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満員電車は「違法」です!? 当たり前に許容される法律のカラクリ “鉄道あるある”100年の議論

乗りものニュース / 2024年6月10日 7時12分

満員電車のイメージ(画像:PIXTA)。

乗りものには定員があり、特に自動車や航空機は厳格に守られています。しかし鉄道では「満員電車」なる言葉もあるように、定員を大幅に超えた乗車も日常です。なぜ許されているのか、法律を巡っても様々な見解があります。

列車に定められた3つの定員

 コロナ禍で通勤定期利用者が減少した結果、鉄道の朝ラッシュピーク1時間における平均混雑率は、最大200%から150%以下に減りました。とはいえ100%を超えているということは、未だに「定員」を超える人が乗っているわけです。

 鉄道営業法には定員を超えた乗車を禁止しているように解釈できる条文があります。ひとつは「乗車券ヲ有スル者ハ列車中座席ノ存在スル場合ニ限リ乗車スルコトヲ得」(第15条第2項)、もうひとつは「鉄道係員旅客ヲ強ヒテ定員ヲ超エ車中ニ乗込マシメタルトキハ三十円以下ノ罰金又ハ科料ニ処ス」(第26条)です。

 鉄道には「立席定員」というほかの交通機関とは異なる利用形態があるとはいえ、自動車や航空機は定員が厳格に決められているのに、なぜ鉄道の定員超過は許されるのか。これは「鉄道あるある」な疑問であり、雑誌、ウェブ媒体、個人ブログまで様々な所で語られています。

 まず定員の定義ですが、日本民営鉄道協会ウェブサイトの鉄道用語辞典は、定員とは座席定員と立席定員の合計であり、座席および床面積をJIS規格に定められた値で割って算出すると解説しています。そして「定員超過」が問題ないことを次のように説明しています。

「旅客列車の定員には、座席数を算定した『座席定員』、通常の運行に支障のない定員数を示した『サービス定員』、さらに車両の構造または運転上、それ以上乗っては危険だという員数を示す『保安定員』があります。乗用車や航空機、船舶などは『保安定員』を定員としていますが、鉄道は『サービス定員』を定員としています」

「座席があるときだけ」の規定と矛盾しない?

 日本民営鉄道協会の解説は、前出した鉄道営業法第15条との整合性についても記しています。「鉄道営業法には、『乗車券ヲ有スル者ハ列車中座席ノ存在スル場合ニ限リ乗車スルコトヲ得』と規定されていますが、鉄道車両の定員は『サービス定員』ですので違法にはなりません」と結びますが、サービス定員であろうが定員超過に変わりありませんので、これはやや強引な説明です。

 それはともかく、こうした鉄道業界の「公式見解」はいつから存在したのでしょうか。調べてみると1958(昭和33)年の業界誌『国鉄』に、運輸官僚で当時国鉄総裁室調査役を務めていた山口真弘が「定員乗車論」と題して解説しています。

 鉄道営業法の規定について記事は、「労働組合が順法闘争の種にしたんだが、新聞や週刊誌が、法律の欠陥とばかり書きたてた」と記しており、高度成長で激化する鉄道の混雑を背景に、定員乗車をめぐる論争が起きていたことが分かります。

 しかし、いくら待っても座席のある電車は来ないので、法律を守っていては、乗客はいつまでたっても乗れません。積み残しを防ぐには「強いて」乗り込ませるしかないのです。

 鉄道営業法第15条第2項、第26条が「鉄道の実情にかけ離れた規定」であるのは誰の目にも明らかですが、鉄道官僚や事業者は現状を「違法」と認めるわけにはいきません。

 そこで編み出されたのが、第15条第2項は「利用者に座席が存在する場合に限って」乗車する権利があることを指し、座席がないからといって債務不履行を理由とした損害賠償請求はできないことを意味する、という解釈です。

 第15条第1項は「旅客は(略)乗車券を受くるに非ざれば乗車することを得ず」として、事業者と旅客とのあいだの運送契約について定める条文なので、第2項は旅客の権利に関して補強する内容であると整理したのでしょう。

満員電車に“乗ってはいけない”とは書かれていない?

 また第26条は、第2章「鉄道係員」の項にあることからも分かるように、鉄道係員が乗客を無理やり押し込むのを禁止しているのであり、乗客が任意で定員を超えて乗り込むことを禁じてはいません。こうして現実と法解釈は無事、整合しました。

 そもそも鉄道営業法は、「満員電車」という概念のない1900(明治33)年に制定された古い法律です。山口は「合理的な解釈」を示す一方で、無理に整合性を持たせたとしても「社会一般の理解を得ることは困難」であり、改廃を含めた議論が必要であると指摘しています。

 通勤ラッシュが誕生した1920年代はどうだったのでしょうか。後に鉄道省鉄道次官に就任する喜安健次郎は、1921(大正10)年に出版した解説書『鉄道営業法』で、第15条第2項は「たとえ乗車券を有するも座席に余裕ある場合に限りて乗車し得べきものとし、乗車に制限を加えたるもの」と明言しています。

 喜安によれば、この項目は出発地から目的地まで乗車券を持っている長距離客が優先され、途中駅からの乗車は座席に余裕がある場合のみ認められるという、乗車の順番を定めたものでした。山口の記事までの約40年で「解釈改正」されたというわけです。

 第26条については「旅客が自ら定員を超えて乗車せんとするとき、係員はこれを制止し得るは勿論なるも、単にこれを黙認したるにとどまるときは本罪成立せず」とあります。「乗客が任意で定員を超えて乗り込むことは制限されない」というのは、100年前から同様の解釈だったようです。

 いつの時代の記事であっても、解釈と同時に指摘しているのは、定員を超えて詰め込まなければならない輸送状況は問題であり、事業者は十分な座席を提供できるよう努力すべきということです。

 コロナ禍で一旦は大幅に緩和された混雑ですが、減便と利用の回復があいまって戻りつつあります。定員をめぐる議論からは、事業者が乗客をどのように考えているかが透けて見えてくるのです。

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