だって「ミサイルもったいない」 戦闘機の“機関砲不要論”くつがえるか 考えざるを得ない“コスパ”
乗りものニュース / 2024年6月25日 6時12分
戦闘機はおよそ100年のあいだ、機関砲を搭載するか否かは議論が繰り返されてきました。そこには空対空ミサイルの存在が大きく、その技術や精度によって機関砲の立場も揺れ動きました。そして現代でも、完全消滅とはならなさそうです。
一度復活した機関砲
戦闘機に求められる装備について長年、決着のつかないひとつの論争があります。それは「戦闘機に機関砲を搭載する必要はあるのか」という問題です。
1910年代に戦闘機という機種が誕生して以降、最初の約40年については、戦闘機とは機関砲によって金属を空中に投射する存在であったといってよく、機関砲が最も重要な装備であったことに疑いの余地はありません。しかし1958(昭和33)年に誘導装置のついたロケット弾、すなわち空対空ミサイルが史上始めて実戦投入されると、機関砲は微妙な立場に追い込まれることになります。
戦闘機の戦いは空対空ミサイルの撃ち合いになるであろうという予言のもと、1960年代以降は数多くの機関砲を持たない戦闘機が誕生します。例えばMiG-21「フィッシュベッド」やF-4「ファントムII」などです。
しかしこの予言は時期尚早でした。初期の空対空ミサイルは発射条件が非常に厳しく、ミサイルの最小射程を割ってしまう距離での交戦も少なくなかったことや、信頼性も低かったことから、機関砲が適した状況も少なからず発生することが明らかとなると、前述のMiG-21やF-4にも機関砲が取り付けられ、また1970年代以降に開発された戦闘機の多くが機関砲固定搭載機となりました。
機関砲は復活しましたが、同時に空対空ミサイルの性能向上も絶え間なく行われていたことから、発射条件や信頼性の問題は徐々に解決されていきます。1980年代以降になると、空対空ミサイルは非常に高い確率で撃破を期待できるようになり、実際の空中戦でも機関砲が使われることはほぼなくなりました。このため機関砲は不要なのではないかという議論が消えることはありませんでした。
2000年代に入ると適切な条件下で発射された空対空ミサイルは必中を期待できるようになりました。もはや相手の空対空ミサイル射程に入ることは自殺行為となり、その結果、機関砲によるドッグファイトを挑むという行為は完全に廃れ、平時の信号射撃(警報射撃)やもっぱら対地攻撃専用の装備であるとみなされるようになります。
相手の兵器に応じコスパで考える
そして再び機関砲を持たない戦闘機が誕生します。F-35は通常離着陸型のF-35Aだけが機関砲を固定武装として搭載しており、より重量制限に厳しい垂直離着陸機F-35Bや空母艦載機型F-35Cについては搭載されていません。F-35B/Cは必要な場合にのみ機外に機関砲ポッドを搭載します。
では、機関砲はまた不要な装備とみなされてしまうのでしょうか。その結論はまた先延ばしになりそうです。
2024年4月14日、イランはシリアの首都ダマスカスにあるイラン大使館領事部への爆撃への報復として、無人機とミサイルにより、イスラエルへ報復攻撃を実施しました。この攻撃は弾道ミサイル100発以上、巡航ミサイル30発以上、ドローン150発以上にも及ぶ大規模なものでしたが、イスラエル当局の発表によると99%が迎撃され、イスラエル領内到達前に無力化したとされます。
このうち大気圏外を飛翔する弾道ミサイルを除いた亜音速の巡航ミサイルや比較的低速のドローン迎撃については、イスラエル、アメリカ、イギリス、フランス、ヨルダン、サウジアラビアなどの空軍戦闘機が参加する大規模な防空戦闘が行われたとみられ、特にアメリカ空軍機によってその大多数が撃墜されたとみられます。
戦闘機による迎撃戦闘のほとんどはAIM-9「サイドワインダー」やAIM-120「アムラーム」のような空対空ミサイルによって達成されたとみられ、実際の戦闘の映像もいくつか公開されています。しかし少数ながら機関砲によって撃墜した事例もあったことが明らかになっています。
空対空ミサイルはAIM-9のような安いミサイルでも何千万円もする高価な装備です。巡航ミサイルは約1億円程度ですが、長距離自爆型ドローンは数百万円程度ですから、空対空ミサイルを使うには「もったいない」標的であるといえます。一方の機関砲は一度に50発程度を発射すると仮定すると、射撃単価は100万円程度で済みます。
回避機動をとらない相手には機関砲でも高い撃破率を維持できますから、機関砲は対巡航ミサイル・ドローンには「コスパが良い」武装であるといえ、戦闘機搭載機関砲の価値が今後、見直されることになるかもしれません。
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