「ウーバー配達員になれて良かった」と僕が思う訳 「負け組ランドセル」と嘲笑う人に伝えたい"本音"
東洋経済オンライン / 2025年2月12日 8時40分
相模原市南区で12月3日深夜、フードデリバリー配達員2名が、2人組の男に棒状の物で殴られる事件が相次いで発生した(2024年12月4日付・朝日新聞デジタル)。どちらの被害者も顧客らしき人物に近づいた瞬間、背後から現れた別の男性に複数回殴られたという。
【画像6枚】負け組と思う? 会社員を辞めウーバー配達員になった筆者の自宅の様子
被害に遭った40代配達員は「若い男からいきなり金属バットで殴られた」と110番通報しており、どちらの被害者も金品を奪われるなどの被害はなかった。
ウーバー配達員は見下されている?
この悪質な事件と比べたら、僕の体験は全然大したことないのだけど……ウーバーのバッグを背負って歩道を歩いてる際、自転車に乗った男子高校生に後ろから衝突されたことがある。
その学生はスマホに夢中で、僕の存在に気が付かなかった。慌ててブレーキを利かせたようで、当てられた僕にそれほど痛みはなかったが、問題はここからだ。
【画像6枚】ウーバー配達員は「見下していい存在」なのか? 筆者宅にある「負け組ランドセル」と、寄せられた感謝のチップ
その学生は謝るわけでもなく、ケラケラと笑いながら「お兄さん今ウーバー中? 大変だね。まあ、頑張れよ」と立ち去ってしまったのだ。
きれい事抜きで言うと、ウーバー配達員のことを見下している人、差別的に見ている人は少なくないように思う。その証拠に、僕たちが背負っている四角いバッグ。これを「負け組ランドセル」と笑う人たちがネットには溢れている。
ただし、これまたきれい事抜きで言うと、(暴行などの犯罪は絶対に許してはいけないという前提の上で)ウーバーに対する悪い評価が形成されたことは、「まあ、仕方ないかな……」と思う気持ちもある。
ぶっちゃけ、デリバリー配達員には清潔感がない人が多い(これは連載の中で詳しく触れたいけど、仕事の性質上、汚れたり、服がよれたりするのは、どうしても避けられないことなのだ)。
他にも、飲食店の前でたむろしたり、危険な運転をしたり、つまみぐいをしたり……(これらは配達員の人間性にもよるけど)。
世間からの白い目をヒシヒシと感じるからだろうか。僕は昔も今も(たぶんこれからも)ウーバーの仕事をしていることに、正直なところ、羞恥心や劣等感を抱いている。
だけど、それでも僕はウーバー配達員を辞めない。辞めたくない。なぜならウーバーの仕事は、社会不適合者な僕が「社会の一員」になれる貴重な場所だからだ。
社会不適合者の僕がウーバーを始めたワケ
僕は23歳のときに美容の商社から、29歳のときに運送会社から「クビ」を宣告された。2社で共通する解雇理由は「協調性不足」だ。
僕は学生時代から「これは絶対に違う」と思ったとき、忖度なしで自分の意見を主張する癖がある。頑張って自分を殺した時期もあるのだけれど、ダメだった。
会社の指示(サービス残業や、土日の電話対応など)を全力で拒絶、会社に改善を訴えた僕は、2つの会社から「社会人」に向かないと判断された。
そんな僕がウーバーの仕事を始めたのは、人生2回目の解雇から1週間が過ぎた頃だ。文字通り路頭に迷っていた僕の「雇用の受け皿」になってくれたのがウーバーだった。
なお当時は、新型コロナウイルスによる1回目の緊急事態宣言が発令されていた。志村けんさんがコロナ感染により死去するなど、未知のウイルスに対する恐怖はあったが、生きるためには働かなければならない。
僕は19歳のときから一人暮らしをしている。家賃や食費など、毎月の生活費として最低16万円は欲しい。また大学時代に借りた480万円の奨学金(当時の残債は380万円)の返済が残っており、毎月2万2000円が銀行口座から引かれていく。
解雇後に奨学金は『返済猶予』の申請をしたが、猶予はあくまで猶予であり、返済金額が減るわけではない。これらの事情により、僕にとってウーバーの仕事はあくまで「つなぎ」で、1日でも早く正社員(社会人)に戻りたいと強く願っていた。正社員の方が収入的に安定している。給料も高い。
だけどいざウーバーの仕事を始めてみて、自分の中の認識(常識)がガラリと変わった。
今僕はライターの仕事を本業にしながら、ウーバーの仕事も続けている。収入は会社員時代の半分以下になったが、納得して働いている。
ウーバー配達員としての勤続年数は4年10カ月を超え、配達件数は7000件を超えた。日本一周の距離は約12000キロと言われているので、おそらく優に超えている。
アシストの付いてないママチャリでここまで頑張れたのは、ウーバーという仕事が「社会不適合者の自分に合っていた」からに他ならない。
ウーバーで得られる意外なメリット
ウーバー配達員は時給制ではない。こなした仕事の量によって報酬が決まる。サラリーマンとして「給料を貰う」のが当たり前だった僕にとって、「自分の力で稼ぐ」という働き方は革新的だった。
もちろんこれは見方を変えると「不安定」な働き方になるわけだが、年収や役職など、組織で働いているときに感じた「見えない壁」のストレスがウーバーにはない。好きな時間に働き、好きな時間に休むなど、時間の裁量権まで与えられている。
理不尽な上司や顧客に頭を下げる必要も、わずらわしい人間関係に悩まされる心配もない。一匹狼が似合う自分の「生き方」に、ウーバーの「働き方」は完全にマッチしていた。
「ありがとう」を肌で感じられる仕事だった
飲食店の店員さんや配送先のお客様など、現場と直接つながれる点もGoodだった。会社員の頃、僕は自分の仕事がどのように社会で役立っているのか、正直わからなかった。
もちろん、社会の役に立たない仕事だったわけじゃない。社内の人と接する仕事で、お客さんと直に向き合う職種ではなかったから、どうしても誰かの役に立てている実感が感じられなかったのだ。
だけどウーバーでは、これを直接肌で感じることができる。サーティワンのホールケーキをお届けした際、幼稚園くらいの女の子から「お兄ちゃん、ありがとう!」とめちゃくちゃ感謝されたときは、心が温かくなった。
激坂の上にある一軒家に焼き鳥をお届けした際、年配の男性から「ありがとう。助かった。帰り道にこれで何か飲みなさい」と1000円札を渡されたときは、心の中で笑顔で泣いた。
ウーバー配達員として、過去に配送したお届け先に再度お伺いすることは稀だ。僕はこれまでに7000件以上の配達をこなしてきたが、同じお客様とはたぶん50人もお会いしてない。
だからこそと言うべきか、お客様からチップを渡されたり、お菓子や飲み物を差し入れされたり……相手からの純粋な善意が、ただただ嬉しい。
何度も何度も小さなハピネスが訪れるウーバーの仕事は、「まだ火曜日かよ」「会社行きたくねぇな」と嘆いていた頃の自分には想像できない、「隙あらば働きたいな」といった新しい感情を僕に教えてくれた。
環境が変われば人生が変わる
店員さんとの何気ないやり取りも、社会不適合者の僕にとっては大切な時間だ。
芦屋にある飲食店(無国籍バル)のオーナーから、「今日は暑いから大変だろ。ほら、これでも飲んでけ」とコカ・コーラを渡されたときは、人生の中で一番美味しいコーラだと思った。
マクドナルドや中華屋さん、お世話になっている自転車屋のオッちゃんから「ウーバー辞めてウチで働かないか」と誘われたときもテンション上がった。
ウーバーバイトで、心が再生されていった
20代の内に2回も解雇され、僕の社会人としてのプライドは、なんだかんだで傷ついていた。だけど生活を回すためにママチャリのペダルを回せば回すほど、少しずつだけど、失ったはずの「社会人としての自信」を取り戻せたような気がする。
新卒入社した会社で働いていた頃、僕は先輩上司から「こんなダメ社員見たことない」「早く辞めろ」と言われ続けていた。退職勧奨の一環で草むしりやトイレ掃除、上司から殴る蹴るなどの身体的暴力を振るわれたこともある。
中途入社した会社ではここまでのイジメはなかったが、解雇までの一連の経緯を含め、今でも僕は世にいう「社会人」という生き物があまり好きになれない。
だけど僕はウーバーの仕事のおかげで、社会に「いい人」がたくさんいることを知った。自分が誰かに必要とされる「喜び」を学んだ。環境が変われば「人生の流れ」が変わることに気が付いた。
そんなある日、こんな感情が胸の中に浮かんだ。「ウーバーイーツ配達員になれて良かった」。強がりじゃなく、本心からそう感じたのだ。
今日も僕はママチャリに乗り、神戸と芦屋の街を走っている。誰がなんと言おうと、ウーバーイーツは僕の心を救ってくれたし、誰かの役にも立っていると、信じながら。
【もっと読む】ウーバーの「遅延急増」現役配達員が語る"実情" 報酬減額で超高額案件が生まれる歪な背景とは では、昨今増加しているウーバーの遅延増加について、現役ウーバー配達員ライターの佐藤大輝氏が詳細に解説している。
佐藤 大輝:ライター・ウーバー配達員
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