列車が燃えても定時運行!? 勇気ありすぎるウクライナ国鉄“戦時の日常” 国民の圧倒的支持!
乗りものニュース / 2024年6月7日 6時12分
ロシアの攻撃に晒されながら営まれているウクライナの日常生活を支える存在のひとつが、ウクライナの国鉄です。高い定刻率で運行を続ける鉄道から、想像だにしないウクライナの戦時の日常が見えてきます。
ウクライナ国鉄グッズ大人気!
ロシアの一方的なウクライナ侵略から2年以上が経ちました。ウクライナ政府の発表によると、戦争勃発時には400万人の避難を助けたウクライナの国鉄、ウクライナ鉄道ですが、2024年現在も戦時下だというのに定刻率93%という驚異的な正確さで定期運行を続けています。そんな大奮闘から、ウクライナ鉄道は固い決意と絆の象徴となり、その評価はうなぎのぼり。国民からの圧倒的な支持を得ています。
2022年11月3日にキーウ中央駅の中に開店したウクライナ鉄道オフィシャル・グッズのショップ「鉄の店(The Iron Shop)」も、2万人以上のインスタグラムのフォロワー数を誇っています。鉄道の長旅に重宝しそうなブランケットや靴下、トラベルポーチなど様々な商品がありますが、「鉄の勇気(Iron Bravery)」のキャッチフレーズの下にウクライナ鉄道のマークが刻印されているカップホルダーは、ゼレンスキー大統領が手にしている写真も掲載されています。
中でも特に売れ筋の商品は、戦争前の平和だった頃の時刻表を胸にプリントしたTシャツです。というのも、時刻表には、現在はロシアの占領下にあるウクライナ東部の地域、ドネツクやメリトポリ、ケルチなどの駅名があるため、「いつかまた奪還して元のウクライナに戻ろう」という悲願がこもったメッセージ性からお土産に買って帰る人が後を絶たないのです。なかには、鉄の結束にあやかろうと、時刻表Tシャツを着て結婚式を挙げたカップルもいたそうです。
一時期は乗客数も減っていましたが、2024年1月から4月間のウクライナ鉄道の乗客数は843万人に上り、前年同期比で25%増となりました(ウクライナ鉄道による)。特に夏は疎開先の欧州から祖国に帰るバカンス客などでウクライナ行きの列車は超満員になるそうです(欧州強靱化イニシアティブセンター創設者のセルゲイ・スムレニー氏による)。
ウクライナ鉄道に関して、こうしたほのぼのとしたエピソードも聞かれるなか、では、「戦時下で遅延なく定期運行」とは、具体的にはどのようなことなのでしょうか。そこには戦火を恐れず鉄道に命を捧げる職員たちの姿がありました。
戦時下の鉄道常識「砲撃されてもまず走れ」
2023年5月3日、ウクライナ南部のヘルソン市がロシア軍からの砲撃を受けました。ヘルソン市は2022年にロシアが一方的にウクライナへ侵略してから一番最初に陥落した主要都市で、その後、9か月間の攻防の末に奪還された経緯があります。現在も日々、ロシアからの攻撃が絶えないのです。
砲撃が開始されるや否や、駅職員たちは即座に体が不自由な乗客2名を担いで、その他の乗客とともに防空壕へ避難させました。砲撃が止んで防空壕から出てみると、ちょうど停車中だったリビウ行きの客車1両から火が上がり、車掌が一人、負傷していたのです。
平時の常識では、まずは消火をして、列車は運休。ほかの車両に異常がないか点検した後で復旧作業ということになるかと思いますが、戦時下での鉄道員の常識はまったく違いました。
燃え盛る車両を大急ぎで切り離し、残りの車両に乗客を乗せ、たった14分の遅延で列車はリビウに向けて発車。翌朝にはウクライナ西部、ポーランドとの国境近くのリビウ市に定刻通りに到着という「神運行」を成し遂げたのです。
これは「戦時下でも定時運行を」という意地ではありません。ロシアが砲撃に使うミサイルやドローンは精度が高くなく、100km/hで走る列車を正確に攻撃する能力はロシア軍にはないため、列車を走行させた方が攻撃をかわせ、乗客の命を守れるのです。駅の防空壕で乗客を避難させていて駅ごと吹き飛ばされることを避けるため、乗客全員を急がせて列車で緊急脱出するという冷静な判断を瞬時に下して行動しました。
ひとり一人の鉄道員が瞬時に判断し、適切に動き、人命を第一に、正確な運行を第二に頑張っている。そんなウクライナ鉄道の功績がウクライナ国民の心の支えとなっています。
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