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ステルス機と真逆「すごくない戦闘機」の系譜 今も愛される高コスパ機 俺たちゃこれで十分だ!

乗りものニュース / 2024年6月15日 18時12分

ベトナム戦争中にラオス王立空軍に移管されたノースアメリカンT-28D-5。T-28練習機の武装強化型(画像:アメリカ空軍)。

21世紀になってもレシプロ機が主流、という軍用機の系譜が存在します。超高性能、かつ超高額な最新鋭ステルス戦闘機を尻目に、世界の戦場で使われ続ける「COIN機」とは一体何なのでしょうか。

“すごくない軍用機”、COIN機とは

 第2次世界大戦後にジェット化が進んだ戦闘機は、レーダーなど高度な電子機器を搭載するようになり、空中戦だけでなく対地攻撃の任務も兼ねたマルチロール機が登場し、最新の第6世代戦闘機ではステルス性が付与されるようになりました。

 しかし、こうした主力戦闘機は卓越した性能をもつものの、開発コストだけではなく、製造費も、配備後の維持費もなにもかも、とにかくお金がかかります。そのため、任務によっては費用対効果が悪く、低価格で性能が“全然すごくない”軍用機というのも連綿と存在し続けています。それが、本稿で紹介する「COIN航空機(COIN機)」です。

“COIN”とは“Counter Insurgency(対反乱)”の略称で、正規軍同士の戦いではなくゲリラやテロリスなど反乱軍を相手にした非対象戦において使用されることを意味します。

 第2次大戦後、東西冷戦期を通じて大国間が直接戦火を交える機会は減りました。しかし、戦争は地域紛争や内戦に姿を変えることになり、そうした変化に呼応し、主力戦闘機とは別に安価で多用途、そして費用対効果に優れた軍用機が求められるようになりました。これらがCOIN機と呼ばれるようになります。

 COIN機の源流は1950年代に起きたアルジェリア戦争までさかのぼります。この戦いでは、ゲリラ戦法などを駆使する各地の独立勢力に対し、フランス軍が低速で空から地上の動きを監視できる練習機や輸送ヘリを武装化し、対ゲリラの掃討戦に投入しました。これが先駆けとなり、のちのCOIN機につながったと考えられます。

 その後、ベトナム戦争をきっかけにCOIN機のスタイルが確立することになります。フランスのインドシナ戦争を引き継いでベトナムに軍事介入したアメリカは、F-4ファントムII戦闘機やB-52戦略爆撃機を投入する一方で、対ベトコン(共産ゲリラ)用にレシプロ練習機や輸送機、軍用ヘリなど既存の航空機をベースにした軽攻撃機を試験投入し、COIN機のコンセプトを固めていきました。

多岐にわたるCOIN機の役割

 一言でCOIN機といっても機体や役割は様々です。戦闘地域の奥深くに侵入する偵察のほかに、爆撃機や攻撃機による敵陣地への攻撃に先行する航空管制、それに加えて自身も軽攻撃機としての役割を担うこともあります。また、宣伝ビラや拡声器でプロパガンダを行う心理作戦、工作員や負傷者の収容などにも使われます。

 新鋭戦闘機のパイロットには高度な知識や技量を求められるのに対し、COIN機は多くの場合、練習機や観測機、連絡機などがベースとなっているため、技量が低くても任務がこなせます。そして、機体自体も安価でメンテナンスが容易なので、任務における費用対効果が向上するのです。ただ低高度を低速で移動するため、精度の高い対空火器や短射程の携帯式対空ミサイルに弱く、運用の前提として航空優勢を確保しておく必要があります。

 使用火器としては機関銃、機関砲、ロケット弾など無誘導の兵器が中心です。相手は地上目標であれば、人のほか改造したピックアップトラックなど、航空機の場合は武装した人員の乗ったヘリ程度なので、それで十分なのです。

長命なCOIN機、セスナA-37「ドラゴンフライ」

 ベトナム戦争ではこうした任務をレシプロ機や軍用ヘリに担わせていました。やがてそれぞれの役割に適した性能を強化した機種が生み出されることになります。
 
 COIN機で最も多いのが練習機をベースにしたものです。その代表的な機体にA-37「ドラゴンフライ」があります。これはCOIN機としては珍しいジェット機で、セスナ機で有名なセスナ社が1956(昭和31)年に運用を始めたT-37練習機を武装化したものです。

 ベトナム戦争中の1967(昭和42)年にA-37として各種の任務に投入されています。アメリカがベトナムから撤退する際にはこの機体が100機近くベトナム軍に捕獲され、その一部は共産圏に流出しました。

 A-37は退役後、中南米諸国に売却され、2000年以降も麻薬密売組織の取り締まりや反政府勢力に対する航空作戦に使われています。

今も世界で製造され、使用され続けるCOIN機

 大国間の戦争が減少し、新鋭戦闘機が実戦で使われる機会がほとんどない一方で、COIN機は中南米や東南アジア、アフリカなど紛争地域で、その優れた費用対効果のため実用的な機体として使われ続けています。

 その供給元として、2000年代からブラジルが存在感を発揮しています。同国のエンブラエル社が生産し2003年から運用されているEMB-314「スーパーツカノ」は、麻薬密輸組織などの対策からターボプロップ練習機のEMB-312「ツカノ」をベースに開発された機体で、ブラジルのほか、アフガニスタン、アンゴラなど計17か国で使用されています。

 また、トルコのトルコ航空宇宙産業(TAI)も新しいCOIN機として複座の単発ターボプロップ機TAI「ヒュルクス」を2016年に実用化し、すでにニジェールとチャドに納入済みです。さらにトルコ政府は同機を中東やアフリカ諸国に輸出することを計画しています。

 また、現在のウクライナ戦争で有効性が注目されているドローンは、偵察や軽度の攻撃が可能であり、かつそのコスト面から、COIN機と同じような運用法をされる兵器でもあります。これらの事実は、「戦争は高額な最新鋭の装備のみで、どうにかできるものではない」という戦訓を示していると言えるでしょう。

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