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ローン返済25年、私財注いだプロレス美術館の凄み "人間山脈"リングシューズから極悪女王の髪まで

東洋経済オンライン / 2025年2月11日 8時15分

プロレス会場を再現した夢の空間が広がっている(写真:著者撮影)

プロレスへの愛と情熱と熱狂が詰まった「京都プロレス美術館」。前回の記事では、仕事やお金で苦労しながらも、自宅の一室をプロレス美術館にして生きがいを見出してきた館長・湯沢利彦(ゆざわとしひこ)さんの人生について取り上げた。

【23枚の写真を見る】館長が収集したプロレスグッズの数々を展示する美術館内。対戦カードからコスチュームまで

そこで今回は、湯沢さんの思いが詰まったプロレス美術館の内部を紹介したい。ごく普通の一軒家の一室をどのように美術館に仕上げ、さらにそこにはどのような珍しくも貴重なプロレスグッズが展示されているのか、館内を隅々まで覗かせていただいた。

プロレス会場の熱気を感じる展示

扉を開ければ、中はプロレス会場の熱気が感じられるような空間が広がっている。

部屋の中央にはミニチュアのリングが設置され、周辺には場外マットやフェンス、天井にはリングを照らす照明も備えられ、実際のプロレス会場を見事に模した展示である。

「プロレスを見始めてからの25年間は観客として見せられる側だったわけですよ。でもそうじゃなくてね、今度は見せる側、いわゆるプロデュースをしたくなりまして。なのでね、生きた選手ではないですけどもマッチメイクするための選手を一つ一つ展示しまして、プロレスの興行を表したかったんです」

部屋の周囲には、アントニオ猪木、ジャイアント馬場、初代タイガーマスクなど、昭和の時代を中心に活躍したプロレスラーのアイテムを展示。パネルで顔を表現しながら、リングの周辺に選手たちが佇むかのような展示を、手作りで表現している。

資金不足は愛と創意工夫でカバー

前回の記事でも取り上げたように、ローン返済やリストラなど、金銭的な苦労が多かった湯沢さんにとって、美術館にかけられるお金は限られている。そこで、展示のあらゆるものは手作りで対応した。

ミニチュアのリングもその一つだ。ホームセンターで購入した木材で土台やコーナーポストを作り、ロープはエアコンのホースを、コーナーポストには断熱材を再利用して作り上げた。

リングのマットには、全日本プロレスで使われているクッション材の発泡倍率を参考にしたものを使用するというこだわりも見られ、大きさは実際よりは小さいながらも、形や色合いは見事に本物を再現。リングに上がることは可能だが、リング上で暴れると壊れてしまう点には要注意だ。

リングの真上には、リングを照らす照明も見事に再現。こちらもホームセンターで購入した木材の板を14等分にカットし、90度と45度の角度で木工用ボンドでつないで作られている。はがれやすい箇所はホチキス針で留め、灰色のカラーペイントを塗って完成。

離れてみると本物そっくりではあるものの、間近で見るとホッチキス針でつなぎ合わせている様子が垣間見え、湯沢さんが一つ一つ手作りした情熱と苦労がうかがえる。

リング周辺の展示にも、湯沢さんのこだわりが詰まっている。

ジャイアント馬場が実際に着ていたパーカー、さらにはアントニオ猪木が使用していたタオルとジャケットは、本人が着ているかのような展示を手作りで再現。本人の身長と同じ高さに合わせているほか、馬場と猪木が最終的には和解した様子を示すために、馬場の左手が猪木の肩にかかっているところもミソ。

自身が見て楽しむよりも、いかに他の方に楽しんで見てもらえるかに意識がいっているからこその、細部まで考え抜かれた展示である。

プロレスラーたちが歩んできた物語が展示に表れているように、湯沢さんのプロレス愛が諸々に感じ取れるのだ。

“極悪女王”の髪の毛も大切に保管

この美術館の凄いのは、実際にプロレスラーが身に着けていたゆかりの品、今では手に入らない非売品グッズなどが多数展示されているところだ。

どれもが貴重な展示品であるものの、ガラス越しではなく剥き出しの状態で展示してあり、触れることができるもの嬉しい。もちろん触れるときは湯沢さんに確認して細心の注意を払ってする必要があるが、こうした自由な点も、個人の運営ならではだろう。

展示物の中でも、最もプロレスラーらしさを感じさせるものが、“人間山脈”と呼ばれたアンドレ・ザ・ジャイアントが実際に使用していたリングシューズだ。身長223センチ、体重236キロで足のサイズは何と39センチ。

間近で見ると、同じ人間が履いていたとは思えない大きさに、誰もが驚きの声を上げるはずだ。

館内に展示されているグッズは、女子プロレスのものもある。代表的なものは、昨年Netflixドラマ『極悪女王』で話題になったダンプ松本の髪の毛だ。

ドラマの中では長与千種がダンプ松本に断髪される衝撃的なシーンが印象的だったが、ダンプ松本自身もライバルである長与千種との二度目の髪切りマッチに敗れて断髪されている。そのときに切られた髪の毛を、袋に入れて今も大切に保管している。この試合を間近で見て髪を拾った人から譲り受けたものだ。

その他にも初代タイガーマスクが身に着けていたコスチューム、タイガー・ジェット・シンが頭に巻いていたターバン、大仁田厚が試合中に身に着けていた流血が残るコスチュームなど、よくこれだけの貴重なアイテムを集められたものだと驚かされる。

小学生からプロレスを見続け、多くのプロレス関係者との関わりがあった湯沢さんだからこそ集められたコレクションだろう。

プロレスの“美”にちなんで美術館と名付ける

個人博物館であるため、館長の湯沢さんが直々に説明をしてくれるアットホームさが嬉しい。すべての展示品に思い入れがあり、どのようなルートで手に入れたかも克明に記憶していることから、一つ一つの展示に対して様々な話があって聞いていて飽きない。

そして展示のみならず、館名にも湯沢さんのこだわりが見られる。いろんな資料を収集した施設は「博物館」「資料館」と名付けられることが多いが、ここは「プロレス美術館」である。施設名を美術館にしたのには、湯沢さんなりの3つの理由があるという。

1つは、昭和の頃に製作された大会宣伝用のポスター、チケットなどのデザインが美しいという点だ。

昭和の時代ポスターは、文字は手書きが多く、色合いやデザインも大会によって様々。そうした個性的で味のあるデザインが非常に美しいと湯沢さんは感じている。

この時代のポスターは今もネットオークションで数万円、時には十数万円の金額で取引されているのだ。

チケットやマッチも、今の時代に改めて見ると多くの人がデザインや色合いに感情が揺さぶられるはずだろう。

2つ目は、試合中に展開されるプロレス技には美しさが必要であること。技の美しさに定評があったレスラーといえば、アントニオ猪木だ。高いジャンプ力により長身である外国人レスラーの脳天を的確に捕らえる延髄斬り、長くて柔軟な手足が相手の全身に絡みつく卍固めなど、しなやかで美しさを備えた技の数々で多くの観客を魅了し続けた。

3つ目は、プロレスは勝つことがすべてではなく“負けの美学”があること。著者自身も、敗れた選手のその姿には幾度となく感情を揺さぶられてきた。かつて引退をかけて戦った橋本真也が小川直也を相手にKO負けを喫し、悲壮感そのままに東京ドームの花道を去るその姿は、今も記憶に残り続けている。

これら3つの“美”から、美術館という名称を用いている。

奥さんを説得し、寝室がプロレス文学館に

オープンから25周年を迎えるこの施設。まだまだ湯沢さんの進化は止まらない。2025年の元日からは、自宅のもう一室をプロレス文学室としてオープン。プロレス美術館とは雰囲気が一転し、こちらは昭和の懐かしさを感じられる畳部屋となっている。

休憩室の要素も兼ね備えており、腰を下ろしながらプロレス関連の資料や映像をじっくり楽しむことができる。

クローゼットの扉には、衝撃的な見出しが見られるかつてのスポーツ新聞をカラーコピーして貼り付け、反対側の壁には、これまたプロレスラーゆかりの品や非売品のグッズ、プロレス関連の書籍などが並ぶ。

元々は寝室だったこの部屋、どうしても文学室を作りたいと奥さんに懇願し続けたことで実現。とはいえ、寝室がなくなってしまい、今は台所の前で布団を敷いて寝ているという。

こちらも、展示の土台など、部屋のレイアウトは全て手作りで仕上げた。コストを最小限に抑えるべく、材料はほぼほぼ100円均一のお店やリサイクルショップで揃えた。総額で2万円以内である。まさに、100均さまさま。

プロレス美術館は生きがい

ここまでの施設を作り上げてきたが、湯沢さんは今年で61歳。どれも湯沢さんが長きにわたって集められた大切なものであることから、自分が亡き後も大切に保管されながら後世に受け継いでもらいたい。そのために、ゆくゆくは信頼ある若い方に引き継ぎたいという。現在はその方法を模索中だ。

取材のさなか、湯沢さんが「ミュージアムを開くことの大切さ」を度々語ってくれたことが実に印象的だった。

「このような小さなミュージアムでも、いろんな方が集う場になっているので、ここがそうした縁を作るきっかけになればすごく嬉しいです」

会社をリストラされた後、家のローンを払うために深夜までダブルワークを続けてきた湯沢さん。

プロレス美術館という生きがいがあったからこそ頑張ってこられたものの、体を酷使してきた代償は今も体で感じるという。

「もう年金暮らしになりましたから、疲労が溜まった体を改善しなきゃいけないですね」

これからは健康管理を意識していきたいと、最後に語ってくれた。

【もっと読む】リストラから奮起「プロレス美術館」作る60歳人生 自宅の一室をプロレス愛と熱狂が詰まった空間に では、プロレスに関するお宝やグッズで埋め尽くされた珍しい個人美術館を作った、湯沢さんの数奇な人生についてお伝えしている。

ギャラリー

丹治 俊樹:日本再発掘ブロガー・ライター

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