海自の練習艦ついに「ネット開通」で世界が変わる! 動画も見放題!! 危険のタネだった“Wi-Fi飢餓”解消の意味
乗りものニュース / 2024年6月3日 9時42分
スペースX社の通信サービス「スターリンクMARITIME」。海自の練習艦にも試験導入され、遠洋練習航海でその利用実態などを確認しています。外洋でネット環境を手に入れられることは、乗組員のモチベーションにも影響します。
ネット環境を求めて座礁事故も
「乗組員として嬉しいし、ありがたい」
海上自衛隊初となる新装備が練習艦「かしま」に取り付けられました。それは新兵器の類ではなく「スターリンク」です。アメリカのスペースX社が運営する「スターリンク」は衛星インターネットコンステレーションで、地球上のほぼ全域でインターネットアクセスを可能にします。ロシア・ウクライナ戦争ではウクライナ軍が使用して注目されています。
現代生活においてスマホは必需品であり、電波強度やバッテリー残量のステイタスアイコンが行動を左右する要素にもなっています。災害発生時に充電可能ポイントが広報されるのも当たり前になりました。
しかし海では陸から遠ざかるにつれてキャリアの電波が届かなくなり、スマホが使えなくなります。国内航路でもフェリーに乗船しているとネットが繋がらなくなる経験をすることがあります。1~2日程度であれば「圏外」も我慢できますが、これが何週間にも及ぶと社会から孤立したような心理に追い込まれていきます。
たとえば2020年7月25日、パナマ船籍の貨物船「わかしお(WAKASHIO)」がモーリシャス沖で、座礁して燃料油を流出させる事故を起こしました。日本の運輸安全委員会が公表した最終報告書によれば、船はモーリシャスに寄港する予定がなく、詳細な海図を持っていないにもかかわらず、乗組員がスマホのための電波を受信しようと島に接近したことで浅瀬に乗り上げたとしています。外洋航路乗組員がネット環境に「飢えている」現実が浮かび上がりました。
練習艦「かしま」と「しまかぜ」でWi-Fi利用可
海上自衛隊でも同様の問題を抱えています。令和の時代に入っても、外洋におけるネット環境はメールが1日1往復程度。相手も家族、友人など事前登録が必要で、使用は個人端末から艦内サーバーに集約し、決まった時間に商用衛星通信でまとめて通信を行うという状態です。YouTube視聴など夢物語という有様で、乗組員は外国に寄港するとWi-Fiを求めてスタバを探したり、ホテルにわざわざ外泊したりするそうです。
ちなみに人気のある泊地が、Wi-Fiの使える自衛隊のジプチ拠点です。しかし外洋でネット環境がないということは、福利厚生上の大きな問題でもありました。
そんな「Wi-Fi難民問題」を解決するのが、2023年7月にサービス提供を開始した「スターリンクMARITIME」です。制度が改定されて利用可能エリアがこれまでの領海内から領海外まで拡大したことに伴い、民間船では2024年3月、「さんふらわあ さつま」で試験導入されましたが、海自でも早速導入を決定したのです。
2024年2月に総務省が認可し、5月には練習艦隊の練習艦「かしま」と「しまかぜ」に、横須賀でアンテナやルーターの取付工事が行われました。「スターリンクMARITIME」のサービス導入検討から実際の取り付けまでの進捗は早く、それだけ切実な問題になっていたことを示しているようです。
装備された器材は市販品で、両艦にそれぞれアンテナ2基を設置しました。艦内のルーターは食堂に置かれており、食堂内と一部通路で通信できます。将来的にはルーターを増設して、寝室でも通信可能にしたいとしています。
外洋でYouTubeが見られる!?
5月20日からの令和6年度遠洋練習航海で試験が実施されており、その内容は世界中の通信状況変化を確認すること。器材の耐久性や実際の通信量、福利厚生として乗員間のパケット割り当て、パケットプランの最適条件の見極めなどです。使い勝手は新幹線や旅客機のWi-Fiサービスと同じということなので、対応端末の機種や利用者数などによって、通信の遅延や接続しづらくなる事象は起こりえるそうです。
「かしま」では勤務時間外であれば使用に制限はなく、動画など大容量通信も原則自由で、YouTubeも見られることになりそうです。通信の常時監視も行わないとのこと。練習艦隊は行動を公開しており、保全上の制約が少なく世界中を航海する点で試験には好都合です。デジタルネイティブ世代の訓練実習生にとっても「嬉しいし、ありがたい」ので、最初の導入が練習艦という理由も納得です。
乗組員のネット環境問題はどの国の海軍でも課題としており、スターリンクは解決策として注目されています。アメリカ海軍でも導入が始まったほか、海上自衛隊では今後3年程度で9割の艦艇に装備していくことを目標にしています。
ネット環境は衣食住と同レベルの生活必需アイテムであり、単なる福利厚生以上に兵站(作戦を行う部隊の移動と支援を計画し、また、実施する活動を指す)のひとつになっています。練習艦の甲板に付いた小さなアンテナは目立ちませんが、海自の戦力維持に重要な役割を果たすことが期待されています。
艦内では現在、「真水の節約」が謳われていますが、今後は「パケット使用量の節約」などという語句が掲出される日が来るかもしれません。
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