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八潮市の陥没が暗示する「流域下水道」の時限爆弾 陥没復旧を長期化させる水との闘い【後編】

東洋経済オンライン / 2025年2月13日 7時0分

公共下水道工事 小口径推進工事の立坑用土留(写真:鬼瓦 龍太郎/PIXTA)

前編で解説したように、埼玉県八潮市で発生した道路陥没事故は、現場に集まる水の量が多く、復旧工事の長期化が予想される。現場近辺は内水氾濫(都市型水害)が発生しやすい地域でもあり、夏場にゲリラ豪雨が頻発すれば広範なエリアで2次的な被害が拡大する可能性も否定できない。

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それにしても、なぜ今回の事故は9市3町の約120万人という多くの住民に影響を及ぼしたのか。そこには効率化を追い求めた先の“人災”という側面も見え隠れする。

なぜ120万人に影響が及んだのか

今回の事故は、中川流域下水道の幹線で発生した。流域下水道とは、複数の市町村の生活排水を1カ所に集めて処理するものだ。

下水は、下水処理場に向かって傾斜のついた下水道管の中を流れる。陥没現場は下水処理場に近いため、太い管路(内径4.75メートル)の中を大量の水がかなりの速さで流れている。これはまるで、中川流域の下にもう1つ人工的な中川流域があるようなものだ。

流域下水道は「広域で効率的な処理ができる」などのメリットがある一方、一度トラブルが発生すると「影響が広範囲に及ぶ」というデメリットもあることを事故が浮き彫りにした。実際、中川流域下水道を使用する120万人に節水要請が出された(2月12日12時から解除)。

流域下水道に対して異論を唱える専門家は、この方式が採用され始めた黎明期からいた。今では忘れられつつあるが、各地で反対運動も起きていた。

産業技術総合研究所名誉フェローで横浜国立大学名誉教授の中西準子氏は、『下水道 水再生の哲学』(朝日新聞社、1983年)の中で、次のように指摘している。

「下水道は市町村固有の仕事であり、市町村ごとに下水処理場がつくられてきたが、市町村合同の巨大な流域下水道が昭和40年からつくられるようになってきた。この流域下水道の建設には、一人分の下水を処理するのに単独公共下水道の倍近い経費がかかっている」

「『処理場』という観点からは巨大なほど経済的であると考えられる。しかし、流域下水道には市町村を結ぶ太い管渠が必要であり、これに大変なコストがかかってしまう」

中西氏は、こうした課題を踏まえ、(1)流域下水道を取りやめて単独の公共下水道とすること、(2)人口減少地域では合併浄化槽を活用すること、(3)農村部では簡易な処理方式を採用すること――を40年以上も前に提言していた。

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