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爆売れ戦闘機「ファントムII」はなぜ異形の翼に? 傑作機が“あの形”になるまで

乗りものニュース / 2024年6月1日 6時12分

航空自衛隊のF-4EJ改「ファントムII」(画像:航空自衛隊)。

生産総数5195機、西側の超音速ジェット戦闘機として最大の生産数を誇るF-4「ファントムII」戦闘機。ユニークな外形が特徴ですが、なぜそのようになったのでしょうか。

風洞実験で「翼上に反らせよう」!

 生産総数5195機、西側の超音速ジェット戦闘機として最大の生産数を誇るF-4「ファントムII」戦闘機の1号機は1958年5月27日に初飛行しました。航空自衛隊の主力戦闘機としても活躍し、日本でも人気のある戦闘機ですが、その特徴的な外観もファンを惹きつけるものがあります。

「ファントムII」は上反角がついた外翼、そして下反角のついた尾翼を持っています。これは本機を設計した戦闘機の名門、マクドネル社(当時)が行った風洞実験の結果に基づいています。

 これにより、飛行安定性を確保するには主翼に5度の上反角が必要と判明したものの、このときには内翼部分の設計がすでに完了していました。そのため、外翼部分にのみ12度の上反角を与えるという方法が採用されました。上反角が始まる部分には空母で運用するための折り畳み機構があります。

一方、尾翼に下反角がつけられているのは、機首を上げて迎角を取った時でも十分な効きを確保するためです。この尾翼には下面失速を防止するために小型の固定式スラット(翼前縁に備わる高揚力装置)があります。

なんで5000機以上もつくられたの?

 5000機を超える大量生産が行われた理由は、本機の優秀な性能に加え2つの理由があります。

それはベトナム戦争の長期化、そしてマクナマラ国防長官(当時)の方針で、海軍が採用した本機を空軍でも使用することになったことです。アメリカ軍では結果的に、海軍、空軍、海兵隊の三軍が「ファントム」を使用しました。空軍の展示飛行隊サンダーバーズと海軍のブルー・エンジェルスの双方がF-4戦闘機を使用していた時期もあり、まさにアメリカを代表する戦闘機であったといえるでしょう。

 そもそも本機は当初、アメリカ海軍の艦隊防空戦闘機として計画され、海軍初の全天候戦闘機として開発されました。レーダー誘導ミサイルの運用能力とともに大きな主翼と強力なエンジンを2基備えていたため、8トンを超える兵装搭載能力を持っていました。そのため、戦闘爆撃機としての能力を備えていました。

 この多用途能力に目を付けたのが、ケネディー大統領に任命されたマクナマラ国防長官です。同氏は費用対効果を最優先する方針を掲げて海軍・空軍共通の戦闘機としてF-4の導入を推進しました。

傑作機でもあった「弱点」…どう克服?

 このアメリカの動きに追従したのがイギリスです。イギリスでも海軍と空軍の両方でF-4戦闘機を採用しました。イギリスが発注した機体は、ゼネラル・エレクトリック製のJ79エンジンではなく、ロールス・ロイス製スぺイを搭載しています。

 スぺイはファンエンジンのためJ79に比べ強力で低燃費なのが特徴です。また、機体側面に空気取り入れドアがあるのとエンジンノズルの形状が異なることがイギリス機の外形上の特徴でした。

 そのようなF-4戦闘機が最初に経験した実戦がベトナム戦争でした。しかし、そこでは小型軽量のソ連製ミグ戦闘機を相手に苦戦を強いられます。そのミグ戦闘機との空中戦で、F-4戦闘機の空力的な弱点も判明しました。

というのも、急旋回などでしばしば遭遇する高迎え角での機動中に補助翼を操作すると、パイロットが意図した方向とは逆方向に「ヨーモーメント」と呼ばれる力が発生し、機首が操縦と逆の方向を向いてしまい、操縦が難しくなることが判明しました。この現象は補助翼のアドバースヨーとしてよく知られた現象ですが、高迎え角時のF-4戦闘機ではこれが原因で瞬時にスピンに入ってしまう傾向が指摘されていました。

 この対策として主翼の前縁と後縁にスラットやフラップ(翼の後縁の高揚力装置)など様々な仕様で飛行実験が行われた結果、スラットが最も効果的であることが判明しました。空軍では1972年から全てのF-4Eにスラットを装備することになり、海軍でも既存機の近代化改修時にスラットを取り付けF-4Sとする工事が行われました。スラットを取り付けたF-4は高迎え角時の飛行安定性とともに離着陸性能も向上したと報告されています。

 航空自衛隊のF-4EJにはこのスラットは装備されませんでしたが、レーダー換装をはじめとする能力強化が行われ2021年まで活躍していたことは記憶にも新しいところです。

 F-4戦闘機はすでに多くの国では退役していますが、歴史的にも重要な航空機であることは間違いありません。そのため、各国の博物館で保存されていますが、アメリカではF-4Dの一機が歴史保存活動を行っているコリンズ財団により飛行可能な状態で維持されています。航空ショーで往時の勇壮を眺めることもできるでしょう。

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