自衛隊が挑んだ“大規模リアル射撃訓練”の顛末 戦闘機も出動し「海のギャング」一網打尽 地域の風物詩だった時代
乗りものニュース / 2024年4月23日 16時12分
自衛隊では、部隊が行動する地域の住民との関係を良好に保つため、地域の困りごとを一緒に解決していく活動があります。1960年代、その活動の一環として、なんと北海道でトドに挑んだことがあります。
現実でも自衛隊は“かいじゅう”に縁があった!
自衛隊では、部隊が行動する地域とその地域住民の関係を良好に保つために、地域の困りごとを一緒に解決していく活動があります。それが、「民生協力」「民生支援活動」と呼ばれる活動です。
一番有名なところでは災害支援活動がありますが、そのほかにも、不発弾の処理やマラソン大会の運営協力、お堀の清掃活動、雪まつりでの雪像作りなども、民生協力に含まれます。さらに過去にさかのぼると、有害鳥獣駆除などを担当しており、太平洋に面した北海道新冠町で行われた「トド退治」なども珍しい民生協力のひとつといえるでしょう。その顛末を見てみます。
1960年代、北海道日高沿岸では、押し寄せるトドの被害に悩まされていました。地元の漁協によれば「トドに魚網が荒らされ、漁業資源を食い荒らされている」というのです。
トドは、北太平洋やオホーツク海、ベーリング海に生息する大型の海獣です。オスの体長は3mを超えるほどもあり、魚やイカ・タコなどの頭足類を好んで食します。トドは気性が荒く、網にかかった漁獲物を奪ったり、漁具を破壊したりすることから漁業関係者からは「海のギャング」と呼ばれ嫌われていました。そんな海の荒くれモノが当時の北海道沿岸には数千匹もいたといわれており、日高沿岸だけでも被害総額は年間2000万円(当時)にまで及んでいたそうです。
最初、日高地方の漁師は捕鯨船を借りて捕鯨銃などでの駆除に乗り出しますが、そもそも大人のオスの重量は1トンを超えるため駆除困難なうえに、あまりにトドの数が多かったため効果は薄く、被害に耐えかねた日高新冠町の漁業関係者はついに自衛隊に協力を要請しました。
陸海空の自衛隊が合同で射撃訓練を実施!
要請を受けた陸上自衛隊は、トドの駆除を目的とした射撃訓練を実施することになりました。普段、トドは海岸から見える位置にある岩礁地帯、通称「トド岩」に集まっていることが多く、そこを目標に陸上自衛隊の37mm機関砲や40mm機関砲を撃ち込もうというのです。
さらに、航空自衛隊は上空から、F-86F「セイバー」戦闘機による機銃掃射を行います。さらに海上自衛隊も魚雷艇を出し、機関銃を載せて準備しました。こうして、陸海空3自衛隊による大規模実弾演習がトド相手に行われることになったのでした。なお、当日は訓練の様子を一目見ようと多くの見物人が沿岸に押し掛けたそうです。
実際に実弾訓練が始まると、初弾を撃ち込んだ際の爆発音で、トドのほとんどが逃げてしまったといいます。それでも、参加した各部隊は、その後も弾薬を撃ち込み続け、その威力は、トド岩の形が大きく変わるほどの銃弾の雨を降らせました。
トドは非常に耳のいい動物ですので、大きな発砲音に反応し、「この場所は危険だ」と認識させることができれば十分だったのです。実際に散り散りに逃げたトドたちは、しばらくはトド岩には戻ってこなかったといいますから、トドを標的にせず、岩を撃つだけでも大いに効果はあったといわれています。
こうして、トド退治に成功した自衛隊。地元漁協は喜び、その後数年は、トドが多く集まるようになる春の時期にトド退治演習が行われるようになりました。そしてこのトド退治は、「春の風物詩」のような扱いになり、演習が行われる日には、地元の住人の多くが、海岸に見物に集まるのが通例になっていったようです。
しかし、その後北海道に生息していたトドは環境の変化などにより激減。絶滅が危惧される生物として、保護されることになり、トド退治の演習は幕を閉じました。
現在では、徐々に数を回復させつつあるトドですが、もう、自衛隊による駆除が行われることはないでしょう。当時40mm機関砲が設置された新冠町の海岸には、現在、海馬供養記念碑が建てられています。
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