サクラステージのホームページでは、事業者向けに商業施設の募集区画の詳細が公表されている。それによれば、2025年1月現在で募集中の区画は8区画。特にSAKURA サイドの2階すべてと、3階のほとんどがまだ空いている状態である。
1階部分の路上から見える場所でもテナントが埋まっていなかったりもして、外から見ても寂しい感じは否めない。どうも、「ガラガラ」報道の一因はこの空きテナントの多さによるもののようだ。
まだオープンからそこまで時間が経っていないとはいえ、これはちょっと切ない気持ちになる。
庶民的なお店は好調な様子
その一方で、栄えている場所も存在している。
具体的には、マクドナルドや松屋、エクセルシオールカフェやカルディ、東急ストアなど比較的庶民的なチェーンが軒を連ねている。それらの「生活感」のある場所はけっこう人がいるのだ。
例えば、地下の歩道から直通で行けるマクドナルド。センター街のマクドナルドが激混みでそこから流れてきたのだろうか、夜でもしっかり人がいる。
また、その上にあるリンガーハットや松屋も、普段使いの人々がかなり入っている。
渋谷といえば歓楽街や観光地のイメージが強いが、桜丘の背後には住宅街が広がっており、普段使いの人も多いのだろう。こうした人々の需要があると思われる。
ちなみにサクラステージに入るのは東急ストア。これまで、渋谷の再開発で誕生したビルには、東急ストアよりも価格帯の高いスーパーが入っていた。例えば「渋谷スクランブルスクエア」は「紀伊国屋スーパー」で、「ヒカリエ」には「明治屋」といったところ。
これまでとはターゲットが異なり、より「暮らし」に密着したテナントも多いことがわかる。そして実際、そうした店はそこそこ混んでいるのである。
Greater Shibuya2.0の時代に突入した
こうした「暮らし」に密着した店が入るのはなぜか。その理由は現在進む「渋谷再開発」に理由がある。
実は、あまり知られていない話ではあるが、一口に「渋谷再開発」といっても、それは2段階に分かれている。
渋谷再開発の話が持ち上がり始めたのは2000年代前半から。それが現実味を帯び始めるのが2010年あたりからで、地区の再開発で最初に誕生したのが渋谷ヒカリエ(2012年)だった。ここからはじまった東急グループによる渋谷再開発は「Greater Shibuya1.0(グレーターシブヤ)」と呼ばれ、2020年までの計画がこう呼ばれている。
この第1段階のビジョンは2つ。新しいビジネスが生まれるとともに、エンターテインメントの集積地として渋谷を発展させる「エンタテイメントシティSHIBUYA」と、渋谷を中心に魅力ある周辺エリアを作る「広域渋谷圏構想」の2つだ。
再開発のメインターゲットは「遊ぶ」と「働く」。つまり、観光客とオフィスワーカーである。この計画に沿って、渋谷ヒカリエ・渋谷スクランブルスクエア(第1期)・渋谷フクラス・渋谷ストリームといった建物が建てられた。目論見通りだろうか、これらのビルには観光客が多く押し寄せ、上層階にはさまざまな企業のオフィスが誕生した。
渋谷再開発は「暮らす」フェーズへと突入?
一方、東急グループが策定した計画では2021年以降、このGreater Shibuyaが第2ステージに突入している。「Greater Shibuya2.0」である。
第1段階との違いは1つ。「遊ぶ」「働く」に加えて、「暮らす」が強調されていることだ。
ここ数年で誕生しているのが、この第2段階による建物で、2023年誕生した代官山フォレストゲートや、昨年誕生した原宿のハラカド、そしてサクラステージなどが該当する。
確かにこれらの建物は、第1段階に誕生した施設に比べると、住宅があったり、緑地が意識的に増やされていたりする。サクラステージにもマンションがあるし、ハラカドは建物全体を覆うように緑化がされている。
こう考えると、サクラステージにこれまでの再開発とは異なるある種「庶民的な店」が入っているのもうなずける。「暮らす」を重視したテナント構成なのである。
それらの店がある程度混んでいることは、ある程度「成功」したと言えるのではないだろうか。
想いが先行? サクラステージは「中途半端」
ただ、先ほどから書いているように、どうもサクラステージには「ガラガラ」報道が絶えない。それはテナントが入り切っていないこともあるが、もう一つの要因としては建物自体の「中途半端さ」も大いにある。
端的にいって、「遊ぶ」「働く」「暮らす」がごっちゃになっていて建物全体のターゲットがあやふやな気がするのだ。それがある種の「失敗感」を生み出しているのではないか。
「住」が意識されているのはわかるが、実際にそこが住民目線で使いやすいか、といえばそうでもない。中層階に入るレストランは少し高めで、普段使いが気楽にできる値段ではない。
渋谷に住む人たちなのだから、高収入な人が多いのは間違いないだろうが、その分、家賃で出ていくお金も多いだろう。また、毎日、毎食高いもの、こだわったものを食べたいわけではないはずだ。
また同様に、オフィスワーカーの普段使いでも払いきれない。渋谷にオフィスを構える企業は儲かっているかもしれないが、会社員の懐に余裕があるとは限らない。
Greater Shibuya2.0は「遊ぶ」「働く」「暮らす」が重なっていることが特徴だったが、ある意味こうしたレストランは渋谷の「遊ぶ」、つまり観光客に向けられているのかもしれない(また、SHIBUYA サイドには時々に応じたイベントなども開かれていて、それも「観光客」向けだ)。
ただ、桜丘地区は渋谷駅の中心からは少し離れており、現状ではわざわざ見物に来る人も多くない。それにGreater Shibuya1.0で誕生した他のビルで「遊ぶ」の要素は満たされていて、わざわざ離れたこちらには来ないのではないか。
「遊ぶ」要素を満たそうとして、結果的に「暮らす」要素も中途半端になっているのが、サクラステージの現状だ。
背景には、おそらく東急グループが思った以上に、「日本人が、貧しくなっている」ことがあるのではないか。インバウンド客に安易に媚びず、日本人にも来てもらおう、楽しんでもらおうと思った結果、響く層が限られた施設になってしまっているのではないか。
なんだか悲しい結論になってしまった感があるが、このように考えてみるとサクラステージは、Greater Shibuya2.0が悪い方向に作用してしまったのではないか、と思えてならないのだ。
とは言え、まだ同施設は開業して1年ほど。テナントが埋まっていないから、これからどんなテナントが入るかによって施設全体の雰囲気もだいぶ変わってくるだろう。
ただ、よほど普段使いができる施設にするか、あるいは観光客向けにとがった人を呼べるコンテンツを入れるのかを考えなければ、この中途半端な状態は続いてしまうであろう。
成功と失敗、どっちに転ぶか?
というわけで、サクラステージについて「半分成功、半分失敗」と、少し辛辣に書いてしまったが、基本的に私はGreater Shibuya2.0の構想は面白いと思っている。
とかく再開発は「同じようなビルばかり建てて……」といわれがちだ。その中で、よりローカルな暮らしに根差したテナントを入れたり、緑化をして暮らしを整えるのは良い試みであることは間違いない。
実際、この構想の中で誕生したハラカドは、テナントを何も入れずに、ただ座れる「ハラッパ」という場所を作るなど意欲的な試みをしていて興味深い。
「再開発」と一口にいわれがちだが、その中でもさまざまな施設が誕生しているのが現在の渋谷である。
特にサクラステージについて、「半分成功、半分失敗」の状況が長期的に見てどう変化していくのかは、施設全体のカラーがどのように定まっていくのかにかかっているだろう。
ビジネスにおいて大事なのは「選択と集中」のはず。私なんかより、東急不動産の社員のほうがよく知ってるはずだ。
渋谷再開発全体の流れを含めて、サクラステージの今後を注視していきたい。
【もっと読む】銀座に爆誕「余白だらけのビル」一体何が凄いのか 近年の再開発のあり方にデカい一石を投じている では、銀座に誕生した「Ginza Sony Park」の面白さについて、都市ジャーナリストの谷頭和希氏が詳細にレポートしている。
谷頭 和希:都市ジャーナリスト・チェーンストア研究家
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