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「トランプ氏への話し方」石破首相なぜ成功したか 世界が驚くある「ふるまい」が功を奏した可能性

東洋経済オンライン / 2025年2月10日 14時10分

コミュニケーション戦略研究家でもある岡本純子氏が「日米首脳会談での石破首相の話し方」を分析します(写真:White House/Planet Pix/ZUMA Press/アフロ)

一部上場企業の社長や企業幹部、政治家など、「トップエリートを対象としたプレゼン・スピーチなどのプライベートコーチング」に携わり、これまでに1000人以上の話し方を変えてきた岡本純子氏。

たった2時間のコーチングで、「棒読み・棒立ち」のエグゼクティブを、会場を「総立ち」にさせるほどの堂々とした話し手に変える「劇的な話し方の改善ぶり」と実績から「伝説の家庭教師」と呼ばれている。

その岡本氏の著作『世界最高の話し方』シリーズは累計20万部のベストセラーとなっているが、その「真骨頂」ともいえる「人前での話し方のスキル」をまとめた新刊『なぜか好かれる「人前での話し方」』がついに発売された。

コミュニケーション戦略研究家でもある岡本氏が「日米首脳会談での石破茂首相の話し方」を分析する。

「虚々実々の駆け引きの裏側」を分析する

石破茂首相とドナルド・トランプ大統領による初の日米首脳会談が現地時間の2月7日、ホワイトハウスで行われました。

【話題の書籍】社長・企業幹部の1000人以上変えた「伝説の家庭教師」岡本純子氏が上梓した「話し方の最新科学とスキル」が詰まった新刊

国内での支持率は低迷し、そのふるまいや装いなどについても、批判を受けることも多い石破首相ですが、今回の会談については、メディアなどからも「問題なくこなし、一定の成果があった」との評価が得られたようです。

予測不可能な“風雲児”トランプ大統領となんとか渡り合ったように見える石破首相ですが、実は、世界が驚く彼のある「ふるまい」が意外にも功を奏したのかもしれません。

その虚々実々の駆け引きの裏側を「コミュニケーションの観点」から読み解いていきましょう。

2期目のトランプ大統領が会う外国の首脳として、石破首相はイスラエルに続いて2番目という厚遇ぶりでした。

日本の国際的地位の低下に伴い、「ジャパン・パッシング」などと揶揄される中で、ここに至る外務省の努力は相当なものであったことがうかがえます。

日本側は、トランプ大統領の性格、好み、コミュニケーションスタイルなどを徹底的に調べ上げ、分析したうえで、この日の会談に臨みました。

そのかいもあってか、会談は順調に進み、「トランプ氏に『非常に強い男』と評され、日本政府内には同氏に『組める相手』と印象づけることに一定の成果を得たとの見方が強い」(日本経済新聞)と、評判は上々です。

徹底した「ホメホメ大作戦」が成功

石破首相はトランプ大統領と向き合ううえで、意図的、もしくはたんなる偶然の無意識的に、いくつかの対峙策をとっていました。

まずは徹底した「ホメホメ大作戦」です。

「テレビで見ると声高で、かなり個性強烈。恐ろしい方という印象が、なかったわけではないが……」

「実際にお目にかかると、本当に誠実な、力強い、強い意志を持たれた方。合衆国と世界への強い使命感を持たれた方と、まったくお世辞抜きで感じたところです」


など、下げて上げるという鉄板の「ギャップ褒め」を展開しました。

「トランプ大統領の経済的恫喝に対峙する絶好の機会だったが、石破氏は『バカにする』より、『ご機嫌をとる』という道を選んだ」とニューヨーク・タイムズ紙はその戦略を分析しています。

秀逸だったのは、表面的にほめそやすのではなく、具体的で情緒的なストーリーによって、大統領の心をつかんだところでした。

安倍元総理のご夫人、安倍昭恵さんを通じまして、大統領閣下の本を頂戴いたしました。そこにはPEACEと書かれておりました。非常に感銘を受けましたところでございます。そこには大統領閣下の深い思いが込められていると感じます。

昨年の7月であったかと思います。大統領になられる前でしたが、狙撃をされたとき、ひるむことなく立ち上がられ、こぶしを手に突き上げて。その時の写真が非常に印象的でありました。その背後には星条旗がはためき、そして青い空が映っていた。あの写真はおそらく歴史に残る一枚だったと思います。

あの写真を見て、私はおそらく大統領閣下の時に、自分はこうして、「神様から選ばれたんだ」「必ず大統領に当選し、再びアメリカを偉大な国に」、「そして世界を平和に」、そのように確信されたに違いないと思いました。


「こぶし」「青い空」「星条旗」など、聞き手の頭の中に絵が浮かび上がるような劇場型の描写や、トランプ大統領の心情やプライドをくすぐるような情緒的な表現が印象的でした。

石破首相自身がキリスト教徒であり、大統領を取り巻く信仰心のある保守層の価値観を理解しているからこそ、紡ぎだせた言葉、という側面もあるかもしれません。

トランプ大統領が「Very nice. Thank you」

「神様から選ばれた」という言葉を聞いたトランプ大統領が、思わず「Very nice. Thank you」と漏らすほど。

もともと、石破氏は日ごろから、単なる抽象論で終わらせず、具体的なデータやエピソードを交え、焦点を絞って話す傾向があるので、話としては、案外と説得力があるのですが、この会談でもその力が発揮されていたと言えるでしょう。

そのほかにも、トヨタ自動車の豊田章男会長や孫正義氏の名前を出してアメリカへの投資強化をアピールするとともに、「公開前の情報だが」と前置きしたうえで、ISUZUがアメリカに工場を新設するなどの「お土産」も大量投下。

自分が知っている有名人や有力者の名前をさりげなく持ち出す「Name dropping」と呼ばれる心理術を繰り出すなど、なかなかの巧者ぶりを見せつけていました。

世界のリーダーの中では、かなり異色の話し方

話の内容とは別に、この会談で最大の強みとなったのが、彼の「確証を持って話すスタイル」です。

抑揚もジェスチャーもアイコンタクトもなく話すスタイルは、世界のリーダーの中ではかなり異色。

しかし、独特の不思議なトーンと節回し、リズムを保ちながら、まったくどもらず、よどみなく話しきる。その落ち着きが「強さ」や「自信」として、トランプ大統領の目に映った可能性はあるでしょう。

一方で、「誰から、どう見られてもかまわない」というその強力な鈍感力を最大限に発揮した泰然自若、マイペースなふるまいは、時に「だらしない」「品がない」などと批判されがちです。

今回の会談では、片方の肘を椅子のアームについたまま、別の手で握手したことが、メディアによって批判されていましたが、これは実はそれほど問題ではありません。

これまでのホワイトハウスでの首脳会談でも、同じような握手をした人は何人もいました。

それ以上に、異質だったのは、彼の座り方です。

椅子の背もたれにべったりと背を付けて、今にも崩れ落ちそうでした。

石破氏の「異質な座り方」がもたらした効果は?

実は「椅子への腰かけ方」で、人の印象は大きく変わります。

背もたれに背を付けず、前のめりで話すことは、「相手の話を興味を持って聞いているように見える」、背もたれにもたれかかり、ややそっくり返った格好で話すと、「偉そうに見える」という心理的効果があります。

ああいった会談などの場面では、一方のボディランゲージをまねる「ミラーリング」という手法がよく使われており、両者ともに、椅子に浅く腰掛け、背筋を伸ばして話すのが一般的。

トランプ大統領は今回、一貫して、前のめりで話していましたが、アメリカ大統領との会談の場面で、世界の首脳、たとえば、イスラエルのネタニヤフ首相、ロシアのプーチン大統領、北朝鮮の金正恩氏でさえ、椅子にはもたれかからず、背筋を伸ばして座っていました。

背骨のない軟体動物のような石破首相のあの座り方は極めて珍しく、場合によっては「失礼」とみなされる可能性もあったわけですが、そこはさして、問題視はされなかったようです。

むしろ、まるで教祖のような「ふてぶてしさ」が、ひるまず、下手に出ない「自信たっぷりのリーダー」を印象付ける効果を生んだ可能性もあります。

また、当意即妙で余裕しゃくしゃくな様子も好感を持って受け止められました。

「アメリカが日本に追加の関税をかけたら日本は報復関税をかけるのか」との記者の質問に、「『仮定のご質問にはお答えをいたしかねる』というのが日本の大体定番の国会答弁だ」と返し、笑いをとり、トランプ氏も「とても良い答えだ。首相は自分が何をすべきかわかっている」とコメントしていました。

お互いの「自己陶酔性」が共鳴しあった会談

もう一つ、石破首相にとっての僥倖は、彼が意外に背が高かった、ということでしょう。

実は彼の身長は178センチ。

歴代首相の中で、平成以降では最も高く、今回、190センチのトランプ大統領と並んでも、サイズ的にはそれほど、見劣りしていませんでした。

アメリカでは「サイズは力」。身長の大きな人、大きなジェスチャーでふるまう人が「力がある」と解釈されるのです。

今回、トランプ大統領は石破首相の印象を聞かれて「非常に強い男だ (I think he's a very strong man.)」「素晴らしい仕事をするだろう。もうちょっと弱いほうがよかった」と冗談交じりに答えました。

そもそも、自分が大好きで、ナルシシストの傾向のあるトランプ大統領は、同様に「強い人」「力を持った人」に惹かれるようです。

石破首相の話し方には、「自分の言うこと、することが常に正しいというナルシシズム感」が鼻につく場面が少なくありませんが、そうしたお互いの「自己陶酔性」が共鳴しあった会談だった、と言えるのかもしれません。

岡本 純子:コミュニケーション戦略研究家・コミュ力伝道師

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